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「子どもの貧困」大人にできることは? NPO法人キッズドア理事長・渡辺由美子さんに聞く

(2017/01/31)

日本の子どもの6人に1人が貧困状態――。国が発表した数字に驚いた人も多いのではないでしょうか。経済格差の広がりを反映して非正規雇用などの低所得者が増え、子どもの貧困率は悪化しているといわれます。しかし、実態はどこまで深刻なのか、行政はどんな対応をしているのか、どんな支援が必要なのか、わかりにくい面もあります。そこで、貧困家庭の子どもたちを対象に学習支援などの事業を手掛けるNPO法人キッズドア理事長の渡辺由美子さんに、子どもたちの様子や、求められる支援について聞きました。(聞き手はエコマム編集長・村上富美)*記事に続いて、子どもの貧困問題を考えるセミナーのお知らせを掲載しています。

―子どもの6人に1人が貧困(編集部註:この場合、一人当たりの可処分所得の中央値の半分未満で暮らす層を指す相対的貧困。2012年の統計では年122万円未満)ということですが、その実態がどこまで深刻なのか、よくわからない面もあります。

渡辺由美子さん(以下、渡辺さん) 無理もないと思います。最近の子どもたちは、周囲と違う服装をしていると仲間外れにされたり、いじめの対象になったりするので、見た目はまわりと同じようにしようと努力するようです。ただ、少ない収入の中でやりくりし、食事についても、学校がお弁当の場合、お弁当はまわりと同じようにするけれど、朝はごはんだけ、夜はうどんだけという家庭もあると聞きました。

―栄養が足りているのか心配ですね。

渡辺さん 学校があるときは給食を食べられるけれど、夏休みはお昼がないという子もいます。キッズドアの学習会で、午前と午後に学習支援をすることもあるのですが、お弁当もなく「お昼のごはんの予算は100円」と100円だけ持ってくる子もいました。

―100円だけですか?コンビニのおにぎりすら買えないのではないでしょうか。

渡辺さん 1個10円20円の駄菓子を数個買って食べていたそうです。食事に困る子どももいることから、学習支援の際に、フードバンクと連携しておやつを用意しています。居場所型の学習会では、おにぎりやサンドウィッチのような軽食を出すようにしています。

子どもの数が多いほど、1人当たりの手当ては減る

―貧困家庭への行政の支援はどうなっているのでしょうか。報道などで、シングルマザー家庭の大変さは見聞きすることがあります。

渡辺さん まず、シングルマザーでも正社員かパートやアルバイトかで、違いがあります。お子さんを抱えての就職は大変で、パートを掛け持ちしても生活が苦しい人も多いのです。

―1人親の場合、お子さんへの手当てもあると思いますが。

渡辺さん 1人親で一定以下の所得の家庭への児童扶養手当はありますが、金額をご存じですか?子ども1人目は最大で月額4万2330円ですが、昨年まで2人目は5000円、3人目以降は3000円でした。ようやく見直しが入り、2人目以降の金額は最大で月額1万円、6000円に増額されました。けれど、子どもが多いほど大変なのです。日本では離婚後、養育費を払わなくても罰則がないので、子どもを引き取った母親の負担が大きくなる傾向があります。ほかにも手当はありますが、十分とは言いがたい状況です。

―教育費は大きな負担です。学習支援が受けられて、親御さんも喜んでおられるのではないですか?

渡辺さん はい。ただ、中には参加しているお子さんに「勉強はしなくていい。帰って下の子の面倒を見て」と電話をかけてこられる親御さんもいらっしゃいます。一方、家も狭く、小さい弟、妹がいると家の中では勉強ができないという声も聞かれます。「勉強する場所がないから、家では自分の寝床でお盆を使って勉強をしている」と話していた子もいました。

「大学生って本当にいるんだ」

―1人で複数の子どもを育てながら、複数のパートを掛け持ちという暮らしは大変でしょう。親御さんも余裕がないのでしょうね。

渡辺さん かつて正社員として働いた経験もある女性が、離婚して頑張ろうとしたけれど仕事が見つからないという人も少なくありません。就職しようとしても、子どもがいるというと、十分に働けないと判断されて仕事が見つからないこともあります。その側面から言うと、貧困の問題の背景には、男女の不平等、非正規雇用などの問題もあると思うのです。

―苦労している親を見て、子どもはどう思うのか、気になります。

渡辺さん 疲れて帰ってきて、また出かけていく、それでいて収入は少ない。苦労ばかりしている親の働く姿を見て、子どもたちが、仕事をするのはつらいこと、働いてもいいことはない、ととらえてしまうことも多いのです。つまり、働く前から仕事に対する意欲を失ってしまうのです。また、親の仕事が不規則だと、子どもの生活にも影響が出て、朝起きて学校に行く、という生活習慣が崩れてしまうケースも多いのです。当然、学校の勉強や学力にも影響が出てきます。お母さんが外国人で、支援などの事情が分からず孤立している状態もあります。

―よく言われる「貧困の連鎖」が生まれてしまうわけですね。

渡辺さん 学習支援に来て、大学生に会って「大学生って本当にいるんだ」と言った子がいたんです。周囲に大学に行った人はいなくて、自分も大学に行くなんて考えたこともなかった。学習支援を通じて、子どもたちに、勉強をすることで状況を変えることができると伝えたいのです。

きちんと働く男性との触れ合いも必要

―具体的にはどんなことを伝えていこうとされていますか?

渡辺さん まず大事なのは高校進学です。中学卒業と高校卒業では、就職もその後の収入も変わってきます。高校を卒業する大切さは折にふれ、伝えています。また、実際に仕事場を見学したり、働く人に会ったりすることも大きな刺激になるのです。例えば、キッズドアの活動を支援してくださる企業の中に、外資系金融の会社さんもあるのですが、オフィスを訪問した子どもたちは、その立派さに驚いて「こういうオフィスに務める人になるには、どうすればいいの?」と興味を持っていました。

―子どもらしい疑問ですね。それが勉強へのモチベーションにつながるといいですね。

渡辺さん ええ。それに、支援してくださるビジネスマンの方が出張のお土産を持ってきてくださったときは「仕事で旅行に行けるんだ」と驚いていました。学習支援にくる子どもたちの多くは、日ごろからあまり多くの大人と接していないので、大学生や社会人との出会いの意味は大きいのです。

―なるほど。通常、学習支援は大学生が担当されるのですよね。

渡辺さん 大学生に限定はしていません。年齢が近いお兄さん、お姉さんとの触れ合いも大切ですが、ぜひ社会人の方、男性の方に力を貸していただければと思っています。というのもシングルマザー家庭の場合、大人の男性との接触が少ない子どもも多いのです。キッズドアの学習支援では、教える担当者は固定しない方式です。また子どもたちの事情に配慮しながら、毎回、担当者を決めています。

―お話を聞いていると、男の子にとってきちんと働く大人の男性は、ロールモデルという役割もありそうですね。ほかに、渡辺さんがお子さんを支援していて、重要だと感じられることはありますか?

渡辺さん たくさんありますが、まずは高校を義務教育にしてほしいと思っています。先ほども言ったように、子どもたちにとっては高校進学が重要なポイントなんです。15歳である意味、運命が決まってしまうんです。そこでうまく行かないと、その後の人生でのやり直しがとても厳しくなります。また、児童手当※は中学生までの子どもが対象です。つまり高校からは義務教育ではなくなるので、ある意味、国の保護から外れてしまうのです。けれど実態としては中学卒業高校後もほとんどの子が高校生となり、親が養育しています。高校生を育てるのはお金がかかります。高校まで義務教育として、国としても子どもたちの成長を見守っていってもいいと思うのです。

―高校、さらに大学と教育にはお金がかかりますからね。大学生の奨学金が問題になり、給付型の奨学金も新設されましたが。

渡辺さん 給付型が新設されたことはいいことですが、予算は210億円です。大半の奨学金は有利子・無利子含め返済が必要で、それが社会に出てからの若者の大きな負担になっています。生活保護家庭の場合、子どもが大学生になると生計を別にしなくては、生活保護の対象から外れるため、大学生は自活しなくてはなりません。学費と生活費を稼ぐのは容易ではないのです。

―210億円。単純な比較はできませんが、オリンピックの1競技の体育館の建設費が500億などと言われるのと比べると、どちらが日本の将来に役立つ費用なのか、考えてしまいます。高齢化社会に向かう日本では、若い人が高齢者を支える構造が強まっていきますね。日本にとっては、重要な人材になるわけですからね。

渡辺さん 今、貧困の状態にある子どもがきちんと仕事をして税金を納める人になるか、社会保障で保護される側の人になるかは、この国の将来は大きく変わります。まずは子どもが安心して学べる環境が必要だと思います。

―子どもが自分を大切にして、誇りをもって生きていける社会を作るのは、大人の責任ですね。お話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。

※児童扶養手当はひとり親家庭向け。児童手当は年収960万円以下の中学生まで。

子どもの貧困に何ができるかを考える緊急セミナーのお知らせ

ecomomは2月10日(金)、日経BP環境経営フォーラムと共催で子どもの貧困問題を考える緊急セミナーを開きます。場所は東京都JR四ッ谷駅そばの主婦会館です。
基調講演はNPO法人キッズドアの渡辺由美子さんです。
今回は、社会問題などに取り組む企業の方が対象ですが、ecomom読者の方の参加も大歓迎です。
お待ちしています。

◆研究会のお申し込みはこちらから(参加無料です)
https://bpcgi.nikkeibp.co.jp/form-cgi/formhtml.cgi?form=emf05/index.html

■日時:2月10日(金)10:00〜12:30(開場9:30)
■会場:主婦会館プラザエフ 8Fスイセン
〒102-0085 東京都千代田区六番町15 主婦会館プラザエフ
電話:03-3265-8111

地図はこちらをご参照ください http://plaza-f.or.jp/index2/access/

JR「四ッ谷駅」 麹町口 徒歩1分
東京メトロ 丸ノ内線「四ッ谷駅」 1番出口 徒歩3分
東京メトロ 南北線「四ッ谷駅」 3番出口 徒歩3分

■プログラム(都合により変更になることがあります)

9:30 開場
10:00~10:05 事務局あいさつ
10:05~10:35 基調講演
「子どもの貧困の実態とと未来を拓く子どもへの学習支援」
NPO法人キッズドア理事長 渡辺 由美子氏
10:35~10:55 講演1
「日本の子どもの貧困の実態と政府の対応、民間に期待すること」
内閣府子供の貧困対策推進室参事官 相川 哲也氏
10:55~11:15 講演2
「日本の子供の貧困が将来に与える影響と求められる対策」
ニッセイ基礎研究所 土堤内 昭雄氏
11:15~11:30 「生活者と企業をつなぐ~雑誌ecomomエコマムとは」
日経BP社 クライアントマーケティング1部 黄 莉香
11:30~11:35 休憩
11:35~12:30 パネルディスカッション
「子どもの貧困問題と日本の持続的発展」

コーディネーター: 
   ecomom編集長 村上 富美
パネリスト:
  NPO法人キッズドア理事長 渡辺由美子氏
  ニッセイ基礎研究所 土堤内昭雄氏
  NPO法人WAKUWAKUネットワーク 事務局長 天野敬子氏
  支援企業の方
NPO法人キッズドア
日本の貧困家庭の子どもの状況を知った渡辺さんが中心となり、2007年設立。「すべての子どもが夢と希望を持てる社会を」という目標を掲げ、学習支援やキャリア教育などを実施している。東京を中心に独自の学習支援事業を展開する他、東京都足立区、江戸川区、墨田区、品川区、世田谷区、目黒区など行政から委託を受けた学習支援事業も行っている。さらに東北での子どもの学習支援を通じた復興支援にも力を入れている。
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