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アウディ社長逮捕の衝撃

ディーゼル大国ドイツの落日(中編)

2018年6月22日(金)

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フォルクスワーゲンが米国で買い戻したディーゼル車。3月時点で35万台、74憶ドルに上った(写真:ロイター/アフロ)

 6月18日、ドイツだけでなく世界中の自動車業界を震撼させるニュースが流れた。この日の早朝、独フォルクスワーゲン(VW)グループに属するアウディのルペアト・シュタドラーCEO(最高経営責任者、55歳)がミュンヘン地方検察庁によって、インゴルシュタットの自宅で逮捕されたのだ。

 2015年に発覚したVW排ガス不正事件で、現役のCEOつまりトップが逮捕されたのは初めてのことである。逮捕の直接の容疑は、証拠隠滅だ。ミュンヘン地検は5月末からシュタドラーCEOに対して詐欺と私文書偽造の疑いで捜査を行っていた。6月11日には同氏の自宅で家宅捜索を実施。検察庁は「シュタドラー氏がCEOの地位を利用して、他の証人に圧力をかけて証言内容に影響を与えようとする恐れがある」として、身柄の確保に踏み切った。ドイツのメディアは、検察庁がシュタドラー氏の通話を盗聴することによって、証拠隠滅の危険が高いと判断したと報じている。

 アウディは2009年以来、検査台の上にある時だけディーゼル・エンジンが排出する窒素酸化物の量を減らす不正ソフトウエアを搭載した車を、ヨーロッパと米国で少なくとも約21万台販売した。検察庁は「シュタドラーCEOは不正ソフトウエアを装備している事実を認識していたにもかかわらず、販売を続けた」という疑いを持っている。

VWグループの技術中枢=アウディ

 アウディは、VW排ガス不正事件のいわば本丸である。その理由は、アウディがVWグループのエンジン開発の中枢として重要な役割を果たしてきたからだ。第二次世界大戦後、VWを欧州最大の自動車メーカーの座に押し上げたディーゼル・エンジンの様々な技術革新は、アウディのエンジニアたちによって生み出されてきた。1993年から2015年までVWグループのCEOなどとして君臨したフェルディナンド・ピエヒ氏もアウディ出身である。アウディは1990年にTDI(Turbocharged Direct Injection=ターボ直接噴射)方式を使った乗用車の量産を開始し、世界のディーゼル市場に革命をもたらした。

 だがその栄光のチームは、同社の歴史に泥を塗る犯罪に手を染めた。2015年に米国の環境保護局が槍玉に上げた問題の不正ソフトウエアは、アウディのエンジニアたちが開発したものだった。検察庁はアウディのエンジン開発の責任者だったヴォルフガング・ハッツ氏ら2人のエンジニアを逮捕し、彼らの証言を基にシュタドラーCEOに対する強制捜査に踏み切った。

 シュタドラー氏は2006年に43歳という若さでアウディのCEOに就任。エンジニアではなく経営学を学んだ人間が同社のトップの座に就いたのは極めて異例である。VWグループのマルティン・ヴィンターコルンCEOが、2015年9月の事件発覚直後に辞任に追い込まれたのとは対照的に、シュタドラー氏はこれまでCEOの座に留まり続けてきた。当初からアウディに対しては様々な疑惑が浮上し、ドイツの報道機関は「シュタードラーCEOは排ガス不正事件の解明に真剣ではない」と批判してきたが、同氏のVWグループでの地位はびくともしなかった。その背後には、VWグループを支配するポルシェ家とピエヒ家の強力な庇護と後押しがあった。いわばシュタドラー氏はVWグループの中で両家の利益を守るプリンスと目されていた。

 だがシュタドラー氏が検察庁に逮捕されたために、さすがのポルシェ家・ピエヒ家も彼を支えきれなくなった。VWグループの監査役会(取締役会を監督する最高意思決定機関)は、6月19日にシュタドラー氏のCEO職を解いた。

 排ガス不正事件の発覚以来、VW経営陣は「不正ソフトウエアの使用は、一握りのエンジニアたちが勝手に行ったことであり、取締役は知らなかった」と主張してきた。だが今回CEOが逮捕されたことで、「一部の不心得者の仕業」という経営陣の主張は崩れたことになる。現在ドイツではミュンヘン、ブラウンシュバイク、シュトゥットガルトの3つの検察庁が中心となって排ガス不正事件を捜査している。容疑者として捜査の対象となっているVWグループ社員、元社員の数は約60人に達する。

コメント18件コメント/レビュー

話題になった事柄の顛末を丁寧な形で知る機会が少なく感じているので、
このような記事は大変ありがたく思います。

しかしドイツメーカは世界市場を相手に商売をしていたのだから、
罰金をドイツ本国で払うのみまらず、世界各国にたいして制裁金を払わないといけないですね。
彼らによって世界の市場が荒らされたわけですから。

ダンピングや不正補助金による廉価販売と、不正に競争力を高めた商品、
どちらがわるいかと言えば、後者がよりわるいでしょう。

これはドイツ政府が主導して払うようにしなければ。
ドイツは戦争はしなくなりましたが、違う形で世界を支配をしようとしているのですね。(2018/06/25 23:02)

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「アウディ社長逮捕の衝撃」の著者

熊谷 徹

熊谷 徹(くまがい・とおる)

在独ジャーナリスト

NHKワシントン特派員などを務めた後、90年からドイツを拠点に過去との対決、統一後のドイツの変化、欧州の政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材、執筆を続けている。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

話題になった事柄の顛末を丁寧な形で知る機会が少なく感じているので、
このような記事は大変ありがたく思います。

しかしドイツメーカは世界市場を相手に商売をしていたのだから、
罰金をドイツ本国で払うのみまらず、世界各国にたいして制裁金を払わないといけないですね。
彼らによって世界の市場が荒らされたわけですから。

ダンピングや不正補助金による廉価販売と、不正に競争力を高めた商品、
どちらがわるいかと言えば、後者がよりわるいでしょう。

これはドイツ政府が主導して払うようにしなければ。
ドイツは戦争はしなくなりましたが、違う形で世界を支配をしようとしているのですね。(2018/06/25 23:02)

■ディーゼル不正問題は、企業倫理や技術倫理を考えるうえで非常に参考になる事例で、当コラムはその理解に大いに助けとなります。執筆ありがとうございます。
■さて、お願いです。この不正に手を染めることになった技術的経済的背景を整理して知りたいです。VWの経営者や技術者も不正ソフト利用による不正は、いつかはばれると思っていたはずでしょうが、なぜこのような短絡的な対応に走ってしまったのかが疑問点です。
■例えば・・・・・欧州、米国、日本ではディーゼル車比率が大きく異なるがその理由は何か。燃料の価格差の影響があるのか。ドイツメーカーはなぜディーゼル車に固執してきたのか。ディーゼルエンジンの技術的課題はNOxやPMの発生抑制だが、尿素で低減させる技術に対してVWと別メーカーではどう対応してきたのか。尿素はどれだけ扱いが面倒なのか。尿素を使わないで有害物質を環境基準まで低減させることは、技術的に不可能なのか。米国の排ガス規制は特に厳しいが、これはドイツ車を締め出すための政治的背景があったのか。・・・・・等々、知りたいことが山ほどあります。(2018/06/25 12:05)

アウディの経営をひどい、というならば日本の車メーカーの経営も批判のひとつもないジャーナルはおかしい。逮捕という衝撃は日本の経営層には必要になっている。(2018/06/23 22:08)

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