「歳を重ねても自立して健康な生活を送れる身体をつくる」。世界最速で超高齢社会に突入し、社会保障の仕組みが限界に近づいている日本にとって、“健康寿命”の延伸は喫緊の課題である。そのために欠かせないのが、老化のメカニズムを解き明かすこと。いわゆる「アンチエイジング医学」がそうだ。老化を科学し、高齢になっても社会で活躍し続けられる身体をつくれれば、若者世代に頼ることなく現行の社会保障をそのまま維持していくことさえできるかもしれない。今回は、モデル生物の研究結果から老化のメカニズム解明に挑んでいる例を紹介しよう。

“人生100年時代”が現実になりつつある。実際、日本では100歳以上人口がハイペースで増加。2017年9月1日現在では6万7824人と、前年より2132人増えて過去最高を記録した。

そんな中で重視されているのが、自立して健康に生活を送り続けられる「健康寿命」を、平均寿命に近づけること。つまり、死を迎える直前まで、自立して生活していられるようにすることである。病院や介護施設の世話にならない高齢者が多くなれば、それだけ医療費・介護費が圧迫されずに済む。

健康寿命延伸の取り組みでは、規則正しい食生活や適度な運動など高齢者の生活習慣を変える施策に注目が集まるが、その一方で科学的根拠に基づいて老化を遅延させる「アンチエイジング医学」の研究も進んでいる。

老化研究は日本の必修課題

高齢化の先進国であり、医療を含む社会保障制度の課題に直面している日本にとって、老化に関する研究と、健康寿命の延伸策は最重要テーマの一つといっていい。2001年には医師や医生物学研究者らが中心となって「日本抗加齢研究会(現・日本抗加齢医学会)」を設立。年1回の総会を開いて研究報告などを行っている。同志社大学や近畿大学、自治医科大学ほか、専門機関を設けて老化研究を行う大学も増えてきた。

文部科学省(文科省)は2016年に「老化研究の方向性について(案)」を発表。これまでの個別疾患に偏ったタコツボ型ではなく、広範な分野をまたぐ横断型により老化研究を推進すべきだと提言し、日本医療研究開発機構(AMED)を通じて「老化メカニズムの解明・制御プロジェクト」を開始した(図1)。

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(図1)文科省が示した老化研究の実施体制(構想案)
 出所:老化研究の方向性について(案)

同プロジェクトを推進する1人である先端医療振興財団 先端医療センターの鍋島陽一センター長は、1997年に現・自治医科大学 分子病態治療研究センター 抗加齢医学研究部の黒尾誠教授らとともに、老化およびそれに伴う疾患と関わりが深い遺伝子を発見した。抗老化遺伝子「Klotoh(クロトー)遺伝子」である。鍋島氏は、クロトー遺伝子の機能が損なわれた実験マウスが動脈硬化、骨粗しょう症、肺気腫、皮膚の老化など、ヒトの老化によく似た疾患を多数発症することを解明。クロトー遺伝子による老化疾患の抑制メカニズムに着目して研究を進めている。

AMEDの支援プロジェクトには、細胞の老化を防ぐ酵素「SETD8」の研究もある。SETD8は、熊本大学発生医学研究所細胞医学分野の中尾光善教授、田中宏研究員らが発見したもので、細胞増殖や数多くの遺伝子の働きを調節する役割を負う。正常な細胞でSETD8の数が減ると、細胞の老化が早まることから、SETD8が細胞老化の防御因子だと考えた。中尾教授らは、ここから老化の基本メカニズムを解き明かし、制御法の開発につなげたいと意欲を燃やす。