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遠藤周作に30年寄り添った弟子に聞く「沈黙」

2017年1月31日(火)

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「沈黙」で遠藤周作が後悔していたこと

(c) 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

作品の真意をくみ取ったと感じたのは、具体的にはどのあたりなのでしょうか?

加藤:それを説明するにあたって、遠藤周作が生前に語っていた「沈黙」に関して後悔していたことについてお話ししましょう。先生が60代の半ば、晩年なのですが、自書である「沈黙」について語る1時間のビデオを作りました。長崎、すなわち「沈黙」の舞台を訪ね、そこで私が聞き役となりました。私も聞きたいことを全部聞きましたし、先生もそれについて丁寧に答えてくれました。

 私は「沈黙」を今改めてどう思うかについて尋ねたのです。「沈黙」は著者が42歳の時に執筆したので、それから20年以上が経っていました。

 すると先生は大きく2つの後悔があると言ったのです。この小説は、日本でキリスト教が弾圧されていた時期に日本に来た、ポルトガルの司祭セバスチアン・ロドリゴを主人公とするものです。役人はロドリゴに信仰を棄てること、すなわち「転ぶ」ことを強要しますが、なかなかロドリゴは転ばない。しかし、小説の終盤でついに転ぶ。この転んだシーンがあまりに鮮烈なので、多くの読者がロドリゴは信仰を棄てたと考えた。ところが作者は、「ロドリゴは信仰を棄てていない」ということを書きたかったと言うのです。

 作者は、ロドリゴが信仰を棄てていないことを、確かに小説のなかに書いたのです。最後の章の後の「切支丹屋敷役人日記」の中です。たとえば以下の部分です。

「宗門の書物相(あひ)認(したた)め申し候様(やう)にと遠江守申付けられ候」

 ここでは、ロドリゴが書を書けと役人に言われている。では、何の書かというと、「私は転びます」という書なんです。しかも、これを何回もやらされる。つまり、何回も「私は転びます」と書きながら、そのたびに彼は信仰を取り戻し、そして最後までそれを棄てなかったということを読者に知らせるため、作者は「切支丹屋敷役人日記」を置いたのに、それが古文調であったこともあって、巻末の資料としか見られなかったのです。

私も原作を読んでいて、その「日記」の章は意味が捉えにくかったこともあり、ほぼ流してしまいました。

キリスト教徒ならわかる「鶏が鳴く」意味

加藤:実は、ロドリゴが転んでいないということは、クライマックスのシーンにも作者は何気なく書いています。ただし、これも日本の読者にはわかりにくかった。ロドリゴが踏絵を踏み終わったシーンです。

「こうして司祭が踏絵に足をかけたとき、朝が来た。鶏が遠くで鳴いた」

 この「鶏が遠くで鳴いた」というところには、作者の思いが込められています。「鶏が鳴く」といえば、西洋のキリスト教徒なら、おそらく誰もが、聖書の中の一つのシーン――「ペテロの否認」を思い浮かべます。ペテロというイエスの弟子が、イエスが捕まったときに、町まで様子を見に行くのですが、人々から「この男も今日捕まったあの男と一緒にいた」と指さされて、「私はあんな人は知らない」と否認するのですが、そのときに鶏が鳴きます。

 これは例の最後の晩餐の際にイエスが予告していたことです。「おまえは鶏が鳴く前に、三度私のことを知らないというだろう」。そしてその通りになって、ペテロが激しく泣くというシーンが新約聖書にあります。

コメント13件コメント/レビュー

2017/2/4朝刊文化欄 映画「沈黙 私はこう見る」の解説記事のお三方のコメント登場はこんな贅沢があるのかと思いました。他では目にすることがないであろう解説豪華キャスト揃いです。若松英輔さんはNHK100分de名著「苦海浄土」の解説をされました。著者石牟礼道子さんをこれほどまでに読み込んでいるのかと若松さんの感受性に圧倒されました。日経のこの記事で若松さんを目にするのは2回目になります。それほど目にかかる機会はわたしにはありません。しかし、文化の感受性という点で秀れた人だと感じています。映画評論家としてあまりに力量のある佐藤忠男さん。そしてエール大教授(映画学)アーロン・ジェローさんはわたしは全く初めてです。"信仰、罪、傲慢という主題を追ってきたスコセッシが本当に撮りたかった作品だと思う。自分の問題意識を貫きながら、遠藤の原作にも忠実だ。" 映画「沈黙」はいまだに見ていませんが、すばらしい感性で映画を見ておられます。"---それがあえてよかった。この映画の中心人物にとっての根本的な問題は、どんなに祈っても神は沈黙していること。スコセッシは映像のスタイルの中にも沈黙をつくった。" お三方のお話で原作を超えた映画「沈黙」のすばらしさが伝わってきました。原作を読み込んで、さらに多くの広がりと深みを映画監督は付けていることを教えていただきました。(2017/02/06 22:06)

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「遠藤周作に30年寄り添った弟子に聞く「沈黙」」の著者

木村 知史

木村 知史(きむら・ともふみ)

日経ビジネスDigital編集長

日経メカニカル、日経ものづくり編集などを経て、2014年4月から日経ビジネスDigital編集長。アプリ開発やサイト運営をメインの業務とする一方で、製造業関連や中国関連の記事をサイトに執筆。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

2017/2/4朝刊文化欄 映画「沈黙 私はこう見る」の解説記事のお三方のコメント登場はこんな贅沢があるのかと思いました。他では目にすることがないであろう解説豪華キャスト揃いです。若松英輔さんはNHK100分de名著「苦海浄土」の解説をされました。著者石牟礼道子さんをこれほどまでに読み込んでいるのかと若松さんの感受性に圧倒されました。日経のこの記事で若松さんを目にするのは2回目になります。それほど目にかかる機会はわたしにはありません。しかし、文化の感受性という点で秀れた人だと感じています。映画評論家としてあまりに力量のある佐藤忠男さん。そしてエール大教授(映画学)アーロン・ジェローさんはわたしは全く初めてです。"信仰、罪、傲慢という主題を追ってきたスコセッシが本当に撮りたかった作品だと思う。自分の問題意識を貫きながら、遠藤の原作にも忠実だ。" 映画「沈黙」はいまだに見ていませんが、すばらしい感性で映画を見ておられます。"---それがあえてよかった。この映画の中心人物にとっての根本的な問題は、どんなに祈っても神は沈黙していること。スコセッシは映像のスタイルの中にも沈黙をつくった。" お三方のお話で原作を超えた映画「沈黙」のすばらしさが伝わってきました。原作を読み込んで、さらに多くの広がりと深みを映画監督は付けていることを教えていただきました。(2017/02/06 22:06)

沈黙を見た時、長崎弁で話されると思っていたので英語だったので不思議な気がした。通訳と
井上さまの英語が上手なのは自然な感じだった。私は本を数十年前に読んであったので大変、良く
作られた映画だと思った。長崎のキリシタンの方々には気の毒だったが日本がポルトガルやスペインの植民地にならなかったのは幕府の過酷な取り締まりの為ということがこの映画で示された。殉教の過酷さは本や映画をはるかにこえているので映画ではかなりおさえられていると思った。神父達が
最後まで信仰を持っていた事は最後のほうで神父2人の会話で察した。二百数十年後の長崎に隠れキリシタンの子孫が次々と現れ、明治維新になっていたにもかかわらず、大勢が殉教した史実も、この映画の最後にあれば良かった。(2017/02/03 00:05)

作品に解説はいらない、と言う人もいます。しかし、この記事はぜひ、映画を観る前でも、観た後でも読んでいただきたいものです。遠藤周作氏自身が語っていると思うからです。(2017/01/31 18:58)

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