• ビジネス
  • xTECH
  • クロストレンド
  • 医療
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
  • 日経BP

37歳の外科医がメスを置いた理由

第37回 「医者は現場しか分からない」という恐怖

2018年11月8日(木)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 こんにちは、総合南東北病院外科の中山祐次郎です。

 さて、今回は「37歳の外科医がメスを置いた理由」と題して、私という一医師の超個人的体験から、医師のキャリアについて考察したいと思います。そしてそこから、今の日本における医療システムを、内側にいる医師が見た風景として考察します。

 まず近況から。わたくし、前回の記事でもお伝えしたとおり、国際学会へ参加するためにドイツのミュンヘンへ行っておりました。

 学会では癌(がん)研究の最先端を走る乳癌グループが連日学会新聞のトップを飾り、私が専門の大腸癌はというと新規抗癌剤の大規模臨床試験の結果がオープンにされるなどのみで、それほど衝撃の発表はありませんでした。

 意外だったのが、高齢者の研究がちらほら出ていたこと。「高齢者の治療の研究」って、世界最速で高齢化が進む日本のお家芸だったのですが、少しずつ欧州でも研究が増えてきているようです。

 そんな4泊6日の弾丸出張ですが、ドイツ医学の視察を兼ねて「ダッハウ(Dachau)」へ行ってまいりました。ここはナチスの強制収容所があったところで、ミュンヘン中央駅から電車で30分、そこからさらにバスで10分ほど行った所にあります。強制収容所と言えばアウシュヴィッツが有名ですが、ダッハウは大戦前の1933年に設置され、その後に造られた収容所のモデルとなった所です。

コレは復元ですが、実物も展示されていました

強制収容所で実施された低体温実験

 「ARBEIT MACHT FREI(=働けば自由になる)」と書かれた門をくぐり、まさに収容所があった地で、私は写真や道具を見ました。数々の非道な収容者への仕打ち。鞭打ちに使われた木の棒のような鞭や、再現された収容部屋もありました。そしてここでは、人体実験が行われていました。その一つが、低体温の実験です。

 人間の体がどれほどの低体温になると死亡し、そしていかに蘇生ができるかという実験でした。浴槽に囚人をつけ、体温を冷やしている写真が掲示されていました。帰国後に調べると、その実験結果は検証され、最も権威ある医学雑誌の一つに掲載されていました。私は90年に出版されたその論文を探し当て、読みました。

 まず、「被験者によっては麻酔なしで冷却された」と。詳細は残虐なので記しませんが、「研究計画、対象、方法は不完全で秩序立っておらず、着衣か裸か、冷却温は何度かなどの詳細な記録さえない。そして被験者の年齢、性別、栄養状態などの背景も不明である。さらに被験者が死亡したかどうかも不明である」とのことでした。最後には「計画がずさんであり、非常に不適切な方法で行われたため結果も価値がない」と結論づけられています。

 倫理的問題だけでなく、科学的にも全く無意味なこの実験。これを医師が計画し実行したのです。人命を救う職業である医師が行っていたことに、私は大きな衝撃を受けました。

 そして最後には、収容所の医師が知人にあてた手紙が載せられていました。「Doctors become murderers(殺人者になった医師たち)」と題された部分には、「収容所の仕事は順調で、食べ物が豊富で、とても良く眠れる」と。検閲のせいでそう書かざるを得なかったのかもしれませんが、これが本当の内容なら恐ろしいこと……。

書かされていた、と信じたいと思いますが…

コメント10件コメント/レビュー

過去から現在への時間軸を俯瞰して、今後の予想される事態や対策案、そのメリット・デメリットをアセスメント出来るようになったのですね。

しかし、公衆衛生分野に踏み込んだ医師が、もっとも壁を感じるのは、現在から未来にかけての時間軸においてのマネジメントです。

具体的には、「国際保健計画の立て方」「予算の付け方/スポンサーの見つけ方」「必要な人員のリクルート方法」「政策を実施する上でのコミュニティとのコミュニケーション」などです。

実態調査をしてアセスメントするのは未来を変えるためであり、未来を変えるために計画を立て、マネジメントを開始しないのではあれば、全体を俯瞰しても単なる批評家になってしまいます。

今後、筆者が公衆衛生で学んだ事を生かして、自分の手に届く範囲の事から改善し、やがて大きな仕事に繋がっていくことに期待しています。

大規模なものは結局、行政絡みのものになる事が多く、そのためにも行政がどういう意思決定手法で、予算を付けるか付けないかを決定するかを知っておく事が、今後のために必要になってくるかと思います。(2018/11/09 14:28)

オススメ情報

「一介の外科医、日々是絶筆」のバックナンバー

一覧

「37歳の外科医がメスを置いた理由」の著者

中山 祐次郎

中山 祐次郎(なかやま・ゆうじろう)

外科医

1980年生まれ。聖光学院高等学校を卒業後、2浪を経て、鹿児島大学医学部医学科を卒業。その後、都立駒込病院外科初期・後期研修医を修了。2017年2~3月は福島県広野町の高野病院院長、現在は郡山市の総合南東北病院で外科医長として勤務。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

過去から現在への時間軸を俯瞰して、今後の予想される事態や対策案、そのメリット・デメリットをアセスメント出来るようになったのですね。

しかし、公衆衛生分野に踏み込んだ医師が、もっとも壁を感じるのは、現在から未来にかけての時間軸においてのマネジメントです。

具体的には、「国際保健計画の立て方」「予算の付け方/スポンサーの見つけ方」「必要な人員のリクルート方法」「政策を実施する上でのコミュニティとのコミュニケーション」などです。

実態調査をしてアセスメントするのは未来を変えるためであり、未来を変えるために計画を立て、マネジメントを開始しないのではあれば、全体を俯瞰しても単なる批評家になってしまいます。

今後、筆者が公衆衛生で学んだ事を生かして、自分の手に届く範囲の事から改善し、やがて大きな仕事に繋がっていくことに期待しています。

大規模なものは結局、行政絡みのものになる事が多く、そのためにも行政がどういう意思決定手法で、予算を付けるか付けないかを決定するかを知っておく事が、今後のために必要になってくるかと思います。(2018/11/09 14:28)

医師業を省察し、教室に入るためでなく自己を省察するために進む。僻地に行かれたときもすごいと思いましたが、さすがというと上から目線ですみませんが、実に頭が下がります。
福井先生のつくられた公衆衛生大学、素晴らしい選択だと思います。公衆衛生の知識と視点をもつことで、医療の幅と深さが格段に違ってくると思います。おそらく手術の手技にも好影響が出てくると思います。
俯瞰する目をもつために自己キャリアを俯瞰し、変化させていくーなかなかできることではないです。がんばってください。(2018/11/08 14:58)

>現場しか分からない恐怖は、医師に限らないと感じます。 
>一方で、現場の分からない人が俯瞰的に何かを見て(見ること自体はいいとしても)、
>何かを決めたりするのは恐ろしいことです。

現場の分からない人が何かを決めたりするのは恐ろしいこと → 同意します。
(庶民の生活を知らない一部の政治家、役人が指揮している今の消費増税にしてもそうだし、
世の中そんなことだらけだと思う。)
しかし、
現場が分からなくても、現場を俯瞰する能力のある人が方向性を決めるのはかなりベターなことだと思います。
俯瞰できる能力というのは、上空から地上を見てその先には平原があるのか否、岸壁(行き止まり)があるのか知り得る力です。
逆に俯瞰できる能力がなければ方向性をジャッジできないのが道理なのに、俯瞰もできないで、今をジャッジする
指導者ばかりの世の中だからおかしなことになっていると思う。(2018/11/08 13:20)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

やることなすことうまくいって会社が楽しくなりました。

前澤 友作 ZOZO社長