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執念の定点観測で切り取った、中国農民工の心

2017年12月25日(月)

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(写真=山田泰司)

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

1941年、中国吉林省長春市生まれ、1953年帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授。理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員教授などを歴任。最新の著作は『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』。主な著書に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)『チャーズ 中国建国の残火』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』(朝日新聞出版)など多数。

 日経ビジネス編集部のY氏から久々のお便りがあった。10年ほど前に日経ビジネスオンラインでの連載記事「中国動漫新人類」や「中国“A女”の悲劇」などで大変お世話になった方だ。

 封筒を開けてみると『3億人の中国農民工 食いつめものブルース』という本が入っていた。「ブルース」という単語に何とも(やや古びた)哀愁があり、そしてカバーの写真の農民工の写真には、記念写真では決して撮れない、私自身が感情移入して泣いてしまいそうなリアリティがある。

 私は自分自身が中国生まれの中国育ち。それに長いこと中国人留学生の世話や中国政府のシンクタンクで仕事をしていたこともあり、日本人が書いた「中国本」は、基本読まない。しかし、タイトルと表紙から、珍しく、この『ブルース』は読んでみようかという気持ちになった。それによく見れば、Y氏からの「できたら、感想など…」という添え書きがあるではないか。なおさら気持ちがそそられる。

 作者の山田泰司(やまだ・やすじ)氏の略歴を拝見すれば、1980年代末から中国大陸や香港などを渡り歩いているノンフィクションライターの方で、上海生活が長い。氏が行ってきたのは、上海の農民工居住区に潜り込んでの、執拗な定点観測だ。

 私のもともとの専門であった物理の統計力学においては、アンサンブル・アヴァリッジ(ensemble average)とタイム・アヴァリッジ(time average)という二つの平均値の取り方がある。

 ある現象を追う時に、同時に多くのサンプルを集めて各サンプルの値の平均値を取るやり方と、サンプルは1つに絞って、その時間変化を限りなく追って現象の正体を突き止めるやり方だ。これになぞらえると、山田氏の場合は完全に後者。彼は上海の農民工に焦点を絞り、安徽省や河南省から来た農民工とその子供たちに寄り添い、子供たちが大人になるまでの過程を、実に辛抱強く考察し続けている。

 その情熱は執念にも似ている。そして、作者のこの執念こそが、私には哀愁を帯びた「ブルース」に思えて、そこに魅力を覚えた。

ある廃品回収業者の人生

 圧巻は廃品回収業者、ゼンカイさんの顛末だ。
 ゼンカイさんは河南省の農家の三男坊で、1974年生まれ。

 2014年秋、上海の空は例年になく晴れ渡っていた。中国政府がPM2.5の汚染がひどいので、汚染を撒き散らす工場を取り締ったからだ。

 しかしその一方で、政府の要求する環境基準などを満たせない小規模、零細の工場は大量に閉鎖された。そういった工場は廃品のペットボトルや古紙を使う。工場の閉鎖に伴い、この種の廃品の需要が激減した。ゼンカイさんは回収する廃品を再開発地域での家電回収にシフトしていったという。

 ところが、やがて再開発のペースも鈍り、回収できる家電にも事欠くようになる。
 2015年5月、ゼンカイさんは路上でガラクタを売る路上生活者になっていた。
 家がない。お風呂にも入ってないので、著者は彼を家に呼び、シャワーを浴びさせて夕食を供した。

 するとゼンカイさんは「明日、上海を離れることにした」という。

コメント2件コメント/レビュー

中国人民は10億を超える、つまりは持てる潜在パワーは計り知れないのに、これほどにまで非力で歴代の支配者にいとも簡単に手懐けられてしまう傾向がある。秦の始皇帝に起源を持つ2000年間にわたる少数の支配者と膨大な数の被支配者間の絶対主従関係が21世紀の中国者においてもそのまま温存再現されている。その意味で中華人民共和国も最新版の王朝なのだと思う。(2017/12/27 03:09)

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「執念の定点観測で切り取った、中国農民工の心」の著者

遠藤 誉

遠藤 誉(えんどう・ほまれ)

筑波大学名誉教授

1941年、中国長春市生まれ、1953年帰国。理学博士。中国で国務院西部開発弁工室人材開発法規組人材開発顧問、日本では内閣府総合科学技術会議専門委員などを歴任。2児の母、孫2人。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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いただいたコメント

中国人民は10億を超える、つまりは持てる潜在パワーは計り知れないのに、これほどにまで非力で歴代の支配者にいとも簡単に手懐けられてしまう傾向がある。秦の始皇帝に起源を持つ2000年間にわたる少数の支配者と膨大な数の被支配者間の絶対主従関係が21世紀の中国者においてもそのまま温存再現されている。その意味で中華人民共和国も最新版の王朝なのだと思う。(2017/12/27 03:09)

毛沢東の下での文化大革命で道徳を失くし、鄧小平の下での経済発展で道徳無き資本主義にはしり、習近平の下で金持ちにもなれず貧乏にも耐えられず遊ぶことに慣れた人口は虚しいナショナリズムに賛同され中国よりも小国・弱国の民衆を蔑むことでしか自分達を納得させる術を失くす。失った道徳を取り戻すには50年以上掛かるのだろうか・・・(2017/12/26 08:34)

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