• ビジネス
  • xTECH
  • クロストレンド
  • 医療
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
  • 日経BP

猫好きボナールとナビ派

2017年2月25日(土)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 フランス近代の画家、ピエール・ボナール(1867~1947年)は、なかなかの猫好きだったようだ。東京・丸の内の三菱一号館美術館で開催中の「オルセーのナビ派」展に出品されているボナールの絵の何枚かにも、存在感をもって描かれている。

 たとえば《格子柄のブラウス》と題した一枚。食事の風景を題材にしたこの絵で描かれている女性は、左手に猫を抱えながら、右手でフォークを使って料理を食べている。女性は画家の妹だという。食卓、画家の家族、飼い猫。いわば日常生活の一コマを切り取ったスナップ写真のような絵画だ。

 ボナールがこの絵を描いたのは1892年。フランスでは印象派展が第8回展をもって86年に終わっており、ポスト印象派の代表画家、ゴッホが亡くなったのは2年前のことになる。

ピエール・ボナール《格子柄のブラウス》(1892年、油彩、カンヴァス © RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF )(無断転載禁止)

 画家の妹が着ているおしゃれな服には、ひだのようなものが描かれてはいるものの、どこか不自然である。格子模様が体のラインに沿っていないのだ。千代紙のようなものを切ったいくつかの断片を組み合わせ、格子の方向を揃えてカンヴァスに貼り付けたかのようにさえ見える。

 また、西洋絵画の伝統において立体感を表現する重要な手法である陰影は、この絵ではほぼ使われていない。ボナールに立体感を表そうという気持ちがなかったのは明らかだろう。そもそも画面全体を何となく紙っぽいけばけば感が支配しており、むしろ、そのまま壁紙にしてもしっくり来そうな趣もある。

 だからと言って、表層的な薄っぺらい表現の作品なのかといえば、そんなことはない。絵と向き合えば、モチーフとしての女性や猫には存在感があり、小ぶりな作品ながらもじっくり味わうことができる。

ピエール・ボナール《格子柄のブラウス》展示風景(無断転載禁止)

 立体感がない平面的な表現については、19世紀後半のフランス絵画に、当時大量に流入していた浮世絵などの日本美術の影響があったことが指摘されている。ボナールのこの絵では、画面に表された部屋や人物の服装のもたらす雰囲気ゆえか、ぱっと見には日本的な感じはしないのだが、たしかにこの遠近感のなさや装飾的な傾向は日本美術に通じている。ボナールは「日本かぶれのナビ」とも言われていたという。こうして西洋の画家が咀嚼して生んだ表現を経由して日本美術の特質を学ぶのも、なかなかおもしろいことだと思う。自分の特質には意外と自分では気づきにくいことがあるからだ。

 ちなみに猫と女性の組み合わせは、葛飾北斎や歌川国芳などの浮世絵師も絵の題材にしている。一方、筆者が知っているのは戦後の話になるが、フランスは美猫コンテストを開いていたようなお国柄である(戦後、猫好きの画家、レオナール・フジタ=藤田嗣治が審査員を務めたことがある模様だ)。猫への愛情も、日本には負けていない。そして、ボナールの猫もなかなか美しい。

ピエール・ボナール《猫と女性》(1912年)展示風景。白猫は美しく気品を感じさせる一方で、食卓の魚を狙っているような茶目っ気を見せている(無断転載禁止)

 ボナールは、この作品が出品されている展覧会名にもなっている「ナビ派」を代表する画家の一人だ。三菱一号館美術館館長の高橋明也さんは、「ナビ派」の魅力を語るのに「親密さ」という言葉を重要なキーワードとして挙げていた。

 「ナビ派」という流派名はそもそも「預言者」を意味するヘブライ語の「ナビ」という言葉に由来するという。謎めいた印象には惹かれるが、とっつきにくさも感じてしまう。一方、「親密さ」という言葉で捉えると、見る側のアプローチもずいぶん変わってくる。少なくとも「親密さ」という言葉がナビ派にいかにしっくり来るかは、ボナールの作品についてはすでに説明不要だろう。

ピエール・ボナール 《庭の女性たち 猫と座る女性》(1890〜91年、デトランプ、カンヴァスに貼り付けた紙、装飾パネル © RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF)
猫と女性をテーマにした作品。4枚組のうちの1枚。日本美術の影響を受けており、当初は屏風を想定して描いたが、パネルに仕立てたという(無断転載禁止)

オススメ情報

「小川敦生のあーとカフェ」のバックナンバー

一覧

「猫好きボナールとナビ派」の著者

小川 敦生

小川 敦生(おがわ・あつお)

多摩美術大学美術学部芸術学科教授

日経マグロウヒル社(現・日経BP社)入社後、日経アート編集長や同社編集委員を経て、日本経済新聞社文化部へ。美術担当記者として多くの記事を執筆。2012年4月から現職。専門は美術ジャーナリズム論。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

日本という国は、もっと資本主義的になってほしいのです。

ゴー・ハップジン 日本ペイントホールディングス会長