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旦那衆は囲い込みがお好き

2009年4月13日(月)

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 マスターズの中継を見ながら、「パトロン」という言葉に当惑をおぼえた人はいないだろうか?

 私は、何年か前に由来を聞いていたので驚かなかったが、はじめて聞いた時には、ちょっと面食らった。

「パトロン? どこにそんな連中がいるんだ?」

 と。

 念のために解説しておく。
「パトロン」は、「観客」のことだ。

 マスターズトーナメントでは、「観客」ないしは「ギャラリー」のことを、「パトロン」と呼ぶのである。

 なぜ、ほかの大会と違う呼び方をするのかについては、おいおい説明する。

 とにかく、今年のマスターズ中継では、この「パトロン」という耳慣れない用語が連呼されていた。中継放送においてのみではない。この半月ほど、TBS経由で流れてくる電波は、ニュースと言わず、深夜のバラエティーと言わず、少なからぬ比率でマスターズの番宣を含んでいたのだが、その番宣の中で「パトロン」は、お題目みたいな調子で繰り返されたのである。

 去年までは、こんなことはなかった。「パトロン」という言葉を使うアナウンサーはいたが、従来の中継では、彼らも一応簡単な解説を加えた上でこの言葉を使っていた。

 それが、今年になって、「パトロン」は、解説抜きで使われるようになった。
 理由は、たぶん、番宣が多かったからだ。

 TBSは、自局が独占放映権を持っているマスターズトーナメントに、日本ゴルフ界の期待の星・石川遼君が招待されることが決まって以来、ずっと舞い上がっていて、特にこの一週間は、ほとんどあらゆる番組で番宣を繰り返していた。で、その番宣原稿の中で、「パトロン」という言葉の由来は、おそらくのべで勘定すれば20回以上(←オダジマ推計)、解説されていた。

 それゆえ、放送している側の人々は、いいかげんにうんざりして、説明を省くようになった。ありそうな話だ。ある段階で、彼らは、「パトロン」を既知の単語として扱うことに決めたのだ。だって、一時間毎に同じ言葉を同じフォーマットで解説するのは、いくらなんでもくどいから。まあ、気持ちはわかる。現場は用語解説なんかに時間を使いたくないのだよ。

 さてしかし人々は、一日中TBSの放送を見ているわけではない。

 だから、「パトロン」については、少なからぬ数の視聴者が、既知の外だったりする。

「ん? パトロン? どういうことだ? どこの旦那衆がジョージアで芸者をあげてるんだ?」

 と、この言葉をはじめて聞いた人は、どうしたってとまどう。だって、アメリカ南部のゴルフ場に銀座のチーママの旦那筋が大挙駆けつけているというのは、およそ奇妙ななりゆきだからだ。

 「パトロン」は、日本語の感覚では、「旦那」「いいヒト」「おこづかいをくださるオジサマ」「金づる」「金主」ぐらいなニュアンスの、どちらかといえば助平ったらしい金満家を連想させる言葉だ。というよりも、これは、普通の場面で普通の日本人が使う言葉ではない。夜の世界の、それも、おそらくは色と情と金の絡んだ、ムード歌謡の世界のキーワードだ。

「ねえ、聞いた? マユミママのパトロンって××興業の△△専務だったんですって」
「どうりで。六丁目にいきなり20坪のお店だなんて、普通のヒトじゃ無理よね」

 私は、夜の世界に詳しい男ではない。パトロンが銀座特産の人物像である旨について、確たる証拠を握っているわけでもない。が、銀座の夜のあれこれについて描いた小説の中に、上記のような会話が頻出していることは知っている。まあ、それだけの話だが。

 マスターズ中継の中ではじめて「パトロン」という言葉を聞いたのは、たぶんタイガー・ウッズが2回目の優勝を果たした2001年の大会ぐらいの時だったと思う。

 ゴルフは、「間」の多い競技だ。
 それゆえ、ゴルフのテレビ中継は、プレーの合間に「マナーとルールの豆知識」だとか「マスターズちょっといい話」みたいなお話を、随時挿入しながら進行することになっている。

 「パトロン」の話も、そんな流れで紹介された。
 サンデーゴルファーの向学心を刺激し、早朝観戦者の特権意識をくすぐる豆知識として、だ。

 放送内で紹介されていた「パトロンの由来」の概要は以下の通り。あくまでも私の記憶を再現した内容なので、鵜呑みにしないように。

 記憶といえば、前々回で披露した、「愛こそはすべて(All you need is love)」の翻訳は、あれは誤訳でした。読者の方からやんわりと(←お心遣いありがとう)間違いを指摘するメールをいただきました。

 たしかに、あらためて読んでみれば、 "There's nothing you can do that can't be done." は、二重否定で、ということは「できないことはない」わけだから、「なんでもできる」というポジティブな歌詞になる。なるほど。

 私の記憶では、オノヨーコが「できないことはできないということをご理解ください」という一文を、確かにファンへのメッセージの中で言っていたはずなのだが、そこはそれ、マイ・スウィート・メモリーである。甘く、柔らかく、不確かで不得要領な若き日の思い出。記憶は役に立たない。特に私のようなクリエイティブな記憶力を持った者の記憶は、ほとんどまったく資料的価値を持っていない。困ったことだ。
 
 パトロンの話に戻る。
 マスターズにおいてギャラリーがパトロンと呼ばれるのは、トーナメントが発足したばかりの頃、財政的に苦しかった大会を、開催地であるオーガスタ・ナショナルGCのメンバーが、自腹を切って支えていたからなのだという。

コメント22件コメント/レビュー

パトロン⇒石川遼⇒王子⇒玉子⇒目玉焼き⇒元サッカー選手の流れと、「目玉焼きはもっと良くない。」のくだりに文章構成のセンスとさまざまな選手への愛情を感じます。次回も期待しております。(次は「愛」⇒「藍」あたりを考えているんでしょうか。)(2009/05/11)

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「旦那衆は囲い込みがお好き」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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いただいたコメント

パトロン⇒石川遼⇒王子⇒玉子⇒目玉焼き⇒元サッカー選手の流れと、「目玉焼きはもっと良くない。」のくだりに文章構成のセンスとさまざまな選手への愛情を感じます。次回も期待しております。(次は「愛」⇒「藍」あたりを考えているんでしょうか。)(2009/05/11)

確かにTVや新聞がマス向けにジャーゴンを使う場合は、何度もの繰り返しになったとしても各番組内で毎回説明すべきでしょうね。では、説明なしでジャーゴンを使ってもかまわないのはどの程度の間柄までか?という事に関し、コラムを読んだ感想としては小田嶋様は「これから内輪になるであろう人、もしくは内輪に入りたての人に配慮があれば問題ない」とおっしゃっていると解釈しております。コラム内では結婚式のお話が出ておりましたが、結婚式とは内輪、もしくはこれから内輪になる人達で出席者が構成されているはずですので、おそらくマナー違反だとおっしゃりたいのは「これから内輪になる人に対して配慮がない」事であって、それがあれば問題ないと言う事であろうと思います。ちなみに、ゴルフ場のメンバー限定のお話が出ていましたが、それはここ日経ビジネスオンラインでも同様ですね。一度ログインするとログイン画面が定期的には出ないのでお忘れの方もいらっしゃるかと思いますが、日経ビジネスオンラインもメンバー制のサイトです。非メンバーにはゴルフ場同様にコラムの1ページ目の最後に「次ページ以降は「日経ビジネスオンライン会員」(無料)の方および「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみお読みいただけます。」と看板が出て2ページ目以降を読む事はできません。つまり日経ビジネスオンラインもゴルフ場と同じく内輪の人で構成されているので、その中でジャーゴンが使われる事もありますね。(2009/04/16)

小田嶋先生、前回取り上げておられた森田健作千葉県知事ですが、さっそく「無党派偽装」問題で火の手があがっちゃいましたね。 先を読む先生の鋭いセンスに思わずニヤリといたしましております。 さて、さんざん知事を囲い込んで持ち上げてきた内輪好きのTV局さんたちは今後どう出てくるのでしょうか?楽しみです。 もちろん、江戸川の対岸の土手の上から生暖かく見守るんですよね?団扇片手に。 (ch-k)(2009/04/16)

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