

キリスト教では、2月初めカーニバルが終わってから復活祭(今年は4月8日ごろ)までの40日間、断食をすることになっています。40日間荒野で過ごし断食をしたイエス・キリストの受難を追体験しようというもの。ドイツでは、40日とはいかなくても、短期間断食をしたり、好きなものをがまんする人がたくさんいます。
断食といっても、果物の汁やハーブティーなどで水分はとります。果物やヨーグルトまでOKとして食べる人も。毎年1、2週間自宅にこもって断食をする人が多いようです。この期間は自分と向き合いながら静かに過ごし、わずらわしいことや人付き合いは一切遠ざけます。いわば、自宅にいながらの隠居生活。わが家の隣に住む学校の先生は、子どもの手が離れてから毎年していますが、肌がつるつるになり、10年若返ると言います。

知り合いの保育士さんは働きながら3週間の断食を実践しています。最初は空腹に悩まされても、数日たつと急に体中にエネルギーが沸いてくるとか。子どもたちがソーセージやポテトフライの給食を食べていても気にならなくなります。日常に起こる事柄について意識的になり、これまで気づかなかったことが目に留まったり、広い視野でものごとを考えるようになるそうです。「断食はすごくお勧め!一人でするのが大変なら、みんなでするといい」といい、仕事仲間3人で毎年します。胃や腸が空っぽになり、体内の毒素が排出されて体が軽くなります。

専門家によるプログラムもあります。宿泊1週間のコースでは、ヨガ、散歩、ノルディックウーキング、大腸洗浄、アロママッサージ、泡風呂、サウナなど盛りだくさん。断食と運動の組み合わせが、新陳代謝をいっそう促します。自然に囲まれた施設ではテレビもコンピュータもなく、夜は本を読むか日記を書くか、これまでの人生を振り返るかしかありません。日常から離れた場所で過ごすことで、心身ともにリセットできます。ダイエットが目的ではありませんが、数キロ落ちるという効果も。南ドイツの森でハイキングしたり、オーストリアの温泉地で断食など、さまざまなコースがあり、楽しみながら参加できます。1週間で5,6万円が主流です。
泊まりでなくても、アドバイザーのもと毎晩集まって断食の様子を報告しあうグループもあります。断食についての本や講座もあるので、初心者は自分にあった形を見つけてから始めるのがおすすめです。
3歳と5歳の子どものいる友人は、夫婦で1週間の断食をします。けれど子どもには食べさせなければならない。どうするのかと思ったら、野菜スープを作って、親は上澄みを飲み、子どもは野菜を食べるのだといいます。幼稚園の給食で子どもは肉や魚はとっているので、1週間であれば朝と夜は野菜とパンだけで十分、と友人たちは考えているようです。

断食だからといって、すべての食べ物を断つ必要はありません。アルコール、タバコ、甘いものをがまんするのが王道ですが、好きなもの1つを40日間、がまんするだけでも十分意義があります。たとえばお母さんはコーヒー、お父さんはビール、子どもはチョコレートという具合に。あまり厳しくすると続かないので、よそでお呼ばれしたときや、日曜日は少しだけならOKというようにちょっと緩くします。肉料理が主流のドイツですが、肉をがまんする人もいます。
息子の通うカトリック系の幼稚園では、40日間市販のおもちゃ断ちをしています。ミニカーや人形、パズルなどは買ったおもちゃはすべてしまい、洗濯バサミや布、トイレットペーパーの芯など生活用品がおもちゃに早がわり。CDによる音楽も禁止で、自分たちで鈴を鳴らし、歌って踊ります。子どもたちは工夫しながら楽しんでおり、創造力も養えて一石二鳥です。
最近では、インターネットや携帯断ちがブームです。ネットは1日30分まで、ゲームはしない、携帯電話は自宅では切る、など自分なりの方法でいいのです。自分の時間が取り戻すことができ、これまでの生活習慣を見直すきっかけになります。
断食とは、必要のないものを落とす作業なのかも。「食べない」「がまんする」ことを通じて見えてくるものがあります。1年に一度の断食は、心と体を引き締め、軽やかにしてくれます。
