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危機が生む新たな医療システム

「気仙から全国を目指す」

2018年3月8日(木)

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 日経ビジネス2018年3月5日号の特集記事「3・11 7年が生んだ未来」では、人口減少、高齢化という地方共通の課題の解となり得るビジネスモデルを構築した東北の企業を取り上げた。震災や津波、原発事故という悲劇的体験が産んだ危機感は、企業誘致や移住促進という古典的な地域おこしとは異なる取り組みを生み出している。

 それは、ビジネスだけでなく、教育や医療など社会的課題でも同じことだ。先進事例として注目を浴びている取り組みの1つが、岩手県南東部、気仙地域の3市町が連携して取り組む医療情報連携基盤「未来かなえネット」だ。気仙発の医療システムを全国展開し、医療情報の「個人情報銀行」を設立するという壮大な構想を抱く。

 総務省は昨年度、「クラウド型EHR(医療情報連携基盤)高度化事業」を始めた。

 EHRとは、医療機関や介護施設で患者の診療内容や処方薬、要介護の状況などを共有する情報ネットワークのこと。高齢者向けサービスの高度化、業務効率化と広域連携による医師不足の緩和を目的とする。全国に約270あるEHRのうち、16の地域が高度化事業の補助対象になった。その1つが、岩手県南東部の気仙地域に属する大船渡市、陸前高田市、住田町の「未来かなえネット」だ。

 総務省によると、全国のEHRには開店休業状態のものも多い。その大きな原因は地域の中核病院が一方的に負担を背負う構造になっているためだ。中核病院が開設を主導し、院内にサーバーも設置。中核病院の情報を周辺の診療所や介護施設に公開する形を多くのEHRが取っている。これでは中核病院のメリットはほぼない。中核病院の担当者が代わったり、システムの保守費用が必要になったりした際に、更新が止まってしまう。

 総務省の高度化事業は、EHRの中でも住民の登録率が高く、収支が安定している先進地域を対象にする。16の先進地域のEHRのサーバーをクラウド化して、中核病院とその他の施設が双方向に情報をやりとりできる形に進化させ、全国のロールモデルにしようという試みだ。

未来かなえネットは地域の消防機関とも連携。全国のEHRの中でも稀有な事例だ

 しかし、未来かなえネットは16の地域の中でも異色だ。2016年3月の稼働時から既にクラウド化されている。今回の高度化事業への参加は、岩手内陸部の一関市や、県境を超えて宮城県全域まで連携を拡大するという、さらに一歩進んだ目的のためだ。広域化により更新費用が確保しやすくなり、医療ビッグデータとしての価値も高くなる。例えば感染症の感染経路の分析などが容易になる。このため、自治体側にも大きなメリットが生まれる。未来かなえネットを運営する一般社団法人、未来かなえ機構(住田町)の安部博事務局長は「いずれは全国の医療連携ネットワークをつなぐ基礎にしたい」と夢を描く。

 未来かなえネットの構想は、津波被害を受けて内陸部への移住者が相次ぐ中、医療システムの持続性を担保するために始まった。高齢化が一気に進む地域で医療・介護の質を担保するには、各施設の緊密な連携が欠かせない。3市町はクラウド化にいち早く取り組んだことで知られる新潟県佐渡市の「さどひまわりネット」を参考にシステムを組み上げた。さらに、事務運営費のコスト負担を厭わず、運営主体を独立した団体にした。中核病院の意向に左右されず、持続性のある運営をするためだ。住田町に未来かなえ機構を設立し、事務局長として、生命保険会社の出身で、福島県などで震災ボランティアに携わっていた安部氏を呼び寄せた。

「五分粥」の硬さがバラバラだった

 未来かなえネットでは、手本とした佐渡よりも進んだ取り組みも多い。昨秋には地域の消防機関とも連携。救急搬送中に救命士が患者の情報を閲覧できるようにした。小児科の医師にビデオ通話などで遠隔の医療相談ができるサービスも試行し、本格稼動も視野に入っている。

 言語やデータのフォーマットの統一にも取り組む。例えば、「五分粥」。噛む力が弱い高齢者らに食べさせるために水分を増やした柔らかいお粥のことだが、水加減などのレシピが統一されておらず、施設によって作られるお粥の硬さにムラがあった。これではデータを共有化しても意味がない。未来かなえネットでは事務局を中心にこうした曖昧な言葉をリストアップし、各施設で共有する辞書を作成したのだ。

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「危機が生む新たな医療システム」の著者

寺岡 篤志

寺岡 篤志(てらおか・あつし)

日経ビジネス記者

日本経済新聞で社会部、東日本大震災の専任担当などを経て2016年4月から日経ビジネス記者。自動車、化学などが担当分野。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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