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熊本地震、現地の母子が救われるために 〜これまでの災害から明らかになった10のステップ〜

(2016/04/19)

熊本地震で辛く苦しい生活を強いられている方々のことを考え、一日も早く安心してお過ごしになれるようお祈りしています。

私が東日本大震災のときに被災地の方々から学んだこと、避難している妊婦さんや赤ちゃんをケアする中で感じたこと、経験したことを活かして妊婦さんや産後の方、赤ちゃんやお子さんをお持ちの方には、表面には見えない悩みや不安、健康問題の対処方法についてまとめました。

今、この地域の未来を支える若い家族を支えることが、災害後の地域づくりに繋がります。

母子のニーズは見えないことが多く、支援の手が行き届かないため他の人以上に不自由な生活を強いられることが、東日本大震災で明らかになりました。

お子さんを育てている方が、災害時の過ごし方のヒントを知って、気兼ねせずにサポートを受けて欲しい、というのが私の願いです。

この情報が何かの参考になれば嬉しいです。

【妊婦さん、そしてお母さんたちへ】

みなさんの健康と幸せが、お子さんとご家族の幸せの源です。そして、地域の宝物です。

辛い中、本当によく頑張っていらっしゃると思います。

私は、皆さんが、自分を二の次にしてほかの人のお世話役に回っているのではないかと気にかけています。

どうぞ、胸を張って、出来る範囲で休養と栄養を取り、支援を受けてください。

私も、辛い状況に心を痛めながら、皆さんが少しでも楽な状態になれるように祈っています。

【被災地で、妊産婦さんや小さなお子さんを抱えるご家族を機にかけて下さる支援者の皆さんへ】

 少子高齢化社会の中では妊産婦さんや赤ちゃん子どもを連れたご家庭がマイノリティで、見過ごされがちですが、本当に大事な存在に気づいて下さって、ありがとうございます。

 東日本大震災では「妊婦さんや赤ちゃんのケアが必要だと思っていたけれど、何をしたらよいのかがどこにも書かれておらず、どうしていいか分からなかった」と悩む現地の被災者の方々、サポーターの方々に、多く出会いました。以下の情報が参考になれば嬉しいです。

 長期的な避難生活が予想されますので、今から出来ることとして、以下のことが必要です。

【被災している妊産婦さんや赤ちゃん連れのご家族へ】

1)災害時の妊産婦、乳幼児に多くみられる症状
2)災害時の過ごし方
3)栄養の取り方
4)病気の予防
5)自分自身のケア

 以下、順に詳しく見ていきましょう。

【被災している妊産婦さんや赤ちゃん連れのご家族へ】

1) 災害時の妊産婦に多くみられる症状

今だけは、特別な配慮をしてもらうのは申し訳ないという遠慮を捨て、「いつもとは違う」サインを感じたらすぐに避難所のリーダー、あるいは医療班の方に申し出てください。

<災害時に妊産婦さんに多くみられる症状 ベスト10>
(平成23年度厚生労働科学研究費補助金「地域における周産期医療システムの充実と医療資源の適正配置に関する研究」平成23年度研究成果報告書より)
① 切迫流産、切迫早産の兆候(腹部鈍痛、出血、腰痛など)
② 不安やストレスを強く感じる
③ 便秘
④ 不眠
⑤ アレルギー症状(くしゃみ、喉の違和感、目のかゆみ、肌のかゆみなど)
⑥ むくみ(特に下半身や膝から下の部分)
⑦ 風邪(咳、喉の痛み、発熱など)
⑧ 皮膚炎(かゆみ、湿疹、赤み)
⑨ 頭痛、めまい
⑩ 胸やけ、胃もたれ、食欲不振

<災害時の赤ちゃん・幼児に多くみられる症状 ベスト5>
① ぜんそく
② 風邪、インフルエンザ
③ 下痢症
④ 皮膚炎、かゆみ、湿疹など
⑤ いつもより泣かない、あるいはいつも以上に泣く、など

<要注意!体調悪化のサイン>
こういう症状があったら、遠慮せずに医療班に申し出ましょう。

妊産婦さん(防災ノートより)
① 腹部の痛み
② 腹緊・陣痛
③ 破水・破水感
④ 性器出血
⑤ 胎動消失・減少
⑥ 高血圧
⑦ むくみ、めまい
⑧ 発熱

赤ちゃん・乳幼児
① 発熱(38℃以上)
② けいれん
③ 吐く
④ 咳
⑤ 下痢

2) 災害時の過ごし方

ご自身がリラックスする方法・リフレッシュできる方法:無理をせず、今の自分でできることを探してみましょう。子どもを守りたいという気持ちから、自分の想像以上のストレスがかかっていることも。子どもにしっかり寄り添うためにも、自分自身もケアすることが大切です。 >詳しくはこちら

3) 食事・栄養の摂り方について

妊産婦さん:十分な栄養がとれないため、口内炎などになりやすくなります。サプリメントでの補給が出来ない場合は歯を磨き、口の中を清潔に保ちましょう。
非常用の食事は、塩分が高めです。選択できるときは、塩分が少ないものを選ぶようにしましょう。

赤ちゃん:災害時には母乳が最適な栄養源となります。一時的に出にくくなっていても、継続させることが大切です。リラックスして授乳するようにしましょう。
離乳食がない場合、離乳を始めたばかりであれば母乳や粉ミルクで栄養をまかなうようにします。

以下、独立行政法人 国立健康・栄養研究所の資料「3.赤ちゃん、妊婦・授乳婦リーフレット」から抜粋した、妊産婦さん、乳児をお持ちのお母さんのための栄養アドバイスです。

(1)頑張り過ぎない!
困ったことは何でも医療スタッフに相談しましょう。
母乳の継続、食器や哺乳瓶の消毒、自分や子どもの栄養バランスなど思った通りに行かないことだらけです。困ったこと、わからないことがあったら声を出しましょう。話すだけで気が楽になり、気持ちが整理できることがあります。栄養面と緊急性、必要性を天秤にかけて、そのときでベストを尽くしたら良い、こういうときだから仕方がない、と思えるよう、神経質になっている母親の気持ちを周りがほぐしてあげましょう。

(2)取れるときに水分を
十分な飲み物が得られなかったり、トイレに行く回数を減らしたり、節約するために水分を控えたりしがちですが、通常の成人よりも水分が必要な状態では、優先的に水分を確保し、こまめに飲むことが大切です。

(3)食べられるチャンスに少しでも
食事の回数や一回あたりの食事量が限られたり、食欲がないこともあります。食べられるときに食べられる物を食べましょう。

(4)ビタミン不足はこのようにして補給
パンよりはおにぎりにし、おにぎりでも、出来るだけ野菜の入っているものを摂りましょう。果実ジュースや栄養強化食品、栄養ドリンク、ゼリー飲料などもビタミン源となります。

(5)離乳食は固定観念にとらわれないで
塩味を薄くしたおみそ汁の中にご飯を入れ、柔らかくして食べさせたり、野菜をよく煮たものをつぶして与えることもできます。牛乳や卵はアレルギーのもとになると聞いて、与えないよう気をつけているお母さんもいますが、赤ちゃんは私たちが考えているよりも強い生き物。その場で手に入る食材をあげましょう。

4) 病気の予防について

  • 災害時はストレスにより、ふだんよりも血圧が上昇し、妊娠高血圧症候群になりやすいため、寒さをさけ、十分な水分摂取をして、十分に足を伸ばして横になれる場所を確保してもらうことも重要です。また血栓症(エコノミー症候群)もおこしやすいため、こまめに水分をとり体を動かすことも大切です。
  • 妊娠合併症:妊娠期・出産・産後は平時でも精神的な変化の大きい時期だと言えます。その上に被災のショックが重なることで、強い恐怖感や落ち込み、うつ症状を伴うこともあります。子どもを励まそうとするあまり、自分の気持ちを押し込めてしまわず、信頼できる人と話をできる機会を作りましょう。
  • 赤ちゃん返りや夜泣き、乱暴な言動等、災害時に見られる子どもの”異常な行動”は、”非常時における正常な行動”です。大きく受け止め、しっかりと抱きしめてあげてください。同じ話を何度も繰り返したり、災害を再現する”地震ごっこ” ”津波ごっこ”の遊びをするのは、子どもが子どもなりに災害を受け止め、体験を消化するために必要なプロセスだと言われています。温かく見守りましょう。また、子どもも親を気遣います。平気そうに見える子どもほど、ケアが大切です。

5)自分自身のケア

 つわり症状や食事の変化により虫歯や歯肉炎などにかかりやすくなります。時間のある時に歯磨きを。疲れやすく、長時間立ったり、重いものを持つことが難しくなります。炊き出しの列に並ぶ、水汲みをするなどの肉体労働は出来るだけ周囲の人の力を借りましょう。

 快く受け入れてもらえる頼み方のボキャブラリーはこちらから

 尿漏れ・痔などの排泄トラブルが起こることもありますので、水分や栄養・食物繊維を可能な範囲で摂るよう心がけましょう。

 ストレスは妊娠中の健康トラブルの元です。出来るだけ横になり、水分を多く摂るようにしましょう。お腹が大きくなることで体のバランスが変化し、転倒しやすいので、重いものを持っている時や階段の上り下りでは、ゆっくりゆっくり一歩ずつ歩くようにしましょう。

【支援したい方々へ】

  1. 妊産婦さんや赤ちゃんをいつも気にかける、それだけでも十分です。
  2. 仲間とネットワークを作り、いつでも動けるように仲間を集めておくようにしましょう。きっとそのうち、ちょうどいいタイミングでお役目が回ってきます。
  3. 被災されている妊産婦さんに応援メッセージを送る方法や上記の健康情報を届ける方法を考えてみましょう。
  4. 何も出来なくてもどかしい、歯がゆい、という気持ちを書き留め、自分が力になりたいのはどういうことなのか、自分にできることは何なのか、どんな気持ちを伝えたいのか、を考えてみましょう。そして、自分や周りの家族、友人たちに優しくすることも忘れずに
  5. 物資を送る場合は仕分けの手間を省くために一つの段ボールに一種類の物を入れて段ボールの表に物資の名前を大きく書くようにしましょう。

*ecomom編集部より 4月19日午後5時現在、熊本市は支援物資の配送や問い合わせを見合わせるよう、ホームページで呼びかけています。一方、福岡市は救援物資の受け入れを表明し、救援物資問い合わせコールセンター(092-711-4951) を開設しています。なお、受け入れる救援物資は7品目に限定されています。

福岡市の救援物資受け入れについての情報はこちらから

【被災自治体・支援者の方へ】

  • 避難所の中で配慮が必要な人を確認する方法:同じ避難生活でも、より大きなダメージが出る可能性がある人には、居場所、温かさ、栄養、水分に関して、より踏み込んだサポートが必要です。
    *避難所アセスメント・シート(各避難所で毎日記録をし、自治体や救護班と共有することで、急病人、急な搬送要請を未然に防ぐことが出来ます。)
    *妊産婦さんのリスクを判断するためのチェックシート
  • 避難されている妊産婦さんたちや子連れのお母さんたちに声をかけ、母親学級などの同じ仲間の集いを企画してもらいましょう。その際は自治体も応援することを伝えましょう。
  • 乳幼児や障害を持つ子どもを抱える母親にはできるだけ専用スペースを設けると良いことが分かっています。特に妊婦や産後間もなくの新生児を抱える母親、障がいを抱える母子の専用のスペースを確保すると、同じ境遇にある仲間同士の安心感が得られます。中には家族と離れることで精神的な不安を覚え、専用室を望まない母親もいました。状況を判断したうえで、可能であれば家族ごとに個室を与えるなど、柔軟な姿勢で。また、母子の拠点を作り、物資や情報を集約するスペースがあると、誰もが物資や情報を取りに来られます。避難所にいなくても物資だけは受け取れるような「援護所」が必要です。

【医療従事者向け】

妊婦さんの診察に活用できる母子避難所チェックリスト(妊婦)です。

・避難所、在宅避難を問わず、妊産婦や乳幼児を連れた人のリストを作り、助産師、産婦人科医、小児科医の巡回診療を行う体制を作ると、長期化する避難生活における妊産婦さんへの対応がスムーズになります。<妊産婦初期対応問診票>

*この内容は、以下の助成金を頂いて調査したものです。
厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業)「妊産婦・乳幼児を中心とした災害時要援護者の福祉避難所運営を含めた地域連携防災システム開発に関する研究 」報告書(研究代表者:吉田穂波、平成25〜27年度) https://cloud.niph.go.jp/s/fd/3qT3Q2HAX1BI11SqfHiP

熊本地震で避難生活を強いられているすべての妊婦さん、産後の方、お子さん連れの方、そして、子育て家族をサポートされているみなさんへ、というサイトはこちら:
http://honami-yoshida.jimdo.com/?logout=1

******** 吉田穂波(よしだほなみ)プロフィール

産婦人科医。元米ハーバード大リサーチフェロー。国立保健医療科学院主任研究官。日・独・英・米4カ国で5人を出産・子育てした経験もふまえ、ママこそ自分のカラダをもっといたわってほしいと思いながら、子育てと研究にいそしむ日々を送っています。

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