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「難民キッチン」で考える社会の分断と寛容

新シリーズ・「憎悪」と戦う市民たち~英国「シリアン・キッチン」編

2017年4月6日(木)

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 難民・移民、同性愛者、障害者などを“口撃”してきたトランプ氏の米大統領就任から2カ月あまりが過ぎたが、抗議活動は米国のみならず欧州など各地で続いている。そして、トランプ氏の言動に触発されたかのように、異なる思想を持つ者同士の過激な非難合戦が、社会やコミュニティに深刻な分断をもたらしている。ここ英国でも、昨年6月に行われた欧州連合(EU)離脱を問う国民投票の際、特に離脱派が注力した移民・難民排斥のネガティブキャンペーンによって、分断の爪痕が各地に残る。

 一方で「違い」や「憎悪の構図」を乗り越え、社会の分断に立ち向かい、奮闘する草の根の活動も活発化している。今日から始める新シリーズ「『憎悪』と戦う市民たち」では、英国を始め、欧州各地で「今、自分にできること」を実践している人たちと、その試みを追う。

 1回目は、英国中部の都市リーズで昨年末にオープンしたカフェ「シリアン・キッチン」を取り上げる。

 3月22日、白昼堂々、首都ロンドンの政治の中枢でテロ事件が起きた。事件当日、筆者はたまたまある放送局スタッフとの打ち合わせで、テロの現場となったウェストミンスター近辺で昼食を取っていた。事件発生の1時間ほど前のことで、襲撃時には既に帰宅しており、交通規制のかけられた混乱に巻き込まれずに済んだ。ウェストミンスター周辺の建物の中には外出禁止となったところもあり、一時、厳戒態勢が敷かれたということだった。

 ロンドンで起きた大規模な襲撃事件は、2005年7月7日の朝、ラッシュアワーの交通網を狙った同時爆破テロ以来のこと。英国はこの数年、国内の警戒レベルが5段階のうち「襲撃の可能性が極めて高い」を意味する上から2番目に設定されている。ロンドン市民はいつテロが起きてもおかしくない環境下で生活している。

 筆者は事件当夜、犯人がおそらく単独犯であることなど、警察発表で事件の概要が大体わかった段階で、予定されていた私用で街に出た。出先は現場から地下鉄で2駅ほどの比較的近い場所であり、主要道路が閉鎖されたことで裏道でも渋滞が発生し、上空にはヘリが2機飛んでいた。それでも、いつも利用する道路には通常通り人々が行き交っていた。

 テロに遭遇するリスクを可能な限り避けることは当然である。だが、市民がこの様な襲撃の後も、日常の生活を営み続ける意義は大きい。その理由の一つは、テロを計画する者たちに、襲撃に街が屈しないことを見せつけること。そしてもう一つは、過激派の狙う「社会の分断」の罠にはまらないためだ。

恐怖が憎悪を助長する

 前者に関して言えば、テロの翌日、事件現場からそう遠くない市の中心部で数千人の市民が追悼集会に参加し、イスラム教徒であるカーン市長が、多民族都市・ロンドンがテロに屈することなく、なお一層団結していく意思を表明した。また3日後には8万人(主催者発表)近くが、EU離脱反対のデモに予定通り参加した。

 もう一つ、テロリストの目論む「社会の分断」を阻むためにも、市民は恐怖に飲み込まれることなく、日常生活を続けなければならない。自称イスラム国(IS)が犯行声明を出し、犯人がイスラム過激派であると発表されることが、何の関係もないイスラム教徒の市民に対する憎悪を助長する構図は、これまで欧州各地や米国での「テロ事件」で嫌という程見せつけられてきた。

 「恐怖は疑念を生み、疑念は憎悪を招く」--。この図式を徹底的に排除していくことは、テロと暮らす市民の責務であるとも言える。

 しかし、憎悪の連鎖を断ち切るには、地道で息の長い活動が必要だ。この数年、欧州大陸で大規模なテロが起こるたび、憎悪の矛先に立ってきたのは、主に長引く内戦を逃れ欧州にやってきたシリア難民である。

 彼らは、戦火を逃れやってきた英国で、地元民と共存できているのだろうか。その実態を取材しに、英国の地方都市・リーズで昨年末オープンしたカフェを訪れた。その名も「シリアン・キッチン」である。

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「「難民キッチン」で考える社会の分断と寛容」の著者

伏見 香名子

伏見 香名子(ふしみ・かなこ)

フリーテレビディレクター(ロンドン在住)

フリーテレビディレクター(ロンドン在住)。東京出身、旧西ベルリン育ち。英国放送協会(BBC)東京支局プロデューサー、テレビ東京・ロンドン支局ディレクター兼レポーターなどを経て、2013年からフリーに。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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