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頑張ると叱られる職場の記憶

2018年4月13日(金)

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 ということはつまり、求められているのは、一定時間内に一定量のノルマを、ダラダラとこなしながら、終業時間を待つことだった。

 これは、当時の中学生にとっても、比較的意外な要求だった。
 「だって、頑張ると怒られるんだぜ」
 「やり過ぎてないか、時々監視のヤツが見にくるんだから」
 と、彼らは証言していた。

 この話について、ある年かさの親戚が漏らした
「そりゃ、サボタージュ体質ってやつだな。あの組合の人間は、働けば働くほど損をすると考えているんだ」
 という解説を鵜呑みにしたわけでもないのだが、ともあれ、中学生だった私が、この時の郵便局の人間の働きぶりの話から強い印象を受けたことはたしかだ。

 「なるほど。頑張りすぎないように気をつけることが、自分の身を守る大切な心得であるような職場があるのだな」

 という私の当時の観察が正しかったのかどうかはいまとなってはよくわからない。

 ともあれ、昭和のある時代に、雇用側の労働強化に対する抵抗の仕方のひとつとして、ひたすらにダラダラ働く人々がいたことについては、この場を借りて、証言しておきたい。

 無論この話は、半世紀も前の逸話だし、当時、日本中のすべての郵便局の組合員がダラダラ働いていたわけでもないのだとは思う。でも、少なくとも、私の住んでいたあたりの郵便局の50年前の局員たちが、年末年始にアルバイトでやってきている中学生に、根を詰めて働きすぎることをいましめる旨の指導をしていたことは、事実なのだ。

 似た話はいくらでもある。
 いったいに、われら日本人が集まって働くことになる職場では、人並み外れて優れた仕事ぶりをアピールすることよりは、周囲の同僚の能力なり労働強度なりに同調することが重要視されることになっている。

 あんまりガツガツ働く態度は、あからさまに手を抜く仕事ぶり同様、最終的には白眼視を招く。

 この傾向は、昨今、コンサルだったり経営評論家だったりする人たちが繰り返し指摘している定番の日本特殊論エピソードのひとつで、概念的には「プロセスよりも結果が重視される諸外国の職場において、個々の働き手が自己裁量で仕事の進め方を決めているのに対し、結果よりプロセスが重視され、ひとつのプロジェクトをチーム単位で請け負うことの多いわが国の職場では、個々の労働者のノルマはチーム内の同僚の顔色から算出される」ぐらいなマイナスの実例として紹介されることになっている。

 まあ、おおむねその通りなのだとは思う。
 とはいえ、それでは、業務分担のあり方をチーム単位から、個人の責任に着する方向に改めれば万事解決なのかというと、たぶんそんなに簡単に話が運ぶことはない。

 われわれは、心の奥深いところで、みんなと一緒にダラダラ過ごす時間を至上の経験として重んじている。
 この設定は、簡単には変わらない。

 というのもわたくしどもこの極東の島国で暮らす人間たちは、伝統的に、成果を出すことや利益をあげることそのものよりも、みんながいっしょである状況を愛しているからだ。

コメント88件コメント/レビュー

ではなぜ能力給にならないのか。能力給は基本給に上乗せならば法律違反ではない。
しかし、能力給にするには個人の能力をいちいち評価せねばならない。
しかも様々な面で妥当な形で。
これがめんどくさい。だからやらない。

国会議員はどうか。なぜ消極的に現政権を支持せざるを得ないのか。
それは国民が本当に有能な国会議員を選出するという作業、場合によっては、自らが名乗り出て政治を行うという作業に対してしたがらないからである。
人格イメージだけで選択する。めんどくさいから。
年数回しかない投票所に行くのすらめんどくさい。
だからやらない。

結局、被権限者が怠惰なのは、権限者も怠惰だからなのである。

ではなぜ怠惰で許されるのか?それはゆとりがまだあるからである。
切羽詰まれば、真剣に考えるようになる。ただし、そのときは大概手遅れである。(2018/04/23 18:47)

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「頑張ると叱られる職場の記憶」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ではなぜ能力給にならないのか。能力給は基本給に上乗せならば法律違反ではない。
しかし、能力給にするには個人の能力をいちいち評価せねばならない。
しかも様々な面で妥当な形で。
これがめんどくさい。だからやらない。

国会議員はどうか。なぜ消極的に現政権を支持せざるを得ないのか。
それは国民が本当に有能な国会議員を選出するという作業、場合によっては、自らが名乗り出て政治を行うという作業に対してしたがらないからである。
人格イメージだけで選択する。めんどくさいから。
年数回しかない投票所に行くのすらめんどくさい。
だからやらない。

結局、被権限者が怠惰なのは、権限者も怠惰だからなのである。

ではなぜ怠惰で許されるのか?それはゆとりがまだあるからである。
切羽詰まれば、真剣に考えるようになる。ただし、そのときは大概手遅れである。(2018/04/23 18:47)

ジョブディスクリプションがないために、仕事が終わっても帰れないという話になるのでしょう。当然、評価方法は上司の「感情」です。実績や能力ではありません。感情で評価されるので、長く職場にいて、上司の目に入る社員の方が評価は高くなります。
言われたことだけダラダラとやれば良いので、結果として何も考えない社員が増えることになります。うちの部署(メーカーの技術部)では、毎朝交代でスピーチをやることになっていますが、「将来の夢はパン教室を開くことです。定年までこの会社で頑張ります。」という社員が昇進しました。スピーチでは、何を頑張るのか、どういう技術者になりたいのかについての言及はありませんでした。これまでの人生と自分の子どもの話を語ったのみです。これが大卒で総合職15年目の社員ですよ。こんな会社でやれることなんて何もないし、時間のムダなので早くやめようと思っています。(2018/04/23 11:53)

日々、社会が後退していくが、行政がこれほどまで不誠実になれると思わなかった私はバカなのかもしれない。(2018/04/18 12:10)

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