熊谷 徹

熊谷 徹

在独ジャーナリスト

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 相変わらず、ドイツの脱原子力と再生可能エネルギー拡大政策について、調べたり書いたりしています。このテーマについては、2000年から取材、執筆して来ました。日本からこのテーマについての講演の問い合わせが多く、エネルギー問題への関心の高まりを感じます。  脱原子力は、ドイツが進めているエネルギー供給構造の根本的な転換(エネルギー革命)の一部にすぎません。これからも、エネルギー革命には紆余曲折があると予想されます。長期的に定点観測を続けようと思っています。

 もう一つのテーマはユーロ危機。ユーロについてはエネルギー問題よりも関わりが長く、1990年にドイツに来た時から記事を書いてきました。当時からの蓄積が、役立っています。ユーロ危機は沈静化しているように見えるかもしれませんが、単に通貨だけでなく欧州諸国の南北格差に関する深刻な問題なので、今後も尾を引くでしょう。

 今年は久しぶりに、政治の混乱が続くイタリアに行ってみたいと思っています。私の自宅からイタリア国境までは、車で3時間で行けます。車で簡単に旅行できるのが、欧州大陸の醍醐味です。シェンゲン協定のおかげで、国境の検査も全くありません。20年前には考えられなかったことです。

 去年はアジアへの出張も多い年で、日本に3回、北京に1回、タイに1回、香港に3回行きました。12月には、香港で4週間働きましたが、アジアの面白さにもとりつかれています。

熊谷徹のヨーロッパ通信 ジェノバ高速道路崩壊とイタリア発ユーロ危機

ポピュリスト政権がEU批判に利用

  • 2018年08月21日(火)
一部が250メートルにわたって突然崩壊したモランディ橋(写真:AFP/アフロ)

「病んだ橋」の崩壊

 この事故はイタリア人だけでなく多くのヨーロッパ人に深い衝撃を与えた。ポルチェヴェーラ高架橋、もしくは建築家の名前を取ってモランディ橋と呼ばれる陸橋の一部が250メートルにわたって突然崩壊し、橋を通っていたドライバーら43⼈が死亡した。橋の近くに住んでいた住民約600人も退去を命じられた。

 イタリア政府はジェノバ市に「非常事態」を発令し、犠牲者の捜索と瓦礫の除去、橋の再建に全力を注ぐ方針を明らかにした。一部の死者の葬儀が行われた8月18日に、全ての国民が政府の呼びかけに応じて喪に服した。イタリアの夏を暗転させた、国民的惨事である。

 事故の原因はまだ特定されていない。だがこの橋は建設されてから51年経っているほか、多くのイタリア人が「モランディ橋を通過する時には、振動が激しかった」と語っていることから老朽化が一因である可能性が強い。ジェノバ大学で建築学を教えているアントニオ・ブレンチク教授は「モランディ橋の揺れ方は、異常だった」と証言している。地元の建築関係者の間では、数年前から「モランディ橋を建て替えるべきだ」という声が上がっていた。

 この橋はイタリアとフランスを結ぶ高速道路A10号線の一部で、毎日約4000台の大型トラックが通過していた。橋はリグリア海に近く、塩分を含んだ風に常にさらされている。事故の直前にジェノバ周辺では強い雨が降っていた。

 モランディ橋は、鉄筋を包んだコンクリートの柱(パイロン)で陸橋を支える独特の構造を持っている。この工法は1960年代には「時代の最先端」と評されたが、その後他の陸橋ではほとんど採用されなかった。建設当初、高速道路の運営機関が「100年間使用できる」と豪語したモランディ橋は、その半分の歳月で崩壊した。イタリアの日刊紙「コリエレ・デラ・セーラ」はモランディ橋を「病んだ橋」と形容している。この工法に欠陥があったかどうかについては、現在イタリア政府が調査している。

 筆者も2014年にドイツからイタリア西部のリグリア地方へ車で走った時に、ジェノバ付近の陸橋を通った。この付近は丘陵が多いので、高速道路は高さ50メートルの陸橋の上を通っている。高所恐怖症の人には高速道路の上から地面を見下ろすのはお勧めできない。筆者も運転席で「今この橋が崩れたら一巻の終わりだ」と一瞬思ったが、緑の丘、そして青い海を見ながら走る爽快感の方が強かった。

 ヨーロッパでは今でも車による旅行が最も経済的である。特に家族や荷物が多い場合には、車による移動が最も便利だ。毎年夏休みになるとヨーロッパ北部に住む人たちがイタリアへ車で押し寄せる。それだけに夏のバカンスたけなわの時期を直撃したこの事故は、多くの行楽客を震撼させたはずだ。

    著者プロフィール

    熊谷 徹

    熊谷 徹(くまがい・とおる)

    在独ジャーナリスト

    1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局勤務中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン市に在住。過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境 問題を中心に取材、執筆を続けている。著書「ドイツは過去とどう向き合ってきたか」(高文研)で2007年度平和・協同ジャーナリズム奨励賞受賞。

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