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実は陸戦の展開を左右した鉄道輸送

2013年4月23日(火)

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[一般のイメージ]後の太平洋戦争と違って、日露戦争では、物資の補給はそれほど重大な問題ではなかった。
日露両軍とも、鉄道によって十分な補給を確保できるかどうかが作戦を大きく左右した。

 昔は補給物資を「糧秣」と呼んだ。食糧の「糧」と馬に与える「秣(まぐさ)」のことである。日露戦争当時は、この「糧秣」が補給物資の中で大きな比重を占めていた。

 日本軍の1個師団には、約1万人の歩兵が配属されていた。専門兵科である騎兵・砲兵・工兵や後方支援部隊を含めると、総員は約1万8000人である。さらに、軍馬約5000頭を保有していた。

 兵士の食事には、1日に米6合と味噌や缶詰などの副食物を支給した。その重量を1人当たり1.5キログラムとすると、1万8000人分で27トン/日となる。馬の場合はさらに大変だ。大麦5升(1升は約1.5キログラム)と秣2貫(1貫は3.75キログラム)の約15キログラムを与えるため、5000頭分で75トン/日である。つまり、1個師団当たり毎日約100トンの「糧秣」を必要とした。

 日露戦争中で最大の戦いとなった奉天会戦には、およそ20個師団相当の兵力が参加しているので、計2000トン/日となる。

 その他にも兵器、弾薬、被服、各種資材も運ばないといけない。また、大規模な戦闘が生起すれば消費量が急増する。そのため、3000トン/日くらいの輸送力を確保する必要があった。

馬匹輸送の限界

 それだけの物資を、荷馬車で運ぶとどうなるだろうか。1馬力とは、標準的な荷役馬1頭のする仕事を計算したもので、牽引力(荷車を引く力)を180ポンド(約82キログラム)、1時間に進む距離を1万852フィート(約3.3キロメートル)としている。わかりやすくするために、時速を5キロメートルに設定すると、牽引力は約54キログラムとなる。そして、牽引力と荷車の重量の関係は、牽引力=摩擦係数×荷車の重量である。

 地面が舗装道路でないこと、そして荷車の車輪がゴムタイヤでなく、木製車輪に鉄のたがをはめたものであることを勘案すると、摩擦係数は0.2くらいだろう。牽引力として54キログラムを式に入れると、荷車の重量は270キログラムとなる。荷車自体の重量を差し引くと、積荷は200キログラムくらいだ。そして、馬の労働時間を8時間とすると、1日の移動距離は40キロメートルとなる。つまり、1頭立ての荷馬車1台で200キログラムの貨物を1日40キロメートル運ぶのがやっとだろう。

 しかも、馬の飼料も一緒に運ばないといけないので、遠距離輸送になるほどネットの輸送量が減少する。例えば、大連・奉天間の距離は約400キロメートルなので、往復に20日間かかる。これでは、積載した貨物のすべてを飼料として食いつぶしても足りず、戦場には何も届かない。

 結局のところ、馬匹(ばひつ)輸送に頼っていては、遠隔地での軍事作戦は不可能ということだ。言い換えれば、大量輸送に適した交通機関、すなわち鉄道や船舶の利用が作戦の大前提となる。遼陽会戦・奉天会戦など、日露戦争の主要な戦闘が東清鉄道の沿線で繰り広げられたのはそのためである。

コメント4件コメント/レビュー

「実は」もなにも、そんなの常識だよ。奉天会戦で長蛇を逸したのも、露助は列車でトンズラ出来たからだ。(2013/04/23)

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「実は陸戦の展開を左右した鉄道輸送」の著者

樋口 晴彦

樋口 晴彦(ひぐち・はるひこ)

警察大学校教授

危機管理、リスク管理に関して広い知見を有し、特に企業不祥事の研究では第一人者。また、戦国時代、日清・日露戦争、第二次世界大戦などの戦史をマネジメントの観点から分析。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

「実は」もなにも、そんなの常識だよ。奉天会戦で長蛇を逸したのも、露助は列車でトンズラ出来たからだ。(2013/04/23)

どこでも水と食料が現地調達できる日本人は、子供のころから日常的に兵站教育が必要ないので、兵站技術に特に劣っているものと思っていました。会社に入って、やはり、特に実感したものです。兵站教育はシステム教育ですから、大学の必修科目とすることが必要と考えています。会社システムの全体を兵站教育から学べば、原発のバックエンド問題も最初から対処できるし、場当たり的な対応もなくなる。そのような上司の下で働くと最悪である。また、技術開発の兵站を知らないトップほど技術開発は重要だという役員が多いこと、明日にでも技術開発が、新製品ができるものと思っているから始末が悪い。技術開発は戦争であるという認識と兵站システムを理解しない役員は最悪である。物資、兵隊、兵器の輸送は、鉄道輸送に限らず、用船、港、生産地などシステム教育に最適です。政治家もしかり、上に立つものの必須科目です。(2013/04/23)

クレフェルトの「補給戦」を彷彿とさせる内容ですね。ただ、補給戦でも指摘されている通り、現実には鉄道・船舶だけで補給するのは困難です。前線は流動的であり、離れていく末端駅からは馬匹・人力による輸送をしないといけない為です。そのゆえ、当時の戦争は、まだまだ現地調達に頼らざるを得なかった事にも触れて欲しいと思います。(2013/04/23)

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