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東日本大震災から5年目の今年、再びママの防災を考える

(2016/01/05)

 新年おめでとうございます。読者の皆さんにとって、2015年はどのような年だったでしょうか。2016年はどんな年にしたいですか?

 今年1年が、読者のみなさんにとって、うれしいことがたくさんある年になるよう、お祈りしています。

 私にとって、2015年は、「災害」から「ワークライフバランス」まで、自分の色々な体験をアウトプットする機会に恵まれた1年となりました。

 少し前までは、学生で、新米研究者で、妊産婦で・・・どちらかというとインプットの方が多かったような気がします。人に助けてもらうことばかりで、教えてもらうことばかりで、自分の小ささをひしひし感じることの方が多い毎日でした。自分一人の体験から学んだこと、気づいたことだけでは誰の参考にもならない、役に立たないと思っていたような気がします。

 昨年は、そんな私が、「自分の体験」「自分の経験」に、もっと自信を持とう、もっとほかの人の役に立ててもらおう、と頑張った年でした。それというのも、私がとても大切に思っている「子どもを育てている親に対してねぎらいや愛情が注がれること」「子どもの良さを皆が実感していること」「被災地から学んだ教訓」が、必ずしも社会の最優先課題の一つとして共有されていないということに気づいたからです。

 ここで、どうしてこれだけ私が子どもと社会に関わる取り組みを続けているのか、その理由について、少しお話させて下さい。

 あなたは、誰にも相談できずにじっと我慢をして、何か月も過ごしたことはありますか?本当は困っていたのに、周りに気兼ねして、言い出せなかったのは、なぜですか?

♪被災地で得た教訓とは

 私は、2011年の東日本大震災の後、4月1日から宮城県沿岸部の避難所を回って妊婦さんを探しました。

 被災地に向かう前は、産婦人科医として人手が足りない病院のサポートに行こうと思ったのですが、病院には全国から志願した医師が集まっており、私の役目はないようでした。

 母として、4回の妊娠・出産を経験したものとして、甚大な被害を受けた土地で妊婦さんや産後の方々が困っていないはずがない、それなら、病院までたどり着けない人たちのところに自分から出向いて行こうと思ったのは、災害支援・復興活動のプロである林健太郎先生(医師・国際人道支援事業家)から「アウトリーチ(自分が助けたい人を、自分の施設で待っているのではなく、困っている人のところにこちらから手を差し伸べること)」という概念を教わったからです。

 避難所で私が出会ったのは、身重の体を抱えながら、自分が周りの負担になってはいけないと気を遣い、みなと同じように体育館の床の上に段ボールと毛布を敷いて、一日2個のおにぎりではおなかがすくのに、それを訴えもせず、じっとしている妊婦さんの姿でした。

♪つらさを訴えられない避難所の妊婦さん

 たとえ妊婦さんであっても、「大丈夫ですか?」と聞かれれば「大丈夫です」と答えます。でも、腰痛は、肌のかゆみは、便秘は、と、妊娠期に起こりがちなトラブルについて尋ねると、次から次に体調不良が明らかになりました。妊婦さんがここにいてはいけない、それも、お産をする病院すら見つかっていない状態で、周りに気兼ねして、不安を抱えてじっと耐え、3週間もずっとここにいるなんて・・・と私は思いましたが、妊婦さんである前に、もうすぐ学校が再開するかもしれない小学生の娘さんのお母さんであり、介護が必要な義父を持つ嫁であり、妻であり、娘であり、たくさんの役割を持っていて、自分が家族をサポートする立場であったため、自分の健康上の理由で自分だけが別の場所に避難先を移動することなど考えられなかったのです。

 集団生活をすることで、かえって健康に悪い影響が出る人がたくさんいます。高齢者、乳幼児、そして妊婦さん。寒さや空腹、気遣い、ストレス、雑音、見知らぬ人が出入りして落ち着かない暮らし、ホコリやペットの糞などを苦痛に感じてはいても、周囲に気兼ねしてしまう人たちです。そして、ここを出ていきたいと思っても、避難所で助け合っている周囲の人たちに対して不満があると思われないよう、必死で我慢していました。

♪災害時の対応策の必要を痛感

 私は、妊婦さんや赤ちゃんを抱えたお母さんたちが災害にあった時、どこでどうすればよいのか、行政、医療、保健、地域、の中の誰が担当するのか事前に決められていないということに、被災地で初めて気づきました。小さな赤ちゃんを抱え、それまでの近所づきあいや友達づきあいが分断され、孤立してしまったお母さんたちもいました。赤ちゃんが泣いているのは自分の母乳が足りないからなのかと肩身が狭くなり、車の中で寝泊まりしているお母さんもいました。

 それまで、お母さんや赤ちゃんを一人でも死なせないよう、健康を守ることができるよう、国内外で勉強してきた私でしたから、「今こそ何か力になりたい」、「被災者の方々を何とか助けたい」という強い思いで赴きましたが、信頼関係、行政や地域とのネットワークなどを、ゼロから築かなければいけない立場にありました。臨床現場で身につけてきたこと、海外で経験してきたことがいくらあっても、外から支援に入った私は無力で、災害の前から、日ごろからの知り合いで、ソフト面とハード面の備えや仕組みがないと、誰も救えないということを実感したのです。その後、半年以上被災地に通いましたが、自分の知識や技術だけでは、この災害に対して歯が立ちませんでした。

 妊娠~出産~育児という流れは、私たち親にとっては一連のもののはずですが、それを支えるシステムには、いわゆる「専門領域や担当分野」による“壁”があります。「子供を生み、育てていく」上で必要なサポートが「疎」になる瞬間が震災前から存在していましたが、平時は、その隙間が見えにくく、家族のネットワークや地域の力で何とか乗り越えていました。それが、震災で地域のネットワークが分断され、全てが流され、その日食べるものにも事欠くようになると、隙間があらわになったのです。

 この時、子どもや家族に対し、複数の異なる組織の担当者や専門家が壁をまたいで知恵を出し合う必要を感じました。

「この日本で、この日本で、あの震災のことを知っている私たちが生きている今のうちに、私たちが死んだ後でも残るものを作りたい、人の力、仕組みの力を信じて、災害の時に本当に役立つ力を高めたい」

 苦しんでいる人を前に、何も出来なかった、という悔いとともに、後悔と憤りの気持ちが残り、災害時に母子を助ける取り組みを続けて、もうすぐ5年間が経ちます。

♪子育て世代を見守る意識を

 産婦人科医の私にとって、5人の子どもを育ててきた私にとって、自分の情熱の源は、新しく産まれる命、この社会に希望と期待を感じさせてくれる子どもたちです。

 今、日本では、30年以内に大災害が起こる確率が70%、宮城県沖では10年以内に巨大地震が発生する確率が60%と言われています。次の災害まで待ったなしの状態で、今すぐ、準備を始める必要があります。私が手探りで始め、無我夢中で、克服できず、ついにはバーンアウトまでしてしまった母子のための災害対応システム作り。だからこそ、私はそれぞれの地域で、そこに住む方々と考え、学び、実践し、机上の空論で終わらないような備えを一緒に作って行きたいと思い、自治体の方々や地域のお母さんたちのお力を借り、2015年だけで23回もの災害時母子対応研修を開きました。

 災害時に不安を抱えるお母さんやおなかをすかして泣く赤ちゃんが一人でも減るように、災害後に一人でも多くのお母さんと赤ちゃんを救えるように。それはとりもなおさず、日ごろから子育て世代を見守り、いたわる意識にも繋がります。

 先日、12月23日には、石巻赤十字病院災害医療研修センターで、全国から集まった160名もの行政、医療、地域保健従事者の皆さんと一緒に「災害時母子救護」について、1日がかりのワークショップをしました。グループワークで参加者同士の目標を確かめ、シミュレーションゲームで災害時の対応について学び、地元でどのようなアクションを起こせばよいか企画を立てるという研修内容は、私の調査研究の集大成でした。

 石巻で、震災を体験した方々の話を聞きながら、「被災地を忘れないこと、被災地を思うことが、自分の住む地域の災害対応や、子どもたちを守ることにつながる」というメッセージを、多くの方々が持ち帰って下さったようでした。

♪地震国日本だからこそ、備えが必要

 地域で本当に使えるものを一緒に考え、作って行きたい。今、この瞬間に、日本のどこで起こるか分からない災害ですが、もしどこかで災害が起こったら、助けに行って支え合うネットワークを作りたい。災害に備えることで、日ごろから人と繋がり、何気ない日常から様々な災害に至るどんな時でも、多くのお母さんや赤ちゃんを助けることに役立つ。この石巻から学んだ教訓が世界中に広がれば―と願っています。

 2015年11月17日に内閣府で開催された「避難所の確保と質の向上に関する検討会」質の向上ワーキンググループでは、災害時母子救護所訓練の視察報告とともに、災害時の母子救護について取り上げていただきました。

内閣府防災情報のページ
質の向上ワーキンググループ(第3回)

*災害時に母子を守ることを忘れないために作ったパンフレットをこちらからダウンロードしてお役に立てていただくことが出来ます。

• 参考資料3 大災害と親子の心のケア(PDF:2.55MB)
• 参考資料4 あかちゃんとママを守る防災ノート まとめ版(PDF:7.7MB)
• 参考資料5 受援力ノススメ(PDF:3.64MB)

 被災したお母さんたちや保健師さんたちへの聞き取り調査から生まれた、家族の身を守るための知恵。尊い犠牲を払って学んだ教訓を次の世代に活かしたいというのが、私がチャレンジする理由です。

 皆さんが「これをしなければ後悔する!」と思うようなことは何ですか?
読者の皆さんが、一歩一歩でも前に進み、同じ思いを持つ仲間と出会い、笑顔が増える新年となりますように。

2015© Honami Yoshida, MD, PhD, MPH All Rights Reserved.

******** 吉田穂波(よしだほなみ)プロフィール

産婦人科医。元米ハーバード大リサーチフェロー。国立保健医療科学院主任研究官。日・独・英・米4カ国で5人を出産・子育てした経験もふまえ、ママこそ自分のカラダをもっといたわってほしいと思いながら、子育てと研究にいそしむ日々を送っています。

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