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リードタイムがズルズル延びる日本メーカーの病理

そのサイクルを6分の1に短縮した“意外”な方法

  • 岸良 裕司

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[2/6ページ]

2011年6月6日(月)

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 こうなると、市場での価格競争は激化するばかり。新興国の旺盛な需要を受けて、製品の市場は年々拡大しているものの、製品の価格は下げ止まらない。生産現場の爪に火をともすような1円単位、1銭単位のコストダウンの努力もむなしく、市場では数割にも及ぶディスカウント(値引き)が行われるようになっていた。

 B社が直面している問題はまだあった。競争に勝つために、競合他社は6カ月ごとに新製品を投入してくる。その結果、新たに発売した製品が人気を博して売れ行きが好調に推移する“旬”の期間は、2~3カ月にまで縮まってしまったのだ。

 B社の財務諸表を分析すると、12週間分近くの棚卸資産がある。原因は、製品の売れ余りだけではない。ヒットしている製品は逆に品切れとなり、販売サイドからは新たな発注が立て続けに入ってくる。しかし、一部の部品の10週間を超える供給リードタイムが足かせとなり、製品の生産が間に合わない。その間の欠品を防ぐため、販売サイドでは日本の中央倉庫に大量の製品を保管していた。これも棚卸資産が膨らむ一因になっていた。

 ただし、販売サイドで製品の在庫を抱えていても、欠品を完全になくすことはできず、それに伴う機会損失は深刻化していた。生産リードタイムをいかに短縮するか。この問題は、B社の毎月の経営会議の主要な議題にまでなっていた。

 その際にリードタイム短縮の障害として常に挙がっていたのが、生産量を大きく左右する季節要因である。クリスマス商戦をはじめとして世界各地で年に数回訪れる需要のピーク直前の生産量は、通常の2倍や3倍に達することもしばしば。生産量を年間で平準化しようとする生産現場の懸命の努力は実を結ばず、ピーク直前に急増する生産量の削減もB社の長年の懸案となっていた。

 さらにここに来て、中国における人件費の高騰がB社の苦境に追い打ちをかけている。製品の製造コストの上昇要因となり、収益を圧迫。こうした状況を打開し、いかに収益性を改善して営業利益率を高めるか。山積する難題に頭を抱えたB社の経営陣は、我々に助言を求めてきた。

製品の組み立て・加工時間はわずか数十分なのに……

 B社の経営を立て直すためには、製品のコスト構造を抜本的に見直したり、生産拠点を中国よりもさらにコストの低い国・地域に移したりするのが一般的な対応だろう。しかしTOCでは、異なるアプローチを取る。まずは時間に着目する。

 B社の本社が中国の工場に製品の生産を指示してから、完成品が日本にある中央倉庫に搬入されるまでのリードタイム(1週間の海上輸送期間も含む)は、一部の部品の供給リードタイムの影響を受けて、12週間近くに及んでいる。

 一方で、この製品を生産する際の部品の組み立てや加工に要する時間(タッチタイム)は、わずか数十分だ。12週間と数十分──。このあまりにも大きな時間差に我々は着目した。

 タッチタイムが数十分だとすると、ほかの時間は何かと言えば、生産計画が出来上がるのを待っている時間、部品を待っている時間、次の作業現場までの搬送を待っている時間、出荷の手続きを待っている時間などである。つまり、大半は「何かを待っている時間」ということになる。

 ならば、次の図に示すように、タッチタイムよりもはるかに長い「待っている時間」(キュータイム)を削減した方が、効果的であるのは明らかだろう。

 調べてみると、B社の生産現場では、本社が作成した16週間先までの需要予測をベースに製品の生産計画を作成していた。こうした予測が当たらないのは、前回にも述べた通りだ。

 さらに店頭でのヒット製品の品切れや、季節の移り変わりに応じたプロモーション(販促)に対応するための「特急品」の生産指示が頻繁に入る。その結果、せっかく立てた生産計画が変更されることもしばしば。また部品の欠品によって製品が生産できないことも少なくなかった。

我々が提案したシンプルな解決法

 ここで我々が提案した解決策は端的に言うと、「製品の生産開始をできるだけ入庫期限に引きつける」というシンプルなものだ。

 製品の加工時間はわずか数十分と、リードタイムに比較して格段に短いのだから、現場で製品の生産にいったん入れば、実は1週間もあれば、十分なゆとりを持って製品を完成させることができる。

 中国の工場で製品の生産を始めてから、完成品を中央倉庫を経由して日本各地の倉庫に入庫するまでの期間は、日本の通関や輸送時間を含めても2週間もあれば十分だ。そこで製品の生産をスタートさせるタイミングを、中央倉庫への入庫期限の2週間前に引きつけることにした。

 それまでは本社が予測した16週間先の需要に合わせて、中央倉庫に入庫する期限の12週間前に工場で生産計画を作成。そして生産が期末や月末に集中することを避けて平準化するために、入庫期限の4週間前(需要のピーク時にはさらに早く6~8週間前)に生産計画を確定し、生産を開始していた。それを入庫期限の2週間前に生産を開始するというルールに変更したわけだ。

 かつては工場の生産現場に4週間分あった仕掛かり品の量は2週間分に減少する。それに伴って、工程途中の部品の在庫も半減する。生産現場のモノの流れは、見違えるほどにスムーズになった。

コメント16件コメント/レビュー

 下請け製造メーカーの経営者の立場で申し上げます。 本文については、実例に基づいた改革の内容が、大変参考になりました。 コメントも全て読ませて頂きましたが、様々な立場と、見方の違いがあり、(本文よりむしろ)興味深く読ませて頂きました。 確かにセットメーカーは、下請けに厳しく、非人情的で、コンプライアンス上間違っている点、倫理観にかける面があり、憤りを感じています。 ただし、それでも我々は、前を向いて、自ら強くなるしかありません。良いところは取り入れる素直さは必要だと思います。 肝心なことは、成果を上げることであり、ノルマ的な改善活動は、効果があまりなく、反対に、自主的な、自働化された現場と、賢い経営が連動していれば、手法は違っても、自ずと成果は上がるのではと思ってます。 (2011/06/16)

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いただいたコメント

 下請け製造メーカーの経営者の立場で申し上げます。 本文については、実例に基づいた改革の内容が、大変参考になりました。 コメントも全て読ませて頂きましたが、様々な立場と、見方の違いがあり、(本文よりむしろ)興味深く読ませて頂きました。 確かにセットメーカーは、下請けに厳しく、非人情的で、コンプライアンス上間違っている点、倫理観にかける面があり、憤りを感じています。 ただし、それでも我々は、前を向いて、自ら強くなるしかありません。良いところは取り入れる素直さは必要だと思います。 肝心なことは、成果を上げることであり、ノルマ的な改善活動は、効果があまりなく、反対に、自主的な、自働化された現場と、賢い経営が連動していれば、手法は違っても、自ずと成果は上がるのではと思ってます。 (2011/06/16)

実際に2000年に導入したと書いた者です。日本は需要不足と言われますが、真実は需要と供給のミスマッチだと思っています。「本当は消費を楽しみたいけど、欲しいものが売ってない」ということです。だから需要に応える一部商品はプレミアが付いても売れてます。一方でまとめ生産の作りすぎで需要を上回り、タダ同然で投げ売られてるものもある横で。「あなたの工場の生産能力は?」と聞かれたら普通は数量を答えるでしょう。「どれだけの数が作れる・量が作れる」という回答。でもそれって需要にマッチしているのでしょうか。そこが問題です。 「個衆(大衆の反語)」という言葉がもう古ささえ感じさせる時代、需要が細分化されている市場に対応できている企業はどれだけあるのでしょう。だから、現代は生産能力を聞かれれば「何種類作れる」という答えも必要なのです。が、これに即答できる工場責任者は自動車メーカーぐらいでしょう(自動車工場の実際の潜在能力は生産台数=生産車種数です。色をはじめ、限りない組み合わせの注文を一台一台管理生産できる潜在能力があります。活かしてるかどうかは別として)。それを意識してない経営者や工場責任者の方が多いのではないのでしょうか。もちろん途上国の需要は大量生産を求めますから、今の意識でも海外に出ればやっていけるでしょう。日本で需要が細分化(個衆化)している今現在の一番の例はスマートフォンです。ユーザーは色んなソフトを入れたり、設定を自分に合ったものにして、「自分だけの欲しいもの」に仕上げています。実際、スマートフォンやPDAは全く同じ状態で使われてる個体は1台として存在してないでしょう。私もPDAの時代、色んなユーザーと会いましたが、1台として同じものは無かったです。見かけは同じでも、操作すればすぐに違うことが判ります。これが証明。日本での需要にマッチしたものを適切なタイミングで供給するには、リードタイムのムダは許されません。この記事で取り上げられたようなムダは取り去らねばなりません。それができれば需要の無いものは生産されず、投売りで利益を失うこともありません。だからやっきになって導入したのです。「欲しがられないもの」を努力して生産することほど虚しい事はありませんから。どうせ作るんなら、手にした人が喜ぶものを作れる工場にしたいものです。(2011/06/08)

毎回”なるほど”という気持ちで拝読しています。文章を読むと当たり前のことのようにも思えますが、実は当たり前のことを実行するのが難しいということを、実務をやっている者としては実感しています。サプライチェーンはつながっていてこそチェーンですが、実際にやっていることは意外と個別最適で分断されてしまっているのではないでしょうか?ゴールもクリスタルボールも再読しようと思いました。TOCはいろいろな分野に応用できると思います。(2011/06/07)

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