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「揺らぎ」が組織に与える刺激-雲と積み木の話

2016年12月13日(火)

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筆者のオフィスから見える筑波山

 雲が季節ごとに特徴があることはご存じだろう。春霞、入道雲、鰯雲や筋雲はもちろんのこと、一年を経て見る空に再び同じ特徴を持つ雲が現れ、そこに巡る季節を感じることがある。つくばにある私のオフィスからは、筑波山がよく見え、その頂にかかる雲を眺めるのも楽しみである。雲を注意深く眺めていると、それぞれの特徴がより具体的に見えてくる。例えばモクモクとした入道雲の一モクのサイズ、あるいは筋雲の隣り合う二筋の間隔など、そこには安定したパターンが存在する。

 雲の正体が莫大な数の水の分子の集まりであることを考えると、それらが安定したパターンを形成して、季節ごとに特徴を持った様々な雲として現れるのは、随分と不思議な現象である。一つひとつの水分子は、ただ周りの分子と激しく衝突を繰り返しながら動き回るのみである。水分子を取り巻く環境の気温や湿度、風向きなどは、それぞれの分子からすれば非常に大まかな外部条件で、しかもその条件はどう変化するのかわからないランダムなものである。それにも関わらず、膨大な数の水分子はあたかも誰かにデザインされたかのように、安定したパターンと特異的な形状を作りだすのである。

「散逸構造の理論」を雲に当てはめる

 これも自然現象の一つと割り切ってしまえば簡単ではあるが、その不思議さの背景を科学的に理解しようとする人がいた。特異な構造形成が行われるための一般的な条件をロシア人化学者のイリヤ・プリゴジンが「散逸構造の理論」としてまとめている。

 この「散逸構造の理論」を雲に当てはめるとどうなるだろう。自分は専門家ではないので、個人的な理解に過ぎないのだが、大体は次のような解釈ができるだろうと思っている。

 雲は地表から蒸発した莫大な数の水分子により形成される。水分子が空で凝縮、凝固し、雲が形成されると同時に、外縁部から多くの水分子が蒸発し、離脱していく。雲となる水分子と離脱する水分子の数が釣り合うとき、一定時間、そこに雲が形を成す。このとき、地表から蒸発したばかりの水分子は、大きなエネルギーを持ち、それぞれが自由な方向に運動している。この水分子が雲を形成する過程で、周囲の分子と激しく衝突を繰り返しながら、その場に留まることが許される状態に落ち着く。そしてその前から雲を形成していた水分子と一緒になって一定の構造と形状を維持することとなる。地表から蒸発した水分子のエネルギーが大きいほど、自由な動きをして複雑な雲を形成する。そしてその複雑な構造を維持するためには、「自由さ」を持つ水分子が次々と供給されなければならない。この供給が細る時、離脱する水分子の量が勝り、やがて雲は消滅する。

 「散逸構造の理論」をもう少し、別なもので考えてみたい。いま、いろいろな形をした積み木が散らばっていて、それらを大きな木箱の中にしまうとする。木箱の中に積み木がなるべく安定するようにしまいたいのだが、このとき皆さんはどうするだろう。一つひとつ丁寧に片づける人もいるだろうが、面倒くさい時は、とりあえず積み木を木箱の中に放り込んだ後、木箱を揺すってみるのではないだろうか。

 この揺することは木箱の中の積み木に動くエネルギーを与え、さまざまな配置をとる「自由さ」、すなわち可能性を作りだす。揺すり続けることで、積み木同士の衝突や木箱との摩擦が生じ、多くの可能性が生まれ、その中から安定となる一つの配置が選ばれる。従ってより安定的な配置を探すためには、なるべく多くの可能性を試すように木箱を揺する必要がある。最初は木箱を大きく揺すり、多くの可能性を試しつつ、だんだんと揺すり方を穏やかにしていくと、より安定した積み木の配置に到達できる。

 雲の例も積み木の例も、より複雑な構造やより安定した配置を作りだすためには、個別要素がその時の状態として、豊富な可能性を持っていることが重要になる。可能性は「自由さ」によってもたらされる。積み木の例では、木箱をいつも同じように揺すっていても、積み木は同じような配置にしか落ち着かず、より安定した配置を探すことはできない。規則性なくランダムに揺することがコツである。

 「自由さ」は秩序や構造と対極にある概念のようにも思えるが、「散逸構造」のメカニズムでは、むしろ自由な動きによる可能性の獲得とそれを散逸させ穏やかに消失させる二つの力の均衡点に現れる状態を「構造」として捉えるのである。雲が安定した形状を作り、積み木がうまい具合に片づけられた状態である。

コメント1件コメント/レビュー

積み木のたとえは大変分かりやすく、本質をつかむ上で素晴らしいです。正解にたどり着くのにいろいろなパスがあるわけで、すべてをアプリオリに計算して整然と問題を解いていくことがいいとは限らないと思います。Empericalに解決した方がいい場合もあるはずです。
それから、数多く経験することで少しずつ経験則という強力な法則(多少の誤差はあるが、社会生活上あまり大きな支障がない程度にとどまる)が生まれることにもなります。なぜそれが正解かという論理的な証明があるとなお結構ですが、それはアカデミアに任せるべき分野です。多くの現象は、蓋然性があればどんどん社会に応用すればいいですね。
大変示唆に溢れるエッセイを読ませていただきました。(2016/12/13 16:35)

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「「揺らぎ」が組織に与える刺激-雲と積み木の話」の著者

中鉢 良治

中鉢 良治(ちゅうばち・りょうじ)

産業技術総合研究所理事長

1977年、東北大学大学院工学研究科博士課程修了。同年、ソニー入社。2005年、同社取締役代表執行役社長に就任。2013年より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

積み木のたとえは大変分かりやすく、本質をつかむ上で素晴らしいです。正解にたどり着くのにいろいろなパスがあるわけで、すべてをアプリオリに計算して整然と問題を解いていくことがいいとは限らないと思います。Empericalに解決した方がいい場合もあるはずです。
それから、数多く経験することで少しずつ経験則という強力な法則(多少の誤差はあるが、社会生活上あまり大きな支障がない程度にとどまる)が生まれることにもなります。なぜそれが正解かという論理的な証明があるとなお結構ですが、それはアカデミアに任せるべき分野です。多くの現象は、蓋然性があればどんどん社会に応用すればいいですね。
大変示唆に溢れるエッセイを読ませていただきました。(2016/12/13 16:35)

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