ITを活用したデジタル医療ベンチャーが続々と誕生する中、ひときわ異彩を放つ企業がある。NAMだ。同社が掲げるビジョンは、AI(人工知能)やブロックチェーンによって旧来の医療システムに新たな仕組みを設けること。業界に風穴を開ける取り組みだ。医学部在学中から医師にならずに業界を変えようと考えてきた中野哲平社長に思いを聞いた。

NAM(社名はNakano AI Medicalの略称に由来)は2017年10月に設立したばかりの医療ベンチャーである。同年3月に慶應義塾大学医学部を卒業した中野哲平氏が中心となって起業。昨今、医療関係者が立ち上げる医療ベンチャーは増えているが、NAMも中野氏をはじめ医療のバックグラウンドを持つ4人のメンバーが在籍する。

NAM代表取締役社長 中野哲平氏

AIクリニックを開業、自らのフィールドで最先端医療を実践する

同社は「AIとブロックチェーンで医療に革命を起こす」ことを標榜する。革命といっても、現行の医療の仕組みを破壊するものではない。むしろ今の保険医療を補完し、医療サービスの幅を広げることを目指す。例えばチャットボットなどを利用することで医療現場の負担を減らし、診察の精度を高める。さらにAIによる分析とブロックチェーンを活用して、自由診療の領域で新たなサービスを生み出し、それをフランチャイズ展開することを目標としている。

同社が最終的に実現したいと考えているのは、誰もが、どこにいてもいつもと変わらない、そして質の高い医療サービスを受けられる環境を作ること。人口減少に伴って労働力が減っていくのは医療分野も例外ではない。そんななかで、高度な医療を受けられる条件は一層厳しくなる。医師のスキルを高めるとともに、診察に関係する作業を軽減する必要がある。

その背景として中野氏は、現在の日本の医療における3つの課題を指摘する。1つめが、診療後の患者の経過が分からないこと。2つめが、電子カルテが50%程度(厚生労働省『医療施設調査』平成26年版。200~399床の一般病院で50.9%)と低いこと。そして3つめが、新薬や新検査手法の承認の度合いが欧米に比べて遅れていることである。

医師には「患者は具合が悪くなれば来院する」という考え方が根強く、診察後にどのような経過になっているかは、次に来院するまで分からない。来院の数日後に連絡を取って様子をヒアリングするなどアフターケアに注力すると、人手がかかりすぎることから、改善が進まず、医療の質が高まりにくい。優秀な医師の数が減れば、やはり医療の質の低下につながる。医療サービス全体で、この質を高める工夫が必要だろう。

電子カルテが浸透していないことも、医療の品質向上が進まない原因の一つだ。すべての医療機関が共通フォーマットの電子カルテを導入し、患者のプライバシーを確保しながらカルテデータを共有できるようになれば、患者にとってはどこにいても医療機関にかかりやすくなる。ただ、電子カルテのデータ入力は、医師から診療時間、あるいは休息の時間を奪う。効率的に使える仕組みづくりが欠かせない。

一方では、AIを使って様々な症例や最新の医療技術を参照し、疾患の可能性や適切な治療法の候補を抽出することは、素早く的確な診断・治療につながる可能性が高い。医師のスキルをAIが補うため、かかっている医療機関による品質の差もあまりなくなる。ところがAIを利用しようにも、肝心の患者の診療データがデジタル化されていないケースが多い。まずは、データの収集と、電子カルテの浸透をはからなければならない。

新薬・新検査の承認については、その遅れのために日本では保険診療で受けられる最新医療が、海外より4年分ほども遅れているという。