Topics

「ポイ捨てゴミ」問題をITの力で解決。ベンチャー企業「ピリカ」の取り組み

(2016/09/21)

ゴミ拾いSNSアプリ「ピリカ」の画面。今日拾われたゴミの数や場所、拾ったゴミや拾った人のメッセージが表示されます
世界では清潔だといわれる日本の都市ですが、ゴミのポイ捨ては後を絶ちません。そんな「ポイ捨てゴミ」の問題を、ITの力で「見える化」して解決しようとするベンチャー企業があります。小学生のとき環境問題の解決を心に誓ったという社長の小嶌(こじま)不二夫さんに、ゴミ拾いSNSアプリ「ピリカ」にかける想いを聞きました。(写真・文=阿部祐子)

「人類の問題を解決するヒーローになりたい」

 世界77カ国で使われている「ピリカ」。スマートフォンにアプリをダウンロードして、路上のゴミを拾い、その写真を投稿する "ゴミ拾いのSNS" です。ピリカは北海道の先住民であるアイヌ民族の言葉で「きれい」を意味します。

 利用料は無料、登録も匿名でOK。世界中から「こんなゴミを拾ったよ」という投稿がタイムラインで表示されていきます。ユーザー同士の交流も可能です。これまでに累計3000万個以上のゴミが拾われました。

 このSNSを運営するピリカは、5年前に京都大学の研究室から誕生したベンチャー企業。代表取締役の小嶌不二夫さんは現在29歳です。

小嶌さんの人生を決めることになった環境問題の本。大人になってから同じものを探して買い求め、仕事場に置いています

 幼い頃から「昆虫や星座にハマっていた」という理系少年は、小学2年生のとき学校の図書館で、環境問題の本と出合いました。

「人類の問題を解決するのがヒーロー。僕が絶対に解決しよう」という当時の気持ちをあたためたまま、小嶌さんは理系の大学、大学院に進学します。

 でも環境問題とひとくちに言っても大気汚染や水問題など、地球規模の課題がたくさんあります。人の話を聞いても本を読んでも、どこから取り組むかに迷いがありました。

「自分の目で問題を見てから決めよう」と思い立った小嶌さんは2010年、世界一周の旅に出発します。行く先々で目にしたのが、路上に捨てられる大量のゴミでした。

 世界からゴミのポイ捨てをなくす――。一生かかって解決したい環境問題のなかで、小嶌さんはまず、この問題を選んだのです。

ゴミのポイ捨てには、定量的なデータがなかった

 理屈で考えると、地球上からゴミのポイ捨てをなくす方法は「ポイ捨ての数を減らすか、ポイ捨てされる以上に拾えばいい」ことになります。後者の取り組みのために開発メンバーを集め、2011年5月、ゴミ拾いSNS「ピリカ」のテスト版の公開にこぎつけました。

 SNSというユニークな手法が当たり、改良を加えていった結果、2014年時点での拾われたゴミの累計は300万個に迫っていました。でも小嶌さんたちの気持ちはモヤモヤしたままでした。地球は本当にきれいになっているのでしょうか?

「ゴミを拾う気持ちがなにより大切、ということはもっともです。でもみんな理系ですから『拾ったことでゴミが本当に減っているか、数字で知りたい』という純粋な思いがありました」と小嶌さん。

 しかし小嶌さんたちは、がく然とすることになります。ゴミのポイ捨てをはかる定量的なデータはほとんどなく、調査方法も確立されていなかったのです。これでは、行政などがゴミ問題の解決を考える際に「コストがいちばん安いから、この方法にしよう」といった客観的な判断ができないままです。

 そこで、世界どこで調査しても、調査結果にばらつきが出ない「ポイ捨ての調査システム」を作るという新たな使命が生まれました。

 しかしこれは大変でした。さまざまな方法を試したところ、昆虫を調査するときの手法を応用したやりかたは比較的うまくいきました。しかしゴミを見つけるのは人の役割です。ですから調査する人によって、どうしても数に誤差が出てしまうのです。

人工知能による「ポイ捨て調査システム」が完成

「タカノメ」を起動して、グーグルマップ上の実在の道の写真を拡大。路上のゴミを青い線で囲んで知らせます。「タバコ」「ペットボトル」「紙類」など種類も表示します

 問題を解決したのが、メンバーの一人が提案した人工知能(AI)を使った方法です。最新の機械学習という方法を応用して、画像に映ったゴミを、ゴミだと認識させていくのです。発案者は、あっという間に基本的なシステムを完成させました。機能させるには、人間が「ゴミとはどんなものか」を学習させなければなりません。

 スタッフを増やして、まず人の目で画像のゴミを読み取って、その結果をシステムに学習させる作業を進めました。そうした人海戦術の結果、画像解析技術を使って、広い範囲のポイ捨てゴミを、まるで獲物を探すタカの目で見るように調査できる新しい技術「タカノメ」が生まれました。

 「タカノメ」は具体的には、スマートフォンなどで撮影した路上の写真や動画を画像解析します。写真や動画には映らない植え込みの中などのゴミはカウントされなくなってしまいますが「見逃すなら、同じ基準で見逃がすことが大切」と小嶌さん。

 基準がそろうことで日本と外国といった全く違う場所でも比較ができます。見逃しているゴミがあるということは、別途考慮すればいいのです。

 ポイ捨てゴミの深刻度を調査・測定するシステム「タカノメ」は2016年5月公開。その直後から多くの自治体で採用されています。

 小嶌さんは「環境調査を依頼された海外のNPOから、『タカノメ』のシステムを使いたいといったビジネスの話も来ています。海外のデータが集まると国同士の比較もできるのがうれしいですね。ただ『僕たちも行きましょうか?』と言っても『調査はこちらでやりますから大丈夫』と言われてしまうところが残念ですが(笑)」。

4年後の東京オリンピック、パラリンピックに向けて

 路上のゴミといわれて気になるのが、4年後の東京オリンピック、パラリンピックです。「タカノメ」を使った「東京オリンピック会場予定地におけるポイ捨て深刻度調査」が、2015年11月〜2016年4月の間に行われていました。

「タカノメ」を使用した技術協力の一例。ヒートマップ形式で表示した、東京オリンピック会場予定地のポイ捨てごみの分布状況(写真提供=ピリカ)
詳細は http://tokyo2020.pirika.org/

 画像の赤くなった部分が、ポイ捨てゴミが深刻な場所です。こうして「見える化」した結果を自治体、関連する可能性のある企業へと共有することで問題解決策を考え、実行していくことができるようになります。

 「ピリカ」と「タカノメ」がそろったことで、ポイ捨てされるゴミ、拾われるゴミ両方の数が把握できるようになります。これで小嶌さんたちの「ゴミが本当に減っているか、数字で知る」ための条件がそろいました。

2015年夏、ピリカが協力して神戸の小学校の学童保育のプログラム内で行った、「ゴミのポイ捨て」調査ワークショップ(写真提供=コープこうべ/ピリカ)

 道路や公園の美化活動、ビーチクリーンなどの活動は全国でさかんに行われています。ポイ捨てされないためにゴミ箱をどこに設置すればいいか、あるいは思い切って設置しないほうがいいのではないかという議論もあります。

 こうした活動、議論は今のところ、経験に基づいた勘、また気持ちの問題で決まりがちです。でも「正しい議論をするためには、定量的なデータが重要」と小嶌さん。データをとって比べることで、さらに効果的な方法に変えていくことができるでしょう。

「ピリカ」はSNSの仕組みでゴミ拾いを続けやすくしている一方で、ユーザーはゴミを拾い、撮影して投稿することで、どこにどんなゴミが落ちていたか、調査データ集めに協力しているともいえる、一石二鳥の取り組みです。

 2014年から「ピリカ」を採用した福井県など、地域の環境活動の活性化に役立てる自治体や企業も増えています。ゴミ問題は、数字を把握することで、本質的な取り組みへの一歩を踏み出しています。

「僕が解決したい環境問題は、まだまだあります。『ピリカ』でもう5年も使ってしまいましたから、急がないと」と笑う小嶌さん。「ピリカ」と「タカノメ」が集めたデータを有効利用することで、ゴミのポイ捨て問題は、有効な解決方法が見つかっていくかもしれません。

小嶌不二夫(こじま・ふじお)さん
株式会社ピリカ代表取締役
1987年富山生まれ。2009年京都大学大学院エネルギー科学研究科に入学(後に中退)。2010年18カ国を旅した後、「地球からポイ捨てゴミをなくす」ことを目的にゴミ拾いSNSアプリ「ピリカ」を開発、2011年に会社化。2016年5月、人工知能を用いたポイ捨てゴミ調査システム「タカノメ」サービスの正式提供をスタート。http://www.pirika.org/
▲ページTOPへ