2006.03.28 UPDATE

倉田 負って何だろうな、そう言われてみると、まあ、そんなでかいものってあんまりないんだけど、でも何だろう、強迫観念に近いのかも分からないけど、何か作っていなきゃいけないという気持ちがすごくある。

――それが、金銭面で満たされちゃったら消えちゃうかもしれないというのもある?

倉田 金銭で満たされると、要は心が弱いからやらなくなるじゃないですか、そうするとものすごい自己嫌悪が襲ってくる。

――今の俺は作ってない、作ってないぞと。

倉田 そうそう。だからお金が仕事でいっぱい入ると、何かガラクタをいっぱい買ってそれで何か作るとか、そういうことをしないとだめなんですよ。

――なんて難儀な(笑)。

倉田 お金があると、もう仕事が入ってこないような気がする人なので。無理やりにでも使っちゃうから、すごいいっぱいお金があっても持て余すだけ。

――「こんなにいっぱいガラクタ買えないよ」みたいな。

倉田 だからすごいお金があったら、多分どうしていいか分からなくなる。

――それはものを作っている人じゃないと分からない感覚だな、考えたこともなかったわ。

倉田 あとお金が手に入ると、人よりか苦労して金を使わなきゃいけないような気がするし、一番面白いお金の使い方をしないと何かいけないような気がするんですよ。

――それでこれ買ったんですか、この馬鹿でかいスクリーンと映画館そのものの椅子。

倉田 でもこれ、スクリーンが8000円ぐらいですよ。自作したんで。

――映画館の椅子は?

倉田 あれももらい物だしね。

――難しい人だな。自作できるからお金使えないじゃないですか。

倉田 映画館の椅子をもらったから、じゃあ、と、プロジェクターを買って、スクリーンも作ったんですよ。

――逆ですよ、普通。

倉田 でも物が欲しいって、何かをやりたいから物が欲しいというのがやっぱり最初にあって、欲しい物を自分で作れるならそのほうが。

――光吾郎さんの場合、やりたいこととしての「鉄」というのは、お父さんのお仕事として目の前にあったから自然にそうなった、という感じなんですか。

倉田 そうですね、昔は吉祥寺の実家で、うちのおやじがやっていたので、生まれたときにはもう見ていたわけですね。だから、特別な興味はまったくなかったんですよ。

――逆にね。

倉田 要は「これを作ろう」と思ったときに、一番近くにある、なじんだ材料で、一番番便利そうで、そういうことでやってみたらうまくいったという、実に分岐が少ない感じなんです。

――ネットのおかげで、やりたいことに取りかかる前の情報がものすごく増えましたよね。どれくらいしんどそうかな、とか、世の中にはその分野で才能のあるヤツがどれくらいいて、自分がそこでやったらどれくらいのレベルまでいけそうかな、って。

 で、例えば野球をやろうかなと思ったとするじゃないですか。そうすると、比べる対象はイチローだ。トップ・オブ・ザ・トップは遠すぎる。ああ、むりだ、なれない、当たり前だ(笑)。1番と比べちゃったらしんどい。

 だけど、もし踏み出していったらイチローは無理としても、ヒャクローぐらいはひょっとしたらね。で、野球の世界でイチローから百番目の選手っていったら、相当のもんかもしれない、実は。

 と、まあ、階段に足をかけて上りだすということに対して、ある程度事前にシミュレーションした気分が味わえちゃうというのは、ひょっとしたらマイナスにも効いてるのではないかと。

倉田 でも難しいな。我々の年代というのは、生まれながらにネットがあった世代ではないじゃないですか。

――私たちはそうですね。

倉田 だから、それまでの積み重ねがあってネットがあって、その比較があるからいろいろなことが分かるけど、逆に言うと今、何でも分かっちゃう…。

――分かる気になれるというかね。だからムダに見える努力を避けるようになるんじゃないかって。

倉田 分かった気になれる、そこに抜けているのは何か。

 Webで一番みんなが欲しがる、というか見たいのは、ムダな努力だったりとか、空回り感とか、そういうものなんだと思う。それを人はすごく見たがるなということを思ったから、ボトムズという、ああいう感じでやってみたこともあるんですよ、実は。

 一番大事にしたのはムダな空回り感。ネットではそういうふうなことをみんなが欲しているということも分かるから、逆にそういうこともできるわけじゃないですか、逆手にも取れる。だから使い方、使い道ですよね。

――逆に言えば、「ムダな努力ってこんなに人に喜ばれるんだよ」というのも、ひょっとしたら階段に足をかける原動力になるのかもしれない。

倉田 そうですね。

――なるほど、それは考えたことなかったな。

倉田 結構、失敗って、他人から見ると魅力的なことっていっぱいあるじゃないですか。

――あるある。

倉田 だからそこだ。実際問題、そういうのって格好悪いなと思うのは意外と自分だけだったりという感じもするんだけど。世間から見れば結構楽しいだけの話だったりするし

――失敗しても恥ずかしいのは自分だけだよ、周りは案外、ポジティブに喜んでくれているよ、みたいなことがあるんですよね、きっと。

倉田 でもうちはうちで、やっぱりこれからどういうふうにしていこうかな、と考えますよね。

――何かぼんやりとでもありますか?

倉田 この先ですか。

――うん。

倉田 多少有名に、無名ではなくなったわけじゃないですか。そうすると何がよくなったかというと、お金をもらって自分の好きなものを作れる可能性が広がったんですよね、まず。

 だからそれをもうちょっとコントロールして、大きくなり過ぎずに、まず舞台づくりをしたいというのが取りあえずの目標ですよね。そこから先はもうどうでもいいような感じです。本当に何をやったって、最終的に自分の作りたいものを作りたいというのが目的になっちゃうので。

――自分の作りたい物か。手を動かせば作りたいものを作れる、1/1の鉄の「ボトムズ」だって作れる、というのに、いろいろな人が気付いた。これは本当にでかいと思うな。

倉田 でも作るというのがそんなに難しいことですかと、本当にみんなに聞きたい感じはありますよ。

――最初に来たときもそういうことを言っていましたよね(笑)。大変でしょうと聞いたら、いや、鉄って結局楽な、簡単ないい素材なんですよ、みたいな話から入っちゃったので。

倉田 そうですよ、だってくぎが打てれば家は建てられるじゃん、ぶっちゃけ。

――(笑)

倉田 だから、それをやらないで、すごいね、すごいねと言ってくれるけどいいんでしょうか、という気は、この1年はしましたね、やっぱり。

――取り上げられ方としてはどうですか、こういうふうに見られるのかと思ってびっくりしたみたいなことってほかにもありませんか。

倉田 えー、どうだろうな。

 最近感じる温度差というのは、要は倉田は好きなことをやって暮らしていると。端から見るとどうやら、好きなことをやって物を作ってそれが一応生業になっているというレベルなのに、それが「結構、金になっているんじゃないか」と思われているようなきらいがあるんですよ。だからどうやったらそんなに効率よく好きなことをやってお金を儲けるんだと聞かれることがあります。

――そういう見られ方なんだ。

倉田 実際には、いかにお金をやりとりしないで心豊かな生活を(笑)、という方面じゃないですか、どっちかといったらね。だから何だか、ビジネスの成功者としてという感じで、興味を持ってくる人がいるのがちょっと驚いたですね。

――なるほどね。その両者は言葉にすると確かに似ているんだよな。そう考えた方が今のところ分かりやすいのも確かなんだよな。

倉田 でもそんなにうまい話があるわけないじゃんね(笑)。やろうと思ったらそういう方法もあるんだろうけど。

――確かに難しいですね。これは簡単に誤解されそうな話なんだな。

倉田 ブログを書くときも結構、気は使いますもん。

――あれこれ考えていくと、個人にとってお金って何なの、みたいなところに行き着いちゃう。

倉田 それは大きいですよね、本当に。

――「それでも経済誌の編集者か」と言われるのは覚悟してますが、プリミティブなところにいっちゃうんですよね、お金は価値を交換可能にしたもの、それ以上であってもそれ以下でもないはずなんだけど、難しい。

倉田 難しいですよね。労働価値イコールお金じゃなくなっちゃっているところが問題なわけで、「お金がお金を増やしちゃう」というところが急所なんじゃないですか。

――例えば、株は物を作っているヤツがいるから生まれたわけじゃないですか。全員が株をやりたいって言い出して、物を作らなくなったら話にならないわけで。あれは「××をやりたい」という夢というか、悪く言えばホラ話に金を張るためのシカケだったはずなんですよ。

倉田 この会社を応援したいから株を買うというのは、生っちょろい話に聞こえるんだけど、一番正しい姿なはずなんですよ、やっぱり。

 そうだ、今思い出したんですが、展覧会の話でちょっと補足させて下さい。あそこには、実は男の子の好きなことが全部集約されているんですよ。

――へぇ?

倉田 まず自らのお金を賭ける、というギャンブル性がある。自分でリスクを取って打つばくち、そういうことって人から見て面白いし、自分でも面白い。そして、色々自分でできることを持ったヤツらが集まってきて、いっしょになって何かやる、戦隊ものとか軍団的な、そういう意味合いの楽しさもあった。部活とか合宿のノリもある。突き詰めていくと全部それなんです、後から考えると。

――どんどん楽しい方へ、楽しい方へと突っ走ったと、なるほどね。そういう磁場に人が2万1000人引きつけられたんだ。おまけに採算も取れてしまった。

倉田 女には分からない世界だろうなと、いつも思ってたけど。

――でも分かってくれる人ができたそうですね。よかったですね。

倉田 まあ…はい(照)。

――おめでとうございます。

*   *   *   *   *

常連の皆様にご挨拶

 今回の記事は、こちらの常連になって頂いた皆様のみにこっそりお送りする。というか、いっさい告知しないので、ここに来た方しか気付かない。もちろん理由はある。毎回、かなり個人的な思い入れを込めて作ってきたこのコーナーの中でも、今回はとりわけ極端だからだ。読む方によっては「こいつ(インタビュアー)は何を喜んでいるんだ」と思うかもしれない。題材自体にまったく興味を持って頂けない可能性も高い。

 もっと正直に言うと、「自分だけが面白がっているんじゃないのか、これを出していいのか」と訝る、雑誌編集で育った経験と、「こいつは文句なく面白い」という、ネットの世界に触れて以降の直感とに、自分自身引き裂かれている。個人的な視点をはっきり出せることの面白さと、読んで頂く方への責任感、その間でぐらついている。そこで、常連様限定で、直感のほうに賭けてみることにした次第。ご意見、ご叱正などはこちらへお寄せ頂ければ幸いだ(hyamanak@nikkeibp.co.jp)。

 なお本企画「EXPRESS X」は、「日経ビジネスオンライン(NBonline)」の「人」コーナーで、さらにパワーアップして継続する予定。引き続きご愛顧頂ければ幸いです。こちらでのご愛読ありがとうございました。新アドレスでまたお会いしましょう。

(聞き手:日経ビジネスEXPRESS 山中 浩之、写真:大槻 純一)


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2006.03.28 UPDATE

倉田 光吾郎(くらた・こうごろう)

1973年東京生まれ。1991年、鉄製のギターで「FROM-A-THE-ART」佳作入選。92年に渋谷で個展開催、オペラの舞台装置デザイン及び製作、展示会などを重ね、2004年2月、河口湖近辺のアトリエで「装甲騎兵ボトムズ」に登場するロボットの1/1モデル制作を開始、7月にブログで制作日誌を公開したところ大反響に。2005年4月に完成、4月末から2週間、東京・水道橋で展覧会「Nurseglove」を開き、2万人超の観客を集める。