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北極圏ラップランドの森に生きる人々の暮らし
“ラピッシュ・スタイル”

(2016/02/16)

人口150人のキルピスヤルビのランドマーク、サーナが太陽に染められてピンク色に
フィンランド北部、ノルウェーやロシアなどにもまたがる北極圏内のエリアは「ラップランド」と呼ばれています。夏になれば白夜が、冬は1か月半もの間太陽が姿を消すこの極北の地に、太古の昔から住み続けてきたのがサーミ人。現代文明の中に暮らすいまもなお、彼らの心は昔と変わらず、自然に感謝しながら生きています。(写真・文:トラベルライター岩佐 史絵)

極寒に差し込む陽光を祝福

 1月の下旬、凍った湖面に降り積もった雪のうえを走っていたスノーモービルを停めて、ずんぐりとしたクマのような巨体のヨウニさんがゆっくりと後ろを振り返ります。ヘルメットをはずし、まぶしそうに目を細めたその先には、木々の間からちらちらと光を放つ陽光が。「今年初めての太陽だよ」うっとりと陽の光に見入る彼は、先祖代々この地に住むサーミ人です。

太陽が見えた! 太陽の存在に深く感謝と感動する、ラップランドの冬のお楽しみ

 「ラップランド」とは「辺境の地」を意味するのだそうで、そこにいる人のことを「ラップランドの人(ラピッシュ・ピープル)」と呼ぶのは蔑称なのだとか。とはいえ、今回訪れたフィンランド北部、北極圏内のエリア――サンタクロース村があることで有名なロヴァニエミからノルウェーなど3つの国境が接するキルピスヤルビまで――に住む人々は、むしろ「ラピッシュ(ラップランドの)」という言葉に対して誇りを持っているよう。ヨウニさんも、「これがラピッシュ・スタイル。僕らは太陽の美しさに感動し、祝福する」と笑います。

 ラップランドでは真夏には一晩中太陽が沈まない白夜が続く反面、冬になると午前中の11時ごろにうっすらと明るくなってきますが、午後も3時を過ぎるとまた暗くなってきてしまいます。この時期、ラップランドは雪と氷に閉ざされ、木々すらも樹氷に覆われ白一色の世界に。時にはマイナス30度をも超える極寒となり、人々は春の訪れを今か今かと待ちわびるのです。

 太陽がもう少し高く昇るようになるのは1月の下旬。土地によっても違い、山がちの地形の村では山が邪魔をしてなかなか太陽の姿は見えてきません。そして日が少しずつ長くなり、ある日いつものように外を歩いていて気がつくのです。太陽の光がまっすぐに自分を照らしていることに。ラップランドの人々にとってそれは大事件。ホテルのスタッフもスーパーのレジのお姉さんも、その話題でもちきりです。太陽は極寒の中、春がやってくることをはっきりと教えてくれる希望そのもの。太陽を祝福することはきっと太古の昔からこの地の伝統のようなものなのでしょう。

トナカイの食べ物は“横取り”しない!?

定番中の定番、トナカイ肉のソテーとマッシュポテト。リンゴンベリーのコンフィチュールも北欧の味

 ところで、ラップランドの冬の料理は、実は定番ばかり。キノコのスープにトナカイ肉のソテーのマッシュポテト添え。料理の仕方が違っても、基本的にこの3つの食材ばかりが食卓に登場します。なぜなら、それが彼らの手に入る食材だから。もちろん、現代ではスーパーマーケットがあり、チキンだってビーフだって、夏野菜のトマトやキュウリも手に入りますが、多くのサーミ人は伝統的なこれらの食材を用いた料理をします。夏から秋に収穫したキノコは乾燥させ、ベリー類はコンフィチュール(ジャム)に加工して冬場も使用。肉料理の付け合わせになります。

 ハンターであり、トナカイの放牧を営んでいるミアさんの家の冷蔵庫にも、トナカイの肉やクラウドベリー、ブルーベリーといったベリー類のコンフィチュールがいっぱいつまっていました。「週に3,4回はトナカイを食べています。あとはムース(ヘラジカ)のことも。今年のシーズンでは4頭を狩りましたよ」。ミアさんの牧場でもつぶしたトナカイを地元のスーパーに卸しており、地元の人にとっては手に入れやすい、日常的な食材となっています。

トナカイの知識が豊富なイレーネさん。ご主人のアリさんはサーミ人

 トナカイの角を加工するアーティスト、イレーネとアリのカンガスニエミ夫妻は、ともにサーミの伝統文化を引き継ぐ担い手として知られています。祖父がトナカイに携わる仕事をしていたというイレーネさんは、自家製のブルーベリージュースにブルーベリーティー、ブルーベリーパイとブルーベリーづくしのお茶会の準備をしながら言います。「私たちの生活は7割が森によって支えられているの」。

 トナカイは森の中を自由に歩き回り、エサの時間に牧場に戻ってくる以外は森の中で育ちます。大切なビタミン供給源となるベリー類も、栽培ではなくすべて自然に生えているもの。凍った湖面の下にはまるまると太ったイワナなどが泳ぎ、暖炉にくべる木だってもちろん、森に入って採ってくるのです。寒さのせいで、電気がうまく使えなくなることもざらという冬場、頼りになるのは暖炉。いちばん暖かいのはトナカイの毛皮でつくったミトンやブーツと、確かに最終的にはなんでも自然頼みなのがラップランド。自然に対しとても謙虚な気持ちになるといいます。

 「私の祖父はね、絶対にキノコ類を食べなかったわ。なぜならそれはトナカイの食べ物だから。私たちはトナカイからたくさんの恩恵を受けていて、もう十分いただいているでしょう。だからトナカイのものを横取りしてはいけない、と私にもよく言っていたの」。

放牧といってもトナカイは自由に柵の外に出ることができ、エサの時間にだけ戻ってくる

 イレーネさんの言葉を聞いて、おいしいけどいつも同じような料理ばかりだなぁ、と北の食事にちょっとうんざりしかけていた私は、恥ずかしくなりました。私たちは十分な食糧を自然からいただいているのに、「もっともっと」と望んでいるようで。ラップランドの人々は食べ物が少ないとは思っていません。自分たちの“取り分”をしっかりとわきまえているのです。

 そういえば、食事のポーション(量)も一人分はそんなに大きくなく、日本人女性でもちょうどいい量。食べ切れず無駄に捨てることもありません。サーミ人の暮らしや考え方はまさに「自然に感謝し、謙虚に生きる」というもの。質素に見えますが、自然からいただいたものだけ、化学肥料も添加物もない食卓は、実はなによりも贅沢なのかもしれません。こんなラップランドの生活。人間らしく正しく生きられるような気がしませんか?

取材協力:フィンエアー、Visit Finland、Visit Rovaniemi

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