クローズアップ

第4回「クリエイティブのABC」

地元のために立ち上がる人を増やすのが僕らのミッション

studio-L代表・コミュニティーデザイナー、山崎亮氏

2015年4月23日(木)

西澤:山崎さんは「コミュニティデザイン」を提唱されていますが、どのような活動でしょうか。

「福祉の分野もコミュニティデザインの力で貢献したい」
山崎 亮氏
やまざき りょう

●studio-L代表。1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院(地域生態工学専攻)修了、SEN環境計画室勤務後、2005年にstudio-Lを設立。東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)、慶應義塾大学特別招へい教授。主な著書に『コミュニティデザイン(学芸出版社)』『ソーシャルデザイン・アトラス(鹿島出版会)』『コミュニティデザインの時代(中公新書)』『まちの幸福論(NHK出版)』などがある。
(写真:丸毛 透)

山崎:コミュニティデザインは、住民参加型のワークショップなどを通じ、地域の課題を地元の方々が発見し、地元で解決していくための手法です。活動の中心となるのは、さまざまな人と人をつなげる「コミュニティ」で、我々は地元の方々が主体的に解決できるようにサポートするのが役目です。

西澤:建築関係を学んだ山崎さんが、なぜコミュニティデザインをお仕事としてやってみようと思われたのでしょうか。

山崎:きっかけは1995年の阪神・淡路大震災です。当時は都市計画や建築などを勉強していた大学院生でしたが、被害状況を調査するため学会から依頼され、ボランティアとして現地に行きました。地震発生後、まだ5日目ぐらいのころで、神戸市住吉駅の南側を、地図を持って調査したのです。周辺の建物を全壊や半壊、部分壊などとチェックして歩きました。僕が担当した地域の建物は、ほぼ全壊でした。地震が原因とはいえ、建築が結果的に多くの人に被害を与えてしまいました。暗たんたる気持ちになり、建築の仕事に自信がなくなる思いでした。

 一方でそうした悲惨な状況でも、多くの住民の方々が住吉川の河原に集まって洗濯とか炊事をしていたのです。異常に結束力が高い光景でした。これは災害ユートピアという現象で、何かあったときに一致団結し、皆で協力しようとする状態が生まれるそうです。災害時だけでなく日常的に助け合う状態をつくれないかと、この光景を見たときに感じたのです。絶対に倒れない建築をつくるのか、それとも人と人をつなぐ仕事を取るべきか。どちらかをやりたいと思いました。

 絶対に倒れない建築を、原理的につくることは可能です。要するに塊みたいなものをつくればいい。しかし人間が生活するために内部空間を広げると、揺れたときにつぶれてしまう。そうしたせめぎ合いなんですよ、建築って。どれぐらい内部空間を広くして、柱を細くできるかを考えても、想定を上回る状況になると人間にとって危険な存在になる。もちろん、さまざまな技術者が知恵を絞って建築に取り組んでいますが、僕は人と人をつなぐ方に関心が出てきたのです。

「地域に帰属しているという意識に新たな幸せがある」
西澤明洋氏
にしざわ あきひろ

●エイトブランディングデザイン代表。ブランドから商品、店舗の開発など幅広いデザイン活動を行う。独自のデザイン開発手法により、リサーチからプランニング、コンセプトまで含めた一貫性のあるブランディングデザインを数多く手掛ける。著書に『ブランドのはじめかた』『ブランドのそだてかた』など。

西澤:就職活動はどうされたのですか。

西澤:もやもやとしながらも、一応は建築事務所に入りました。そこは公共施設の設計にあたり、地元の意見を聞くワークショップを実施していました。当時としては先進的な考えでした。

 でも、僕はワークショップが嫌いだったのです。地元の方と言っても「デザインの素人」ですから、たとえ意見を聞いても良いものはできないって思いました。クリエーターの頭の中こそが最適でバランス感覚を取れると教育されてきましたし、たくさんの人の意見を聞けば聞くほどデザインの質は下がるといった先人たちの考え方も知っています。設計事務所に6年間勤めましたが、最初の3年間はワークショップが本当に嫌でしたね。

西澤:どのようなワークショップだったのでしょうか。プロダクトデザインのワークショップとはちょっと違いますよね。

山崎:現在のコミュニティデザインでのワークショップは、地元の方たち自身が主体的に活動を起こせるようにしたものです。しかし当時、その建築事務所で行っていたのは、言わば合意形成のためのワークショップでした。

 どんな建築空間をつくるか、どんな公園にすべきかなどと地元と合意を得るために開催していたのです。それでもワークショップを進めていくと、次第に仲良くなって一緒に飲みに行ったりするのですが、ようやくメンバーがまとまりかけたときに、ワークショップが終わってしまう。せっかく「コミュニティ」と呼べる意識が出てきたのに、合意ができればそれ以上、先には進まなかった。非常にもったいない話です。だから、生まれたコミュニティを活かし、メンバーが主体的に活躍できるようにしたいと思い始めたのです。建築事務所にいた後半の3年間は、そうしたコミュニティつくりを中心に活動していました。

最初は「ダーツ投げ」から

西澤:独立しようと考えたのはいつぐらいですか。

山崎:31歳のときに6年間勤めた建築事務所を辞め、studio-Lを2005年に設立しました。

西澤:studio-Lでは、最初からコミュニティデザインがメーンで、建築設計はやらないと決めていたのですか。

山崎:それでは食べていけないと思ったので、設計の図面書きの手伝いをやりながら、隙あらばコミュニティデザインを手がけるといった感じですね。将来はコミュニティデザインだけを仕事にしたいと考えていましたが、絶対に発注は来ないという自信がありました(笑)。

 会社のホームページを開設して、「studio-Lは人と人をつなぐ会社です」と書きましたが、怪しくてしょうがない。こんな会社に誰が発注するのかと自分でも思いましたね。これでは確実に仕事が来ないぞと。

西澤:仕事が来るようになったきっかけは何ですか。

山崎:待っていても仕事は来ないので、もう自分たちで勝手に「これがコミュニティデザインだ」という事例をつくるしかありません。頼まれもしないのに、ある地域に行ってプロジェクトを立ち上げたのです。それが兵庫県姫路市にある家島でのプロジェクトでした。家島は漁業や採石業を中心とした小さな島で、人口も落ち込んでいました。地元の方々も、何とかしたいと言う考えはあったのでしょうが、自ら変革を起こす意識は当時は鈍かったようです。

西澤:なぜ家島を選んだのでしょうか。

山崎:日本地図に向けてダーツを投げたら、偶然、家島に刺さったからです。

西澤:テレビ番組に「ダーツの旅」というのがありましたが(笑)。

山崎:その通りです。刺さったのだから仕方がないと、メンバーで行きました。僕らが家島で活動していくと、次第に島の人たちと仲良くなりました。

 すると地元のおばちゃんたちが家島の特産品を開発・販売するNPOをつくる、と言ってくれたんです。おばちゃんたちに「NPOって何か分かっていますか」と聞いたたら、「いや、分からへんねん。でもかっこいいやん」と言ってくれて。おばちゃんたちは今でも特産品を開発し、島の広報誌を発行したりしています。もう怖い物知らずです。最初のころ、僕らは全然、お金をもらっていません。お金を払って活動したほどです。

西澤:すごいことをしますね。

山崎:2007年までの間、お金はもらわずに自腹でプロジェクトを進めました。ただし活動の記録は全部、写真に撮って冊子にしています。1年に1冊ずつ出して、僕らの仕事はこうです、と具体的に言えるようにしたのです。

 それが最初のきっかけです。家島でのプロジェクトを知った大学の先生が、島根県隠岐郡の海士町の町長に話をしたことで、海士町から初めて正式な仕事を発注してもらいました。

兵庫県姫路市の家島プロジェクトでは、地元の主婦たちで設立したNPOの「いえしま」と特産品開発などに取り組んだ
NPO「いえしま」で開発している特産品の1つ。大漁時に値下がりする魚や規格外の海産物を適正価格で買い取り、加工している

「HWTSサイクル」で推進する

西澤:コミュニティデザインには、確立された手法があるのですか。

山崎:案件によって細かい点は違いますが、「PDCAサイクル」をまねた「HWTSサイクル」と呼ぶ進め方を考えています。

 Hは「ヒアリング(Hearing)」です。10人から多いときは100人に聞きます。地元の人と友だちになるためのプロセスとも言えます。同時に「リサーチ(Research)」も進めます。ヒアリングで地元の方と親しくなったら、次がWの「ワークショップ(Workshop)」で、個別に聞いた話を皆さんと一緒に議論していく。ワークショップで議論した内容が、具体的なプランニングにつながります。そして、皆さんの意見を実行に移すチームを作るのが、Tの「チーム・ビルディング(Team Building)」です。これを支援するデザインの作業があるため、図のTの横にデザインのDを置きました。チームが活動を開始しても、すぐ実行できないので、Sの「サポート(Support)」が必要になるわけです。

山崎亮氏が考える「コミュニティデザイン」の進め方。地元の「ヒアリング」と「リサーチ」の後に「ワークショップ」を行って「プラン」を立案する。「チーム」によるプロジェクトを実行に移す際には、「デザイン」や「サポート」が必要になる

西澤:発注先は、どこまで依頼するのですか。

山崎:計画書を作るところまでですね。海士町の場合も、総合計画の作成が依頼内容でした。しかしワークショップを繰り返すことで、単なるビジョンだけにとどまらず、地元の人たちが参加して新しい事業が生まれたりするのです。

 東京・墨田区でのケースも、「食育推進計画」の作成がメーンでしたが、ワークショップを進めていくうちに、食育カードのゲームを作ろうというアイデアが出てきました。そこで今度はカードゲーム作りのワークショップを行い、プロトタイプまで手がけました。

 家島のおばちゃんたちみたいに、自ら活動を開始してくれる人たちを増やしていく。それが僕らにはミッションであり、ゴールになります。

西澤:地域の帰属意識に幸せを感じてもらうわけですか。

山崎:誰かにやらされている活動だったら全然、面白くないでしょう。帰属意識を高めつつ、活動が楽しいと思えなくてはいけません。

コミュニティデザインのスキルとは

西澤:studio-Lは、何人いるのですか。

山崎:コアメンバーやリーダー、スタッフ、インターンと合計で約30人です。コアメンバーが事務所の方向性を決め、リーダーが現在は60ぐらいある全国のプロジェクトを主導していく。入社するとうちは全員、インターンからスタートします。まずインターンとしてプロジェクトに参加し、非営利事業の業務を経験させてみる。いい動きをしている人は、営利事業の方でインターンになったりスタッフになったりします。うちは営利と非営利の両方を手がけている言わば「NPC(Non-Profit Company)」です。株主は僕だけでメンバーは個人事業主の集まりという形態ですから、一般的な企業体に比べて自由に活動できるでしょうね。

西澤:珍しいですね。基本はプロジェクト制ですか。

山崎:はい。リーダーがほとんど差配しています。自分が今回のプロジェクトで欲しい思うスタッフを何人か集めて、業務を回していくというスタイルです。

西澤:メンバーに求められるスキルは何でしょうか。

山崎:人前で話したり、人の話を聴いたり、文章が書けたり、スケッチができたりといったところでしょうか。非言語でコミュニケーションが取れることですね。ワークショップでも議論が多いので、理性だけではなく感性でも話せるようにできればいい。もちろん、プロジェクトのスケジュール管理や予算管理のスキルも重要です。

西澤:そうしたスキルがあれば「コミュニティデザイナー」になれるのですか。

山崎:実はいま言ったようなスキルは僕ができることであって、それがすべてとは思いません。僕ができないスキルは入れていないのです。僕の基準をメンバーたちに当てはめるのは無理だということが分かってきました。

 以前は、僕が努力して身に付けたスキルだからメンバーたちも努力すれば身に付くと思っていました。現在は、僕が持っていないスキルをメンバーたちがそれぞれいかに伸ばして貢献してもらうかを考え、育成とチームの編成を行っています。

西澤:その考え方には、すごく共感しますね。studio-Lはどこまで規模を広げるのでしょうか。

山崎:大きくするつもりはありません。10人ぐらいでいいと思います。今の人数ではやや多いかもしれません。

西澤:今後、山崎さんがやってみたいことは何でしょうか。

山崎:福祉の分野ですね。財政的な壁もあり、行政がすべての福祉を実施するのは難しいでしょう。そこにコミュニティデザインの力で貢献したいと思っています。

西澤:コミュニティデザイナーを一言で表現するとどうなりますか。

山崎:うちのスタッフが、「我々は共同体結束業だな」と言うのです。スタッフの父親に丸太を組んで綱で結束する職人さんがいまして、結束業と呼ぶらしい。まさしく我々も地域の結束業です。結束する方法にデザイン的な要素が入っているので、ほかにないオリジナルなスタイルになっているのでしょう。

西澤:確かにそうですね。本日はありがとうございました。

対談を終えて…… コミュニティの「思考の枠組み」をデザインする

 山崎亮さんの「コミュニティデザイン」は、徹底的にリアルな人間関係を追求したコミュニティづくりである。島や村に入り込んで、地域の人とたちとどんどん仲良くなって、新たなコミュニティを次々と生み出していく。

 コミュニティとは活動体であり、山崎さん率いるstudio-L はコミュニティの源泉となる「新しい活動」を生み出すための「環境づくり」を行っている。

メンバー全員が参加できる仕掛け

 山崎さんのデザインの中で、特筆すべき点は「ワークショップ」である。元々は「建築の合意形成を図るための手法としてはじめた」とのことであるが、コミュニティづくりの意思決定プロセスにデザインを活用することで、そのスピードと共有の強さを飛躍的に高めている。

 デザインとは、一般的に「形をつくるための手技としてのスキル」と理解されていることが多いが、実は細かいレベルでみると、さまざまな「検証」と「決定」の繰り返しから成り立っている。この検証と決定プロセスを、可視化したり、並べ替えたり、書き換えたりできるようにすることで、1つのアイデアを形づくる際にメンバー全員がデザインへ参加することが可能となる。

さまざまな分野に応用可能

 事例の中で、studio-L がワークショプの進行を企画したり、意思決定の補助的ツールとしてさまざまな小道具を用意したりする話が出たが、実はこのあたりの周到な準備が、コミュニティデザインの完成度を上げているように感じた。

 人は、まったくのまっさらな状態で「自由にコミュニティをつくって良い」と促されても、自由な発想はなかなか生まれてこない。それが赤の他人同士の集まりだとなおさらである。

 「不自由な自由」という言い方をすることもあるが、ワークショップの場、すなわち全体の進行と意思決定の補助的ツールは、コミュニティの「思考の枠組み」となっている。この枠組みがきちんとデザインされていると、その中で自由に考えることは容易になり、最終的に形成されるコミュニティも良いデザインとなる可能性が高くなる。

 ビジネスやデザインの現場では、「モノからコトへ」などと言われて久しいが、コミュニティデザインのノウハウはまさにそうしたクリエーションに直結した技術であり、今後、多くの分野への応用が期待できる手法だろう。(西澤明洋)

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