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トランプ大統領の本音主義、限界が近い

2017年2月10日(金)

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トランプ大統領は最高裁判事に保守系のニール・ゴーサッチ氏(写真左)を指名。(写真:AP/アフロ)

 米国のドナルド・トランプ大統領が毎日のように過激な発言を繰り返し、日本のテレビ・新聞はその話題で持ちきりになっている。番組の中身はほとんどが批判的なものだ。テレビでトランプ大統領を批判すると、視聴率が伸びる。新聞の1面トップも、関連する記事が占めている。今は、テレビも新聞もトランプ大統領で稼いでいると言える。マスコミの本心としては、彼に対してありがたいと思っているだろう。

 その典型例が、米新聞大手のニューヨーク・タイムズだ。同紙はトランプ大統領から名指しで批判され、猛烈に反論している。同社のマーク・トンプソンCEOは、「(2016年度の)第4四半期には、新規で20万件以上のデジタル専用購読を達成した」と述べている。トランプ効果あってのことだろう。

 バラク・オバマ前大統領の時は、ニューヨーク・タイムズもワシントン・ポストもどんどん部数が落ちていた。アメリカのマスメディアは、オバマ氏に対して「歓迎」の立場を取っていたから、オバマ氏とマスコミの間で喧嘩をすることはなかった。ただ、それでは話題にならなかったのだ。

 ところがトランプ氏が大統領に就任すると、トランプ氏とマスコミが対決する構図になった。それが世界中の注目を集め、部数増に繋がったのだ。これは興味深い現象だと思う。

トランプ大統領の言動は、「暴走」ではない

 イスラム圏7カ国からの入国を禁止した大統領令に対して、ワシントン州とミネソタ州は違憲だと訴え、ワシントン州の連邦地裁が2月3日、全米を対象に大統領令の差し止めを命じた。日本の新聞は「混乱」「泥沼化」などと報じたが、混乱ではないと僕は思う。むしろ、アメリカはさすが民主主義の国だと思った。もし日本であれば、首相が決めたことに対して地裁が即座に差し止めを命ずることなどないのではないか。

 さらに面白いのは、トランプ氏は「この命令は不服だ」として連邦控訴裁判所に控訴したわけだが、今度は控訴裁が直ちに「控訴を受け付けない」という判断を下したことだ。これは混乱でも泥沼化でもなく、アメリカが健全な民主主義の立法・司法・行政がそれぞれ独立しているということを見事に示した事例だ。むしろ、これを「混乱」と表現する日本のジャーナリズムの方がおかしい。

 トランプ氏の言動は過激に見えるが、僕は「暴走」ではないと思う。イスラム圏からの入国禁止という大統領令の是非について、ロイター通信が全米50州で実施した世論調査によると、賛成が49%、反対が41%になったという。世界中から批判が集まっているものの、アメリカ人の本音としては賛成なのだ。

 トランプ氏は、アメリカ国民の本音が賛成だと分かっているから、マスコミと喧嘩をしながら強気に出ている。決して国民の意に反してやっているわけではない。そういう意味では、暴走ではないと僕は思う。

 一方、オバマ氏はアメリカ人の「良心」だった。もっと言えば「建前」の象徴だった。「世界と仲良くしなければならない」「戦争をやってはいけない」「核兵器はなくすべきだ」という建前を並べていたが、実際はほとんど実現できなかった。

 対してトランプ氏は、アメリカ人の本音によって選ばれた大統領だと言える。「アメリカ第一主義」「アメリカが良ければ、世界はどうなってもいい」。これが本音なのだ。人間は誰であれ、本音は自分が得をしたいと考えている。本音では、人のために尽くさなければならないなんて思っていないだろう。

 そもそも政治家は、ほとんど本音を言うことはない。いつの時代もそうだ。僕は多くの政治家を取材してきたが、トランプ氏ほど本音を語る政治家はいなかった。逆を言えば、本音を言いすぎる人は「出る杭」として打たれ、出世街道を上っていけない。これは政治の世界だけではなく、会社などの組織の中でも同じだろう。それを考えるとトランプ氏は稀有なリーダーと言える。彼への対応も簡単ではない。

コメント23件コメント/レビュー

おおよそ納得できる記事でした。次のようなご見解も、国家間、とくに経済的な利害だけが前面に出る場面ではそうかもしれません。

「人間は誰であれ、本音は自分が得をしたいと考えている。本音では、人のために尽くさなければならないなんて思っていないだろう。」

ただ、こう考えてしまうと、EUがなぜ分裂の危機を冒してまで難民を受け入れるのかがわからなくなりませんか。やはり人間にも国家にも、人権思想や隣人愛、理想で行動していることもあるのだとおもいます。(2017/03/24 13:39)

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「トランプ大統領の本音主義、限界が近い」の著者

田原 総一朗

田原 総一朗(たはら・そういちろう)

ジャーナリスト

1934年滋賀県生まれ。早大文学部卒業後、岩波映画製作所、テレビ東京を経て、フリーランスのジャーナリストとして独立。「朝まで生テレビ!」「サンデープロジェクト」等のキャスターを務める。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

おおよそ納得できる記事でした。次のようなご見解も、国家間、とくに経済的な利害だけが前面に出る場面ではそうかもしれません。

「人間は誰であれ、本音は自分が得をしたいと考えている。本音では、人のために尽くさなければならないなんて思っていないだろう。」

ただ、こう考えてしまうと、EUがなぜ分裂の危機を冒してまで難民を受け入れるのかがわからなくなりませんか。やはり人間にも国家にも、人権思想や隣人愛、理想で行動していることもあるのだとおもいます。(2017/03/24 13:39)

「…と僕は考える。」と俵氏。「ここだけの話」だからよいのかもしれない。ゴシップ的に政財界の噂話を面白おかしく伝える記事なら辟易としている。しかし,今回はややトーンを抑えて,トランプ大統領の「言動」とマスコミの「反応」及びその状況を「解説(あるいは分析)」している。内容に新しみは感じないが,一つの見方として肯ける。最近アメリカの世論が「2極化」しているとも聞く。連邦議会では明らかなようだ。俵氏はこうした米国の政治状況をどう見るのだろうか。「アメリカ民主主義の変質」ととらえるのか。それとも,現代社会の特徴で,「ポピュリズム」もその一つの表現形態とし見える「情報化(あるいは過多)社会」の現れとみるか。「過剰な情報に大衆が消化不良を起こして,その行動がカオス化してる社会」とワタシハカンガエル。俵氏はどう思われるだろうか。トランプ大統領の言動は大衆世論を研究分析して打ち出されている部分がある。だが,そもそも,「カオス」では分析が早晩行き詰まる。その意味で「限界が近い」はずだ。では限界に来たら次はどうするか?その行動パターンやメンタリティーは何を指し示すだろうか。噂話でない分析・洞察を期待したい。(2017/02/20 13:23)

トランプ大統領の話とは別にして,田原氏の願望・考えに同意できるところはあります.沖縄県民ではありませんが,沖縄の基地を少しでも減らすことができるのであれば,それに賛成します.この個人的感情には,沖縄県民がそのことにどれだけ反対か賛成かの割合には関係ありません.そのような国民も結構いると思います.(2017/02/13 18:34)

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