ミシマ社、京都の一軒家からの出版革命

「一冊入魂」を掲げ全員全チーム経営

出版業界の将来に危機感

 複数の出版社勤務を経た後、三島代表が31歳でミシマ社を設立したのは2006年のこと。創業当時から、三島代表には出版業界の将来に対する危機意識があったという。

三島代表はミシマ社のロゴマークが描かれたTシャツを着て取材に応対してくれた

 国内では出版不況がささやかれて久しいが、三島代表が専門とする単行本に関して言えば、1990年代半ばに年間3万点前後だった新刊の発行点数は、ビジネス書のブームも手伝って年間7万~8万点に増えている。ただし、日本全体の単行本の売上高は15年間、ほぼ横ばい。各出版社は売り上げ減を補うために、新刊をいたずらに増やしている可能性があった。

 「こんな本作りを続けたのでは、1冊当たりのクオリティーが落ちてしまう」

 出版業界に身を置く三島代表は、常にこうした危機感を抱いていた。「各出版社は自らの経営を維持することに懸命で、読者を喜ばせるという本来の目的に向かっていないのではないか。少なくとも、自分が立ち上げる出版社はそうありたくない」(三島代表)。ミシマ社が1冊の本作りに全力を注ぐ「一冊入魂」を掲げる背景には、三島代表のこんな強い思いがある。

取次を介さず、自社で書店と契約

 「一冊入魂」の理念は、ミシマ社の経営の至るところに貫かれている。編集面では原則として持ち込み原稿を受けつけず、自社企画の単行本作りに専念している。一度発行した本は絶版にしないという方針を掲げ、特定の物流会社と契約して自社で在庫を管理している。「作家や編集者の情熱が本屋さんや読者に伝わらない恐れがある」(三島代表)ため、取次会社は利用せず、自社で全国の書店と直取引するという徹底ぶりだ。

 こうした経営手法は出版業界で異端視されることもあるが、三島代表に取次制度などを批判する意図はない。むしろ、書籍を全国の読者に届けるためのとても優れた制度だと認めている。ミシマ社が他の出版社と異なる経営手法を採用しているのは、あくまで三島代表が「自分にとってできるだけ自然な働き方とスタイルを追求した結果にすぎない」のだと言う。

 業界の慣行に縛られない柔軟性は、組織運営にも表れている。

 同社の機能は大きく分けると編集と営業、総務、イベント企画の4つに分かれているが、「当社のように小さな出版社は、機械作業のように作業を分化して業務が回るわけではない」(三島代表)。こうした考えに基づき、ミシマ社では全社員がすべての業務を兼務する「全員全チーム」のルールを導入している。

 現在、東京・自由が丘の本社に4人、京都オフィスに3人の社員が勤務しているが、各社員には自らの担当業務だけではなく、ほかの社員の業務を互いにフォローすることを義務づけている。例えば、三島代表は京都に常駐して主に編集業務に携わっているが、同時にいくつかの地域の営業を担当し、全国各地の書店への訪問営業もこなしている。こうした出張先での出会いが、新たな企画のきっかけになることもあるためだ。

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著者プロフィール

白石 武志

白石 武志

日経ビジネス記者

日本経済新聞社編集局産業部(機械グループ)、京都支社、産業部(通信グループ、経営グループ)を経て、2011年から日経ビジネス編集部。現在は通信、半導体、家電業界などを担当する。

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いただいたコメントコメント1件

自宅から徒歩10分のところにこんな会社があったんですねえ。今度行ってみます。(2012/10/23)

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