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広く伝えようとする広告は伝わらない

「伝える」と「伝わる」の間に流れる大きな川(アートディレクター葛西 薫さん 第4回)

2016年12月2日(金)

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 日本を代表するアートディレクター、葛西薫さん。サントリーのCI計画や、中国を舞台にしたウーロン茶の一連の広告をはじめ、虎屋のロゴデザインやパッケージ、ショップなどにもかかわる総合的なデザインや、ユナイテッドアローズの広告などを手がけています。

 広告業界では知らぬ者はいないであろう葛西さんに最初にお会いしたのは15年ほど前。

 抽象的な表現や難解な言語、カタカナ用語を一切使わず、平易な言葉で、ユーモアを混ぜながら、自身の仕事を的確に表現する。何て「やわらかいひと」なんだろう、と気を許していると、突然、どきっとするような厳しい発言が飛び出す。

 「いま流行っているあの広告、良いと思いません」

 インターネットが普及してはや10数年、スマートフォンが台頭し、広告を取り巻く環境は日々変わっている。そんな時代だから、葛西さんにストレートな質問をぶつけることにしました。

 「葛西さん、良い広告って何でしょう?」

前回から読む)

「そもそも「不特定多数」なんて人はいない」

葛西 薫(かさい・かおる) サン・アド常務顧問。1949年生まれ。文華印刷(株)、大谷デザイン研究所を経て、1973年サン・アド入社。サントリーウーロン茶、ユナイテッドアローズ、虎屋の長期にわたるアートディレクションほか代表作多数。近作に、スポーツカーTOYOTA86の広告。著書に『図録 葛西薫1968』(ADP)など。(写真:大槻純一、以下同)

葛西:広告って、多くの人に商品やサービスの情報を伝えることが目的です。なにせ「広く告げる」ですから。ただ、ずっと広告の仕事をやってきた僕の経験から、この「広く告げる」という部分にはちょっと罠があります。

川島:といいますと?

葛西:最初から「不特定多数」の誰にでも好かれようとして広告を作るとたいがいうまくいかない。つまり「広く告げよう」とした広告は、「広く告げられない」。

 むしろ「個人から個人に伝わる最小限のコミュニケーション」を頭に描いて作った方が、最終的には「広く告げる」ことができる場合が多い。実際、僕の経験でも、うまくいったと思われる広告の多くが、誰か特定の個人に伝えたいという思いで作ったものでした。

川島:広告主にその論理を話しても、なかなか伝わらないのでは? 

葛西:いえ、広告主だって個人の集まりですから、話せばわかります。広告は、誰か特定の「あの人に伝えたい」という強い思いから作った方がうまくいく。広く伝えようとするほど相手を見ていないことになる。

 そういう広告は、勢い派手になるか、有名タレントを使うか、マーケティングデータに縛られて、どこかで見たことのあるような内容になるかとなり、広告の個性そのものはむしろ減じられてしまったりする。結局「伝わらない」のではと。

川島:うーん、広告主は、不特定多数のなるべく多くの人にアプローチしたいんですよね?

葛西:そもそも「不特定多数」なんて人はいない。僕も川島さんも、不特定多数の1億2000万人のひとりだけど、自分のことを「不特定多数」のひとり、とは思わないし、思いたくないですよね。毎日こんなに大変なんだから(笑)。

川島:たしかに! 私は不特定多数なんかじゃない!って思いますよね。

葛西:だから、顔の見えない相手をマーケティングする、というアプローチは、結局誰の心にも響かない。つまり「伝える」と「伝わる」の間には大きな川が流れてる(笑)。

川島:葛西さんが、最近「これは伝わってくる」と感じた広告は?

葛西:駅などで見かけるアップルの「iPhone」の広告。あれはいいですね。大きな看板に1枚の写真。コピーは「iPhone6で撮影」。ほかに何の説明もないし、写真も誰か有名写真家が撮ったわけでもない。被写体も別に有名人が写っているわけでもない。

 いわゆる広告写真ではなく「個人」を感じる。なんの説明がなくても、「iPhone6」の性能を誰でもわかるかたちで示している。スマートフォンについているカメラ機能で、ここまでの写真が撮れるんですよ、ということをたった1枚の写真とたった1行の説明で、「伝わる」。

川島:ある種、理想の広告ですね。

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「広く伝えようとする広告は伝わらない」の著者

川島 蓉子

川島 蓉子(かわしま・ようこ)

ifs未来研究所

ファッションという視点から、さまざまな分野の企業のブランド作りなどのプロジェクトにかかわる。日経MJ、ブレーン、読売新聞などで連載を持つ。2013年から現職。多摩美術大学非常勤講師。Gマーク審査委員。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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