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最後のイタコを訪ね、亡き母と話す

現代に息づくシャーマンたち(前編)

2018年3月12日(月)

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ここでは土着的宗教とも言えるシャーマニズムの世界を覗いてみたい。拙著「『霊魂』を探して」(KADOKAWA)の中で筆者は、青森のイタコや沖縄のユタなど、土着的に活動している祈祷師らを探し出し、実際に、呪術、祈祷してもらいながら対話を重ねた。現代に息づくシャーマンのリアルな姿をルポする。その前編。

 うっすらと雪が地表を覆い始めた12月中旬、筆者は青森県八戸市郊外の民家を訪れた。「最後のイタコ(巫女)」と呼ばれる松田広子(44)に会うためだ。

 松田は東北地方の南部(青森県東部、岩手県北中部)を拠点に活動する若きイタコ(南部イタコ)である。イタコは死者の霊魂を憑依させ、縁者と対話させる「口寄せ」で知られる。日本の伝統的なシャーマン(呪術師、霊媒師)の一種だ。イタコは口寄せのほかにも「お祓い」「占い」「神事」なども行う。「見えざる世界」との媒介者である。

 イタコに近い存在として、日本では沖縄地方のユタ(巫女)やノロ(祝女)、韓国では土着宗教ムーダン(巫堂)などがある。

韓国のムーダン

「あの世ではどういう生活を?」

 玄関を開けると、松田が姿を現した。髪を後ろで束ねた、一見すると普通の40代の主婦だ。誘われたのは祭壇のある奥の座敷。白い法被を羽織った松田は奇妙な数珠を持っていた。その風情はいかにもシャーマン然としたものだ。辺りの空気がピンと張りつめた。

 数珠はムクロジの木でつくられた特殊なもの。両端には熊の爪やオオカミの骨、小動物の頭骨、古銭などがぶら下げてある。これは「魔除け」なのだという。

 女性は数珠をさすりながら筆者に、こう訪ねた。

 「どなたを(降ろしますか)?」

 筆者は20年前に母親をがんで亡くしている。

 「母をお願いします」

 母親の死因などの情報を口頭で簡単に伝え、さらに、紙に命日と享年を書いて渡した。

 やおら、般若心経が始まった。仏教の要素を取り入れていながら口寄せをするのか、と思っていたところ、次に意味不明の文言を唱え始めた。

 「閻魔大王」「三途の川」「六道」「地蔵様」「冥土」「念仏」などの仏教用語が辛うじて聞き取れるが、明らかに経文ではない。これは、「仏降ろし」と呼ばれる、イタコに伝承されてきた呪文なのだという。

 ジャリジャリ、ジャリジャリ……。数珠をこする音が大きくなる。松田は口寄せをする時にはこの特殊な数珠を使うが、その昔は太鼓を打ち鳴らしたり、弓の絃の部分を弾いて音を出しながら、仏降ろしをしたイタコもいたという。

 次に、和讃のような歌が始まった。

 〽極楽浄土の死出の山を急いで参る……

 松田の声が上ずり、ハイな状態になっていくのが分かる。声のトーンがやや高く変わったかと思った瞬間、筆者に語りかけてきた。

最年少のイタコ、松田広子

 「やーやー、よくよく気にかけてくれて、ここまで来てくれたなあ。呼んでくれて、有り難う。でもなあ、こんなにあっけなくこの世を旅立つとは思わなかった。(がんが発覚してから)なんだか、体があちこち痛むな、胃腸炎かなと思っていたけれど、大したことないと思っていた。だから、本当に悔しい思いがする。でも、気にかけてくれて本当にありがたい。親として、何もしてあげられなかったけれど、それなりに楽しく暮らすことができた。幸せだった、とひと言、言って、あの世に往きたかった。私は(あなたの)夢には出てこないけれど、あの世でもみんなのことを守っていますから。いい縁が付くように、あの世とこの世を行き来していますから、安心して暮らしてくださいますよう」(※松田に許可を取って録音したものを一部、編集した)

 "母"による一方通行の話は続き、最後にこう筆者に語りかけた。

 「何か聞きたいことはあるかな」

 筆者はすかさず、こう尋ねた。

 「あの世でどういう生活をしているの」

 「今はみんなの幸せを考えて暮らしていますよ。何か変わったことがあれば、すぐに皆様のところに飛んでいって、夢の中に出て知らせます。その時は3日間、十分注意をしてください」

コメント4件コメント/レビュー

地元民ですが、良く書かれた記事だと思いました。
本物のイタコは自身を霊能力者だとか大げさな言い方はしません。
この記事の通りです。
ちなみに「むつ市のあのかた」は「イタコ」ではなく「カミサマ」と呼ばれる方に入ります。
イタコは死者の霊を代弁にしますが、カミサマは神様の言葉を代弁します。
イタコのように普通に生活している人がほとんどです。(2018/03/15 16:25)

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「最後のイタコを訪ね、亡き母と話す」の著者

鵜飼 秀徳

鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)

ジャーナリスト、浄土宗僧侶

1974年、京都市生まれ。新聞記者、日経ビジネス記者、日経おとなのOFF副編集長などを歴任後、2018年に独立。「宗教と社会」をテーマに取材を続ける。正覚寺副住職、浄土宗総合研究所嘱託研究員、東京農業大学非常勤講師。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

地元民ですが、良く書かれた記事だと思いました。
本物のイタコは自身を霊能力者だとか大げさな言い方はしません。
この記事の通りです。
ちなみに「むつ市のあのかた」は「イタコ」ではなく「カミサマ」と呼ばれる方に入ります。
イタコは死者の霊を代弁にしますが、カミサマは神様の言葉を代弁します。
イタコのように普通に生活している人がほとんどです。(2018/03/15 16:25)

イタコといえばむつ市のあの方。
今から20年ほど前に、視てもらったことがある。用件はお嫁さん。

30才過ぎても結婚できずに、親が心配し私としては話の種にと信じていなかった。
そこで言われたのが

1 もう決まっている、今はもう出会うのを待っているだけ。
2 やせていて、近くに住んでいる。
3 きつい顔をしている。

それから半年位で、嫁さんと出会い今子供がふたり。1、2は当たったのだが3は外れかなとも思ったのだが、最近きつい顔になった。そこまで視ていたのか。。。

「あなたは仕事だけの人ですね。」と言われたのが印象に残っている。科学的ではないけれどこういう世界のあるのかと思っている次第です。(2018/03/13 01:47)

「霊子」「霊波」が存在するというのは面白い考え方ですね。
素粒子や重力波が実際に観測されたのもごく最近になってからですし、我々が単に実測する技術を持たないだけで、目に見えないけれど実在するものは多そうです。無下に否定しないほうが科学的態度と言えるのかも知れません。(2018/03/12 16:42)

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