勝ち組製造業、国内投資のワケ

5月7日、日野自動車が500億円を投じる古河工場が稼働。2月にはブリヂストンも北九州工場の増強を発表している。業績好調な輸出企業こそ、円高でも国内にこだわる理由とは。

 ゴールデンウイーク直後の5月7日、日野自動車の新工場が稼働した。茨城県古河市に建てられた工場の総投資額は2020年までに500億円に上る。雇用を生み出す製造業の大型投資に、地元経済活性化の期待も高まる。

 円高や新興国の成長を考慮して、海外へ生産拠点を移す企業が多い中では異例の「逆張り」戦略だ。2012年3月期に世界販売台数で過去最高を記録し、今期は連結売上高と営業利益で過去最高を見込む同社の業績は、海外市場の伸びが牽引している。それでも国内生産にこだわるのは、商品特性に鑑みた企業戦略が根底にある。

 この日、古河工場では部品を輸出して現地で組み立てるノックダウン(KD)生産向けの部品梱包が始まった。日野自動車では現在、全生産台数に占める海外向けKD比率は6割近い。2010年代半ばには、この比率を7割まで増やすという。

 トラックやバスなどの商用車は乗用車と比べて販売台数が少ないうえ、同じ商品でも仕様が多岐にわたる。多品種少量生産に対応すべく、同社は国内でエンジンなどの基幹部品を製造、海外では現地調達の周辺部品に輸出した基幹部品を合わせて組み立てている。古河工場をそのKD生産の起点である「マザー工場」と位置づけ、2020年までに本社のある日野工場から全生産を移管する予定だ。

 同社は新工場の稼働とともに部品の共通化、集約化も進める。白井芳夫社長は「例えば後車軸部品は現状1000種類あるが、将来的に十数種類まで減らす」と言う。こうした生産革新を進めるためにも、新工場の場所は開発から生産まで技術者が揃っている国内でなければならなかった。

テルモは山口に新工場

 2012年12月期の連結営業利益が前期比40.6%増の2690億円と過去最高を見込む。そんな“勝ち組”のブリヂストンも、国内工場への大きな投資に踏み切った。同社は今年2月に北九州工場への47億円の設備投資を決めた。2009年に国内でおよそ30年ぶりに建てた同工場は、鉱山や建設機械用の大型タイヤを作っている。

 2014年前半には米国でも同種のタイヤ工場が稼働予定だが、市場の伸びに対応するため、生産能力の引き上げに急遽動いた。これで北九州と近隣の佐賀工場を合わせて、累計投資額は927億円となった。日本ではあまり使われない製品だが、当面は国内工場を中心とした生産で賄う。

 最大で直径4mのこうした大型タイヤは、ブリヂストンと仏ミシュランによるほぼ寡占状態が続く。価格より品質がシェア争いの争点になっているので、円高が続いても国内でのモノ作りが即座に不利になりにくいという事情もある。

 医療機器大手のテルモも2015年春、山口市で新工場を稼働する。総投資額は約300億円。主力製品のカテーテルなどが世界的に好調で、2012年3月期の連結売上高は前年同期比16.7%増の3830億円を見込む。汎用品の生産はフィリピンやベトナムへの海外移管を進める一方、高度な技術が必要な工程を山口工場などが担うことになる。

 3社の工場投資には、国内のリスク分散という狙いもある。東日本大震災で部品の供給網が寸断され、自動車工場などが生産停止に追い込まれたのは記憶に新しい。そうした事態に備える。

 国内生産を維持し、基幹技術の競争力を磨き続けることが成長を支える。その構造を戦略的に作り上げる道を選んだ点で、3社の“勝ち組製造業”は共通している。



日経ビジネス 2012年5月14日号 17ページより

(上木 貴博、広岡 延隆)

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