クローズアップ

「クリエイティブのABC」: 2015年2月号

編集能力は「情報の順番工学」、大変革の時代にこそ不可欠

コルク・代表取締役社長 佐渡島庸平氏

2015年1月23日(金)

西澤:まずお聞きしたいのですが、編集という仕事を選んだきかっけは何だったのでしょうか。

佐渡島庸平氏
さどしま ようへい ●コルク・代表取締役社長。2002 年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』『モダンタイムス』『16歳の教科書』などの編集を担当。12年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。(写真:丸毛 透)

佐渡島:実は大学教授になりたいと考えていたんです。大学で文学の研究をしていると、ずっと本を読めるので、それがいいと思っていました。大学に残るつもりでいましたが、親から大学に残る条件として、就活はしてほしいと言われました。

西澤:働けじゃなくて、就活だけしろとと言うのですね。

佐渡島:そうなんです。就活で社会のことをいくらかでも知ったら、大学に残るための学費を出すと。それで万が一にでも、受かってもいいように出版社を狙いました。漫画は大好きですが、基本的には純文学が好きなので、純文学が強い出版社ということで、講談社や文藝春秋、新潮社はどうかと。

 あと僕、大学のときのサークルで探検部に所属していました。結構、野宿とか好きでしたが、安全じゃない探検は嫌だったので(笑)、テレビ関連とか会社のお金で安全を確保したうえで、南極とか秘境に行けるようなところにも面接に行きました。

西澤明洋氏
にしざわ あきひろ ●エイトブランディングデザイン代表。ブランドから商品、店舗の開発など幅広いデザイン活動を行う。独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプトまで含めた一貫性のあるブランディングデザインを数多く手掛ける。著書に『ブランドのはじめかた』『ブランドのそだてかた』など。

西澤:出版社の試験とはどんなものでしたか。

佐渡島:文章を書いてばかりいた印象がありました。「クチコミについて書いてください」というお題で急に文章を書かされたりとか。書類もいっぱい提出しました。面接も結構大変です。途中まで行って、親はもう受けなくてもいいとは言っていましたが、僕は最終選考まで残ったので、最後まで受け続けました。

 そして講談社に内定が決まったのですが、僕は本当に本以外には興味がなくて、大学院に行こうと考えていたくらいでした。でも、大学院を卒業すると就職がもっと大変になるとも言われましたし、講談社の人事部からも社内のいろいろな方に会わせていただき、とても魅力的な会社だと思いましたので、講談社に入社することに決めました。

西澤:講談社に入社すると、いきなり漫画の担当になったのですね。

佐渡島:そうです。『モーニング』で井上雄彦さんの担当になったのでラッキーでした。他誌ですがバスケット漫画の『SLAM DUNK』で知られた井上雄彦さんは、僕にとってもう神様のような存在でした。講談社にいる間に、作家の村上春樹さんか井上雄彦さんの担当になりたいと考えていたほどです。ラッキーどころじゃないですよ。自分の人生の運を、そのときに全部使い果たしたと思っています(笑)。

西澤:講談社に入社した後、実際の編集の仕事はどうでしたか。

佐渡島:入社して初めて知りましたが、出版社の編集業務の技能って、実は明確に定義されてないのですよ。教育システムもしっかりしていません。ただし絶対にやらないといけないのが、進行管理です。締め切りに間に合わせるために、とにかく原稿を待っている時間が長かったですね。

 僕の場合、担当した井上雄彦さんの家や、安野モヨコさんの家に毎日のようにいたこともあります。待っている間に、安野モヨコさんの家の本棚にある本をたくさん読みました。でも、そうやって安野モヨコさんとの理解が急激に深まっていくのです。安野モヨコさんの好きな漫画を、僕は読んでいるわけですから。そうやって信頼関係を築くのが重要でした。

演出次第で内容が面白くなる

西澤:なるほど、編集でも進行や校了といった単なる管理業務だけなら、ほかの仕事にもあります。

佐渡島:そうした編集の業務に携わってみて、僕が不思議に感じたことがありました。編集者がほかの作品に対し意見を言ったりしなかったのです。「こんな切り口もあるのでは」などの議論って意外と行われていなかった。そういう議論がないと、編集技術を受け渡しできませんよね。僕は、それがすごく問題だなと思っていました。議論しながら、僕は編集というのが言わば演出の仕方を学ぶことだと思ったのです。

 僕が演出を学ぶうえで参考にした1つが、劇作家・演出家の平田オリザさんの『演劇入門』という本でした。その中で一番初めに、こんな例が出てきます。ずいぶん前に読んだものなので、記憶が変形しているかもしれませんが(笑)。カップルが美術館でデートをしているシーンから物語を作ると思って、それをイメージしてみてください。

 たぶんまずは美術館に飾ってある絵を思い浮かべ、それをマンガであれば一コマ目に入れたいと思うでしょう。でも平田オリザさんは違っていて、美術館なら、まず美術館という言葉から連想できるイメージを考えます。絵が飾ってあるとか、上野にあるとか、上野だと「静か」とか、いろいろ浮かびますよね。

 次々に連想していき、20個目ぐらいになると個人的なので本人にしか意味が分からなくなる、でも10番目ぐらいだと「ああ、そうか」みたいな感じになる。そこから始めるのです。

東京の青山ブックセンターで開催された「クリエイティブのABC」の公開インタビューの模様

西澤:編集とは順番を考えることですね。

佐渡島:そうです。物語をどう見せると読者の中にすっと入るのか。例えば、セリフで「お前は○○だな」といった説明的な内容を話すシーンって本当に多いと思いますが、それではすっと入って行かない。でも、平田オリザさんが書いたような手法をつかってうみだしたセリフだと、すっと入るのです。

 例えば、「静かだね」「ああ、そうだね」「こういうところに来るのは久しぶりだね」と言って、美術館の絵があったりする。先ほど僕は課題として美術館でカップルがデートしているところを挙げましたけど、もしこうしたセリフからシーンが始まったら「静かだね」「久しぶりだね」というセリフから、カップルの人間関係まで推測できるわけです。

 伝えたい情報に余白を残せば、たとえ書かれていなくても、ここにもっとこういうキャラクターがあるのでは、この人たちはこうじゃないか、と読み取れる。読者が想像できるよう、伝えたい情報に余白をいくらか残し、それがだいたい10番目ぐらいの連想になるようにすると、ちょうどいい余白で、そのキャラクターたちが持つ別の面の情報が伝わる。

西澤:編集者は、そういう点で堀り下げて作家に関与していくのですね。

佐渡島:新人の漫画家には、そうした点も含めてアドバイスしています。

 僕が新人に読むように進めるマンガとして、『聖☆おにいさん』があります。今日の話を聞いた後に『聖☆おにいさん』を読み返してください。左下のページのセリフがほとんど途中で終わっていたり、問いかけになっていたりします。そして、ページをめくるとセリフの続きや返事がある。2ページごとにちょっとだけだけど、先が気になるわけです。漫画を読み慣れていない人でも読みやすい。テレビのバラエティー番組でチャンネルを替えないようにする手法のような仕掛けを、『聖☆おにいさん』ではしっかり行っています。

西澤:漫画家にはあまり気付かないような点ですか。

佐渡島:こうした仕掛けを、無意識に行っている漫画家は多いと思います。僕は、それを意識的に行えるように新人にアドバイスします。キャラクターがうまくはまったときだけ、面白い物語ができる。そんな偶然に頼らなくていいよう、いろいろな演出のテクニックを意識できるようになることが大切だと思っています。

 物語の骨子は何か、演出とは何かをきちんと理解していないと、20年、30年と作家としてさまざまなストーリーを作り続けることができません。

 こうした、いろいろな考え方を新人の漫画家に言うとはじめは描けなくなってしまいます。今までバットをうまく振っていた人間が、打撃フォームの理論を言われると戸惑ってしまうのと同じですね。今までどう振っていたのかとか、もう訳が分からなくなって、つまらない作品を出してくることもあるのですが、それを1回乗り越えると、自分で物語を何度も直して、ブラッシュアップすることができるようになる。

西澤:まぐれ当たりでは長続きしないというわけですね。

佐渡島:ストーリーの面白さとは全部、演出と言えるのです。物語のネタ自体が面白いというケースもありますが、それはまれです。例えば『SLAM DUNK』がどういうストーリーかというと、主人公の桜木花道が3カ月間でバスケットが超うまくなりましたというストーリーです。これだけじゃ面白くないですよね(笑)。

西澤:見せ方で面白くなる。

佐渡島:そうです。物語を面白くするのは、設定よりも演出だと僕は思っています。誰も思いつかない唯一無二のアイディアって、一生のうちにいくつも思いつくのは、天才でもできないものです。演出は、やればやるほどうまくなっていきます。小山さんは、『宇宙兄弟』の連載をしながら、どんどん演出がうまくなっていきました。だから1話ごとに読み応えがあるのです。

大企業にいると変化に気付かない

西澤:出版社での編集の仕事からコルクを立ち上げたのは、何がきっかけだったのでしょうか。

佐渡島:編集の現場を変えたいといった気持ちはほとんどありませんでした。講談社にはすごく満足していて、好きな会社だったんです。でも直感的に動き、独立しました。

 僕は中学のときに、南アフリカに住んでいました。ちょうど、ネルソン・マンデラが大統領になったときで、アパルトヘイトで知られた南アフリカが、大きく変わりました。日本の歴史に例えると、明治維新を経験した感じでしょうか。貴重な経験でした。そのときと同じような大きな変化が、今の日本や世界中でも起ころうとしているのではないか、という直感だけがありました。こんなに大きく変化する時代に、講談社のようないい企業にいると、大きな変化に気付かないのではと危機感が芽生えてきて、その気持ちが抑えられなかったのです。

 出版社を辞めたときは33歳でした。業界的には注目されると思いましたが、業界外の人たちから注目されたのは意外でした。すぐにビジネスに結び付かなくても「話を聞きたい」と言ってくれる方が大勢いたのです。講演会などにもたくさん呼んでいただいて、2年間で6000人くらいの方と名刺交換をしていて、枚数を数えて僕もびっくりしました。(笑)

西澤:そんなにですか。

佐渡島:たくさんの人と会って話を聞くと、会社員のときと違ってさまざまなことが見えてきます。やっぱり成功している人で、“運” だけという人はいなくて、みんなよく考えている。外からはそう見えないサービスでも、詳しく聞くと考え抜かれているんです。超シンプルに見えるゲームでも、ゲーム業界の人からは軽く見られたものであっても、その中には時代を捉える哲学のような考え方があり、とても感動しました。

「インターネット的な」仕事に転換

西澤:コルクの仕事は、出版社での編集とはだいぶ変わったのですね。

佐渡島:そうです。今、僕がやっているのは、すごく「インターネット的」な感じです。

 例えば、ある本を何万冊も出版し、何万人の読者を感動させても、作家と密接な関係は築けません。サイン会で読者と触れ合うこともできますが、それだけで終わってしまうでしょう。

 しかし音楽業界とかタレント事務所などは、ファンクラブをつくってファンを育成しています。たとえ少数のファンでも、タレントを支える人たちの存在を重視している。ファンはタレントが無名のときから、ライブハウスに足を運んでくれたり、自主CDなどを買ってくれたりしてくれます。しかし出版業界では、そうしたファンクラブみたいな存在はつくっていない。これでは作家が次のステージに行こうというときに、応援してくれないのです。

 僕は今、漫画家の曽田正人さんの『テンプリズム』という作品の編集をしています。ファンタジーですが、曽田さんは20年近く漫画家をやっていて、ファンタジーは初挑戦です。世界市場を視野に入れた作品にしようといって、ファンタジーにしました。曽田さんは、絵柄も大きく変えました。すると20年間、読者だった人たちに、うまく新しい作品の存在が認知されない。ファンクラブがあったら、新しい挑戦をしているところから、ファンと共有して、挑戦を楽しんでもらえるのに、今の出版の仕組みだと、作家の新しい挑戦に気付いてもらうことすら難しいのです。

西澤:そうなんですか。

佐渡島:新人漫画家をコルクで育成するときは、いきなりヒットを狙うのではなく、ファンとの関係をどう成長させていくかが課題です。

 『今日のコルク』『ケシゴムライフ』という作品を描いている漫画家の羽賀翔一さんの場合には、一般書店ではなく「カフェ マメヒコ」という渋谷にあるおしゃれなカフェでイベントを展開しました。ここで羽賀さんとのトークショーを、僕は3カ月に1回ぐらい開催しています。羽賀さんは現在、カフェ マメヒコの冊子に無料で漫画を描いて、カフェをライブ会場のように使っています。こうすることで羽賀さんのコアなファンを育成しているのです。

 羽賀さんの本を大手出版社がフルサポートしても、今はコアなファンをつくることはできません。だから、大手出版社に頼って、出版をする必要性をあまり感じませんでした。そこでコルクで出版し、徳間書店に販売を委託しました。

 よりコアなファンを作るために、ミュージックセキュリティーズという投資会社で、羽賀さんの『ケシゴムライフ』を出版するための費用の投資を募りました。この取り組みは、おそらく世界初です。羽賀さんの本を今回は8000部刷りましたが、もし5000部売れると、投資家の利回りは、だいたい2年間で5%ぐらいになる。銀行に預けるよりいい。さらに電子書籍も無料でもらえるし、イベントにも参加できるなど、いろいろ楽しめる。出資した人たちは今後2年間、「羽賀翔一」が気になるのです。

西澤:新しいやり方ですね。

佐渡島:コルクには広告系の企業からも問い合わせが来ます。コルクがどんな会社か分からず、広告漫画を描けませんかと依頼されるのです。基本的にはそうした仕事は受けません。でも、そのような広告マンガは、新人漫画家が成長するための発表の場としては機能するでしょう。

日本のコンテンツ産業は遅れている

西澤:これまでの編集という仕事は、出版という起点からしかお金を生み出せなかったのが、いろいろな関わりを出せるようになるのですね。

佐渡島:今までは「本」しかなかったのが、作家の才能に対して広告のビジネスとか、新人なら受託業務などもあるでしょう。才能を開花させるチャンスはどんどん広がっています。仕事をすると露出も増えるので、次第にファンも増えます。ネット上なら、作家とファンが1対1に結び付くことも可能です。羽賀さんの人気が出たら、毎月500 円の定額課金を払ってくれるようなファンたちが1万人ついてくれるかもしれない。

西澤:作家に対するエージェンシーのような存在ですね。

佐渡島:米国にも出版のエージェントはいますが、権利関係を扱うために弁護士が行う場合が多く、マネジメント業務はまた別です。コルクのように、両方を同時にやっていくことでコンテンツのビジネスを大きく変えることができると思っています。

 日本の出版産業は、最近は1兆7000億円弱の規模です。この数字は大手自動車企業と比べると影響力の大きさの割に、小さい産業だと気付かされます。

 なぜ出版業界の売り上げが低いのか。僕はビジネスが下手だったからだと思っています。日本の作品は、海外と比べても高い質を誇っていると思いますが、売り上げには大きな違いがある。売り上げの差は、質の差ではなく、ビジネスマンの力の差です。今、大きく時代が変わっていて、ビジネスの仕組みも変化しています。このタイミングに、日本のエンターテインメントのビジネスの仕組みを大きく変えることが十分に可能だと思っています。

西澤:ビジネスのフレームワークを新たにつくるべきだと。

佐渡島:今すべてのビジネスのフレームワークが変わろうとしています。重要なのは誰が新しいフレームワークをつくるかという点です。IT系のベンチャーの人たちと話していると、みんなそれを議論し合っているんですよ。それも単なるお金儲けの議論じゃなく、人の欲望はどう動くのかといった哲学的な議論にも及びます。考えに考え抜いて、最も鋭い考えを持った企業が勝つのです。

西澤:コルクはコンテンツの売り方を変えたいと思っているのでしょうか。本という形にもこだわらないのですね。

佐渡島:そうです。本はグッズの1つです。僕もまだ明確な答えは出せていませんが、スマートフォン的な読み方やストーリーが出てくると思っています。今後はストーリーの在り方が変わってくるはずです。それが何かをものすごく考えていますよ。

「順番」次第で売り上げが変わる

西澤:それを実験しながら、投資的にやってみたりしているのですね。エージェントというか、職能として佐渡島さんのような働き方をする編集者はいなかったと思います。こういう職種に求められる編集者としての能力はどういう点なのでしょうか。

佐渡島:編集者としての能力じゃなく、僕の今の能力はベンチャー経営者なんです。出版社の編集者がやっている作業とはずいぶん違う。

西澤:でも、売り方の枠組みを再編集しようとしているように思いますが。

佐渡島:再編集というより、戦略の「順番」を考えることかもしれませんね。ビジネスって、成功するかはどうか全部、実行する順番ではないでしょうか。同じアイディアを持つ人はたくさんいて、成功するかどうかは、実行の順番です。物語の設定よりも演出が大事というのと根本の考え方は同じです。

 例えば「LINE マンガ」はすごい売上高で、大手書店のアプリの売り上げを超えています。LINE マンガはもともと有料で漫画を売っていましたが、そこに無料連載の漫画を付けたら、有料連載の漫画がとても売れだしたんです。これ、とてもうまい順番なんですよ。魅力的な売り場を用意して、そこに人を集めたことで人はたくさん買った。一方、無料のマンガでお客さんをたくさん集めた後に有料で売り始めても、なかなかみんな買い出さない。順番を間違えると、行動をうまくコントロールできないのです。

西澤:佐渡島さんの仕事は、やっぱり編集と言えますね。

佐渡島:そうですね。どんなサービスでも必ず、どの順番で出すかという戦略を考えるべきなんです。つまり僕は漫画や作家を編集していたのが、今はビジネスを「編集」しているのかもしれない。

 サービスには順番に対する考え方が必要で、さまざまなアドバイスができるのは編集者出身だからじゃないかと思っています。だから、編集という職業が実は経営に有利なんじゃないかと考えて、経営が初めての自分でもできるんだって、言い聞かせています(笑)。

西澤:最後に、編集という仕事を一言で説明すると何でしょうか。

佐渡島:編集とは、僕は情報の順番工学という言い方をします。

西澤:それがすべてのビジネスや作家に対していい影響を与える、新しいクリエーティブの職能ではないかというお話ですね。今日はありがとうございました。

対談を終えて……「 編集」というスキルの使い方に注目

 「編集」という視点から、新しくクリエーターのためのエージェント活動を行う佐渡島庸平さん。扱われる作品の1 つひとつの編集に対しても興味があるが、今回、佐渡島さんの話の中で最も共感したのは、編集という作家や作品に対するクリエーティブスキルを、もう少し大きな枠組みに活用していこうとしている点である。

 コルクの基本業務は、まずは既存の書籍の流通の枠組みの中で、作家をエージェントしていくことである。しかし、対談中で登場する羽賀翔一さんの例のように、単に作家をエージェントするだけでなく、プロモーションし、その作品の販売にまで関わっていく活動は注目に値する。またインターネットというインフラが整った現在、その販売方法は、既存の書籍の流通方法にとらわれていない。

 これは出版社という「企業経営」の編集であり、さらには既存の「出版業界」の編集に対するチャレンジとも取れるはずだ。

企業経営の「順番」とは?

 企業経営の編集というと、ぼやっとした抽象なイメージになってしまうが、佐渡島さんの言うように「順番」と捉えると、とても分かりやすい。

 企業ブランディンングの事例でみると、業界で当たり前とされている流通フローを変えたり、またそのコミュニケーションの手段を変えることで、成功しているブランドは多い。例えば、地方の中小メーカーが、卸から直販に転じるようなケースなどは、まさにこれに当たるだろう。

「すでにある価値」を編集せよ

 ただし、企業がブランディングを行う際に、よく勘違いがある。まったく新しいものを無理矢理に生み出そうとすることだ。自分たちの強みとは直接関係ない新規事業や新商品開発などは、ブランディングに効果を発揮しにくい。ブランディングで最も重要なことは、企業の中に「すでにある価値」の編集である。今まで位置付けの低かったものを引き上げたり、重要なもの以外の要素を削除していったり、コンテンツの見せ方を変えるだけでも企業は生まれ変わることができる。

 私はここまで含めてブランディングデザインと呼んでいるが、佐渡島さんの言う編集という作家や作品に対する細やかな技術論を改めて見てみると、そこには企業経営に応用の効くヒントが、たくさん隠されているように思う。(西澤明洋)

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