by トーマツ

成功するアナリティクス案件の選択とは

-ビッグデータ活用の浸透に向けて-

2014.10.30

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 前回はビジネスアナリティクス(以下、アナリティクス)を着実にスタートするための5つのステップを概説した。

 一方で、5つのステップを何事もなく遂行できるケースは稀であり、多くの課題に直面する企業が多いだろう。その中でも大きな課題のひとつが、新しい仕事のやり方を受け入れられない社員や経営陣の抵抗だと考えられる。特に、経営陣からコミットメントを得られない場合、必要な投資を受けられないことで、アナリティクスの浸透が難しくなる。このような事態に陥らないようにするためには、アナリティクスへの取り組みを始める前の準備が重要である。

 今回はアナリティクスに対する理解を得て取り組みを加速させるための「成功するアナリティクス案件の選択」について紹介しよう。

事業戦略からビジネス課題を洗い出す

 アナリティクスの目的の一つは、より良い意思決定を行う仕組みを構築する事により、競争力を強化することである。そのため、アナリティクスプロジェクトのテーマは事業戦略との整合性が高いことが重要である。

 プロジェクトを選択するにあたり、事業戦略の再認識からスタートして具体的なビジネス課題を洗い出すことが第一歩となる。例えば、「徹底的な顧客理解に基づく顧客ロイヤリティの形成」を重要戦略として据えている企業であれば、「顧客セグメントの理解」「顧客離反の抑制」などがビジネス課題となるだろう。

ビジネス課題をプロジェクトのテーマに「翻訳」する

 洗い出したビジネス課題そのものは、プロジェクトのテーマとするには粗すぎることが多いため、アナリティクスのテーマへ「翻訳」しなくてはならない。その際、「アナリティクスが答える6つの質問」というフレームワークが役に立つ。

 6つの質問は、「時間」と「情報」という2つの軸で整理されており、各質問に答えるための一般的なアプローチも記載されている。6つの質問に対応するプロジェクトを検討することで、意思決定者にとって有益なプロジェクトテーマを洗い出すことができる

アナリティクスが答える6つの質問
(出処:Thomas H. Davenport, Jeanne G. Harris, Robert Morison著「Analytics at Work: Smarter Decisions, Better Results」P.7を加工・翻訳)

 例として「顧客離反の抑制」というビジネス課題について上記6つの質問から考えてみよう。

 例えば、過去に「何が起きたのか」という問いに対しては、「顧客セグメント別の離反率の測定」や「顧客離反の要因分析」がプロジェクトのテーマになり得る。将来「起こりうる最高の結果、最悪の結果は何か」という問いの具体例としては、「競合他社が新商品を投入した際に自社顧客がどの程度離反するか」といった課題が考えられる。

 アナリティクスを用いれば、競合他社の新商品の詳細情報がなくとも、新商品のスペックや価格を想定し、自社顧客の離反率や財務インパクトについて、ベストシナリオとワーストシナリオを構築することができる。

 さらに、自社の対抗策として、商品のモデルチェンジや価格の見直し等の施策を盛り込みシミュレーションすることで、顧客離反のリスクを最小限にする打ち手も検討できる。このように、ビジネス課題を6つの質問から考えることで、意思決定者にとって有益なアナリティクスのテーマを導き出すことが可能になる。

フィージビリティとインパクトを評価する

 候補となるプロジェクトのテーマを整理できたら、優先順位を付ける。その際、次のようなマトリクスを用いてポートフォリオを作成するとよいだろう

(出処:Deloitte 「EIM Roadmap: Analytics」を翻訳・加工)

 このマトリクスは、「インパクト」と「フィージビリティ」(実行のしやすさ、実現可能性)の2つの視点からプロジェクトを評価している。

 「インパクト」は、そのプロジェクトを達成したときの業績、競争力、収益性に与える影響度を指す。「フィージビリティ」は、プロジェクトの実行のしやすさや成功確率と言える。プロジェクトの「フィージビリティ」を検討する際には、以下の視点から評価するとよいだろう。

  • 分析に必要な質・量を持つデータを入手できるか
  • 求められる分析は、現在のアナリストやアナリティクス環境で実施可能か
  • 関連する部門のマネージャーの協力が得られるか
  • 推進メンバーにとって経験を有する業務範囲か
  • 進捗状況や達成度を測定する明確な数値目標や基準が設定できるか

 これらの質問に対して前向きな回答が得られるプロジェクトは、「フィージビリティ」が高いといえる。ここで注意すべきポイントは、「フィージビリティ」の評価は、相対評価であり、あくまで優先すべきプロジェクトの特定を目的にしている点である。

 現状のアナリティクスのケイパビリティ(組織的能力)が十分でない企業の場合、ほとんどのプロジェクトの「フィージビリティ」が低いという結論になるだろう。しかし、その中でも着手しやすいプロジェクトをあぶり出すことが重要である。前回のステップ2「現状評価」でも述べたが、たとえこれらの質問に前向きな答えが得られなくても、アナリティクスの取り組みを諦める必要はないということを強調しておきたい。

 「インパクト」と「フィージビリティ」を検討し、マトリクス内にプロジェクトをプロットしたら、取り組む分析プロジェクトを決める。アナリティクスにある程度習熟している企業においては、このマトリクスの右上、つまり「インパクト」が大きく、「フィージビリティ」も高いプロジェクトは最優先で取り組むべきだと言える。しかし、アナリティクスに取り組み始めたばかりの企業、しかも推進役が経営陣でない場合は、注意が必要となる。

初期段階の企業は成功確率の高いプロジェクトを選ぶべき

 アナリティクスの効果を最大限享受するためには、全社的な理解のもと取り組みを拡大させることが重要である。しかし、現状、アナリティクスの推進役が部門長やユニット長、それ以下の社員であり、局所的な取り組みに留まっていることもいまだ一般的だろう。そういった環境では、経営陣や他事業部門の社員がアナリティクスを懐疑的に見ている可能性もある。

 このような状況を打破し、アナリティクスの取り組みを拡大させるには、プロジェクトを確実に成功させ、早い段階で経営陣からのコミットメントや社内で注目を集めることが最優先となる。このような状況にある企業は、より「フィージビリティ」の高さに重きを置いてプロジェクトを選択し、小さな成功を素早く勝ち取ることに注力するほうが賢明である場合が多い。

ポートフォリオのアップデートは継続的に行う

 プロジェクト候補の洗い出しから評価・選択のサイクルは随時実施し、マトリックスのアップデートを継続していく必要がある。なぜなら、外部環境や競争環境が短い間に激変する今日では、新しいビジネス課題、そして分析プロジェクトの新しいテーマが絶えず生じていくからである。

 新しいテーマだけでなく、既に取り組んだテーマにも目を配る必要がある。例えば、数年前に作った顧客行動を予測するモデルが、環境が変化したことによって役に立たなくなるケースも少なくない。また、アナリティクスのケイパビリティが拡大することで、より難易度の高いプロジェクトにも取り組むことができるようになり、優先順位も変わるだろう。

まとめ

 アナリティクスへの取り組みを始める前に、どのように対象となるテーマを洗い出し、優先順位を付けるかについて説明した。また、アナリティクスの初期段階にある企業が特に注意すべきポイントやプロジェクトのポートフォリオを見直していくことの重要性にも触れた。

 現状、多くの企業はアナリティクスに取り組み始めたばかりである。そのような状況下で、アナリティクスを推進するリーダーやチームが意識しなければならないことは、適切なプロジェクトの選択はもちろん、PDCAサイクルを確実に回し切り、成果を周囲に理解させることである。

 PDCAサイクルの高速化に挑戦していくことで、意思決定のスピードと質が向上し、競合との競争に打ち勝つことができる。それと同時に、この取り組みを継続していくことで、アナリティクスのケイパビリティは成長していくのである。

(当該記事は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではない)
堅田 洋資
有限責任監査法人 トーマツ  Deloitte Analytics

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