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「言い訳にすぎない」と言えるのは、自分だけ。

2018年10月19日(金)

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 今週のはじめ、ツイッターのタイムラインに不思議な画像が流れてきた。
 バドミントンのラケットを持つ女性の写真を中央に配し、その上に

障がいは言い訳にすぎない。
負けたら、自分が弱いだけ。

 という二行のキャッチコピーが大書してある。
 写真の右側には 「バドミントン/SU5(上肢障がい) 杉野明子」
 と、写真の人物のプロフィール情報が記されている。

 東京駅に掲出されていたポスターで、制作は東京都だという。

 一見して困惑した。
 五輪パラリンピックを主催する自治体である東京都が、公的機関による障害者雇用の水増しの問題がくすぶり続けているこの時期に、あえてこの内容のポスターを制作して世に問うた狙いが、どうしてもうまく飲み込めなかったからだ。

 本題に入る前に、「障害」「障がい」というふたつの表記について、私なりの基準を明示しておきたい。

 この件については、2013年の当欄に書いた記事の中で比較的詳しい説明をしている。まずそちらを参照してほしい(こちら)。

 簡単に言えば、「害」という文字に悪い意味が含まれているからという理由で、その漢字をひらがなに開いて表記するタイプの問題のかわし方は、私の好みに合わないということだ。

 ご存知の通り、漢字は表意文字だ。
 一文字ごとに漢和辞典を引いてみればわかることだが、われわれがよく知っているつもりでいる文字にも、時に意外な意味が隠れていたりする。たとえば日本経済新聞の「経」には「首をくくる」という含意がある。だからといって、私は「日けいビジネスオンライン」とは書かない。そんな対応をしていたら、日本語の書物はひらがなだらけになる。

 もうひとつ言えば、「障害」は、厚生労働省のホームページの中で使われていることでもわかる通り、明らかな害意が証明されている表記ではない。「障害者総合支援法」という法律の名称にもそのまま「障害者」の文字が使われている(こちら)。

 したがって、当稿では、引用文については引用元の書き手の表記法を尊重するが、私自身の文責で書くテキストに関しては、法律がそうしている通りに「障害」「障害者」という表記を採用する。
 以上、表記についての説明はこれまで。話を戻す。

 ポスターを見た後、私はツイッター上に

《活躍する障害者を持ち上げるのは大いに結構だと思う。でも、一握りの例外的な成功者をこういう形で利用(←「ハンディキャッパーも自己責任で頑張れ」的な突き放し言説を補強するサンプルとして)するのはどうなんだ? しかもそれをやっているのがパラリンピックを招致する自治体だし。》(こちら

《「障害を言い訳にするな」も「死んだら負け」も、当事者による自戒の言葉だからこそ意味を持つのであって、同じ言葉を他人が言ったら、その言葉はそのまま障害や希死念慮を持つ人への迫害になる。で、その「迫害」が、いま、当事者の言葉をオウム返しにする形で拡散されている。》(こちら

 という2つのツイートを書き込んで、とりあえずその日は寝た。

 翌朝、毎日新聞社から当該のポスターについての感想を問う内容の電話があった。記者さんの話によると、東京都は各方面からのクレームに対応する形で、15日の夜にポスターを撤去しているということだった。

 私がお答えしたコメントは、以下の記事の中にある(こちら)。

コメント155件コメント/レビュー

昔の人はいいました。「死んで花実が咲くものか」っと。これはなら、「死んでも何もいいことはないよ」という言葉になりますが、「死んだら負け」は、うつ病患者に「ウツは甘え」と罵るのと同じ。それについて、百万言の言い訳をしても、言ってしまった言葉は取り消せないし、取り巻きどもが「真意はこうだ」と作り話をしても免罪符にはならない。最悪なのは、子供の命のことなんぞ、本当はどうでもいいことが露骨な、パフォーマンスに過ぎないということ。実際に子供に会って、話を親身になって聞いたりすることなく、「統計上の数字(ゲッペルスですな)」として、自殺する子供の数を減らすと、言っている。あの男にとって、自死を選択する子供とは、血の通った人間でも感情を持つ生き物でさえもなく、統計上の数字として印刷されるインクの染みにすぎないのです。

ツイッターでは、いろいろな人から「生き延びたら勝ち」「生き延びさえすれば、君は立派だ」という対案が示されましたし、私もそれを支持します。(2018/11/01 10:18)

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「「言い訳にすぎない」と言えるのは、自分だけ。」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

昔の人はいいました。「死んで花実が咲くものか」っと。これはなら、「死んでも何もいいことはないよ」という言葉になりますが、「死んだら負け」は、うつ病患者に「ウツは甘え」と罵るのと同じ。それについて、百万言の言い訳をしても、言ってしまった言葉は取り消せないし、取り巻きどもが「真意はこうだ」と作り話をしても免罪符にはならない。最悪なのは、子供の命のことなんぞ、本当はどうでもいいことが露骨な、パフォーマンスに過ぎないということ。実際に子供に会って、話を親身になって聞いたりすることなく、「統計上の数字(ゲッペルスですな)」として、自殺する子供の数を減らすと、言っている。あの男にとって、自死を選択する子供とは、血の通った人間でも感情を持つ生き物でさえもなく、統計上の数字として印刷されるインクの染みにすぎないのです。

ツイッターでは、いろいろな人から「生き延びたら勝ち」「生き延びさえすれば、君は立派だ」という対案が示されましたし、私もそれを支持します。(2018/11/01 10:18)

本筋とは全く違う視点ですが,遥さんの「言うほど,あなた真面目に働いてます?」を読んで自分の「来し方」を反省し,小田嶋さんの「逃げるが勝ちだぞ」に激しく同意した私は,JKの娘にどう伝えようか?と悩んでいます。(2018/10/30 15:29)

概ね小田嶋氏に賛成。
メディアに出ている人たち、
メディアに関わる人たちは、
自らが発した言葉や情報のもつ意味や意図が
正確に伝わらないことを
今一度考えていただきたい。(2018/10/29 19:01)

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