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【緊急レポート】:  

「全く似ていない」五輪エンブレムデザイナーが断言する根拠

知的財産権問題

 国立競技場に続いて、オリンピックに関連したデザインの受難が続いている。今度は、 2015年7月24日に発表された東京オリンピックのエンブレムだ。事の発端は、ベルギーのリエージュ・シアターのロゴマークに似ているとして、このロゴをデザインしたベルギーのデザイナー、オリビエ・ドビ氏がTwitterやFacebookなどのSNSで両デザインを比較した画像を発表したこと。この画像がインターネットを通じて一気に広がり、日本国内でも「模倣ではないか」と多くのメディアが取り上げる事態になった。その後ドビ氏はオリンピックエンブレムの使用停止を求めて、IOCとJOCに書簡を送付している。こうした事態に対して8月5日、ロゴを発表した東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下組織委員会)と、デザイナーの佐野研二郎氏が都内で会見。佐野氏は「全く似ていない」とベルギーのデザイナーの主張に真っ向から反論した。

リエージュのロゴはそもそも守るつもりもなかったデザイン

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オリビエ・ドビ氏のTwitterの書き込み。ロゴ発表会の写真を改変し、自身のロゴとオリンピックエンブレムを比較している

 今回の会見の趣旨は2つだ。1つは組織委員会側が、今回のエンブレムに関して知的財産権の視点から法的な正当性を主張したこと。もう1つは、佐野氏が自身のデザインプロセスを解説しながら、リエージュ・シアターのデザインを参考にしたことは一切ない点を主張したことである。

 企業や団体のロゴマークやエンブレムは、一般的には商標権と呼ばれる知的財産権で保護される。今回のエンブレムを発表する前には「世界各国で商標の調査を行っており、他者の商標権を侵害していないことを確認した上で発表し、商標登録の申請を行っている」(組織委員会の槙英俊・マーケテイング局長)。

  また佐野氏によれば「商標の類似を避けるために、細部をどう修正したらいいかなどのアドバイスを、IOCからもらいながらデザインを詰めていった」と言い、類似として訴えられることのないよう細心の注意を払っている。

 そうしたなかでリエージュ・シアターのロゴは、「そもそも商標登録されていなかった」(槙局長)ロゴだったと言う。商標として登録されていなかったのだから、いくら調査をかけても見つからなかったのは当然。劇場という公の団体が活用するロゴではあるにもかかわらず、要はそのデザインを保護するための手間やコストすら掛けていなかったというわけだ。

 もちろん登録商標として保護されていなくても、著作権を侵害したとしてベルギーのデザイナーが訴えることは可能だ。しかし、デザイン関連の知的財産管理やコンサルティングを手掛ける弁理士の日高一樹氏によれば、著作権に基づいて模倣を証明し、他者のデザインを排除しようとした場合、「形が似ているだけでは不十分」だと言う。「加えて必要なのは『依拠性』。仮に裁判となった場合は、自分のデザインを他人がまねたとする確固たる証拠を、ベルギーのデザイナーが自身で提示する必要がある。ただし一般的に、この作業はかなりのコストが掛かるだけでなく、相当ハードルが高い」(日高氏)。

 こうした証明の難しさから組織委員会側も「多くの弁護士に聞いても、問題があるという回答はない」(槙局長)としており、法的には、ほぼ問題ないとの見解だ。