ジャック・マー突然の引退発表の謎

習近平による締め付け強化警戒の説も浮上

54歳の若さで引退を発表したアリババ会長のジャック・マー(写真:Imaginechina/アフロ)

 三輪自動車の運転手から一念発起して大学進学、英語講師を経て時代の変化を読み取って中国IT界の寵児にまでのし上がった立志伝中の人物であるジャック・マー(馬雲)が突然の引退を発表した。まず9月7日、米国メディアが彼の取材をもとに引退を報道し、8日にアリババ本社がその報道を否定するも、10日に馬雲自身が来年の誕生日にトップ交代すると書面で発表、という流れであったので、先週末はアリババ株が一瞬、3.77%ほど急落した。馬雲54歳の若さでの引退に、いろいろ邪推してしまうのは、やはりeコマースの雄、京東集団の劉強東の性犯罪疑惑が起きたことだ。中国IT業界で何が起きているのだろうか。

 ニューヨークタイムズ(NYT)が9月7日に報じたところによると、大手eコマースアリババの会長・馬雲は会長職を引退して、教育慈善事業に専念するという計画を伝えた。その決心の理由として、中国のビジネス環境が悪化しており、北京および国有企業が企業運営に対してますます干渉してくるようになったことがあるという。習近平政権下で、中国のインターネットは飛躍的に発展したが、同時に政府のコントロールもますます厳密になった。中国経済は債務問題がますます深刻になり、さらに米国との貿易戦争に直面していると解説し、「望む望まぬにかかわらず、馬雲は中国の民営企業部門の健全度と前途の一つの象徴である」「彼が楽しいかどうかにかかわらず、彼の引退は“不満と懸念”の表れだと受け取られるのである」と『アリババ・ジャック・マーの商業帝国』を著したダンカン・クラークの論評を付け加えた。 

 この報道直後、アリババ本社は「(もともと大学の講師だった)馬雲は今も日々、社員を教育しているし、再び教師になりたいという思いもあるので、彼の(NYTへの)発言は当たり前のことだが、馬雲が引退するというのは、一部の発言を切り取った不正確な表現」「馬雲は董事局主席に残り、幹部の育成にかかわる」と否定。馬雲のインタビューをもとにしたサウスチャイナ・モーニングポスト(SCMP)も9月10日の馬雲54歳の誕生日にアリババの世代交代計画が発表されるのは事実だが、米メディアが報じるような離職、引退ではなく、10年前から練られていた経営陣若返り計画だと、ビジネス環境悪化説を否定した。

 10日に馬雲自身が公式に行った発表によれば、来年9月10日、馬雲はアリババ董事局主席を引退し、アリババ集団現CEOの張勇が後任となる。この後継者計画はすでに10年前から準備されており「これで、独特の文化、後継者人材を育成し鍛え上げる一つのシステムを打ち立てることができ、企業が発展をいかに伝承するかという難題をクリアできたという確信がある」と語った。

 後継者指名された張勇は2015年からアリババCEOに就任。11月11日の「おひとり様の日セール」を発案した有能な経営者。馬雲はこの3年間、張勇の商才と指導者としての力量を見極めた。「張勇はアリババパートナー制度のメカニズムで育成された傑出したビジネスリーダー。リレーのバトンを彼のチームに渡せたことが、私が現在すべき最も正確な決定である」と語っている。

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著者プロフィール

福島 香織

福島 香織

ジャーナリスト

大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。

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いただいたコメントコメント14件

福島氏の記事は、最初に読んだ時から、自分とベクトルが合うので気に入って何時も確り読んでいる。今回のネタであるジャック・マーの引退も、恐らく彼女の読みが当たっているのだろうと思う。習近平は中国で自分より尊敬される人間の存在を認めないのだろう。その意味では良くも今まで無事に済んだものだと思うが、そこは個人或いは組織として習近平政権を応援するような事をしてきたのだろう。それでも、自身が世界で『伝説の人物』にまで祭り上げられてしまうと、逃げ道が無くなる。そこで見切りをつけて起業前の『教育業』に軸足を移すと『発表』したのだろう。その意味ではIT業界のもう一方の雄よりは生命力が強いのだろう。中国で、主席以上に目立ってしまうと、政治家でなくても危ない状況だから。教育も科学技術関連が当たり障りなく政治への影響もないので安全だろう。それにしても、中国の民主化にはあと何年掛かるのだろうか。私の友人知人達が元気な内に実現すれば良いが。。(2018/09/13 10:34)

テンセントの馬化騰は、今年から全人代の広東省代表になっている。明確に政権寄りだということなんだろう。馬雲は、そういうことに興味がなく、単純にビジネスを考えているだけなのが、政権は気に入らないということなのか。
中国で、気に入らないヤツを罠にはめるのは、別に珍しくない話で、単純なハニートラップではなく、酒をしこたま飲ませて意識をなくならせ、ようやく気が付いたら、知らないホテルの部屋のベッドに寝ていて、なぜか知らない女性が隣にいた、というような例はよくある。政府規模の大きな力によるものとは限らず、地方自治体レベルで中央から改革のためにやってきたような役人ですら、改革されたくないその街の小役人によって、そういう目に遭う。
なので、劉強東の件については、仮にはめられたとしても、政府に目を付けられたということだけでなく、個人的な恨み、商売敵のやっかみなどの可能性も考えられるのでは?(2018/09/12 23:59)

馬雲や劉強東事件の背後に隠れた因果関係は分からないが、今の習近平体制の綻びのを予感させるものかもしれない。

習近平体制は、米国との摩擦、江沢民派との闘争、IT系大手企業との軋轢に苦悩しているのではないか。

米国との関係では、劉強東事件の発端である清華大はそもそも100年前に米国留学の予備校として創立された経緯もあり、米国との繋がりが深い。

顧問委員会には、ヘンリーポールソン、ジェームズダイモン、ティムクック、サティアナデラ、マークザッカーバーグ、スティーブシュワルツマン、イーロンマスクを手始めに、米国の経済界の重鎮や現経営者が10数人名を連ねており、母校ということで習近平自身のアドバイザリーボードかと一時いわれたが、今は機能不全に陥っているのではないか。

江沢民派との関係では、そもそもIT分野は江派の牙城であり、北戴河会議前後から習近平が内外で手厳しく非難され出したことに託けて、巻き返しを図るべく暗闘を開始した可能性もあるかもしれない。

IT企業家と相反する構図は単純だ。今世界の目は中共の国家資本主義に注がれているにも拘らず、習近平はIT企業の取込みや共産党化を加速している。

IT企業家としては命も惜しいが、第二のZTEやファーウェイにもなりたくないのだ。

最近でも監視カメラで世界シェアNo.1のハイクビジョンが米国での公共入札から排除されたのを受け、他の西側各国でも検討が始まった。(アフガンの米軍基地がタリバンに襲撃されたのは設置していたハイクビジョンのデータの流用が理由とされる)

ともあれ、末期状況を呈し始めた中共は、国内の一般人民含め世界中で警戒され出した。今日本人(企業人)には苦汁を飲まされてきた数多の経験を思い返し、20年先、50年先を見据えた冷静で戦略的な対応が必要な時だ。(2018/09/12 18:44)

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