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苦渋と期待と奇跡と。だから「営業」は面白い

「お金を払いたい」と言ってもらうために必要なこと

2018年8月17日(金)

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第2回フラクタ全米営業ミーティング。新たなメンバーも加わり、賑やかになりました

 7月の後半に入ると、第2回「フラクタ全米営業ミーティング」が開催された(第1回の様子はこちら)。7月24日から26日まで、3日間にわたって、新しく仲間に加わったアメリカの北東電話営業担当のケイティー、南東電話営業担当のブレア、北東営業(直販)担当のケビン、南東営業(直販)担当のトリーシア、南西営業(直販)担当のリアナ、技術営業(プリセールス)担当のポールを迎えて、その他の営業マンたちも全員集めて行われるこの会議に、フラクタの営業・マーケティング担当副社長のダグは全神経を注いでいた。

 ダグの営業にかける想いの強さには、いつも胸を打たれてしまう。ちょっと前に、こんな話があった。

 7月19日、僕たちはアメリカ東海岸で最も大きな民営水道会社の一つと、電話で交渉を行っていた。ダグは東海岸から電話で入り、僕と製品・技術担当副社長のジョエル、それに加えてCTOの吉川君が電話でこの交渉に参加した。一通りダグのプレゼンテーションが終わると、実際の年間ソフトウェアライセンス販売金額に関する価格交渉に入る。先方は既にパイロット(トライアル)期間を終了しており、このパイロットに対してもきちんとお金を払ってくれた優良企業だ。しかし、このフルバージョンの年間ソフトウェアライセンスに関しては、なかなかこちらが思った金額を払ってくれようとしない。価値は伝わっているはずなのだが、どうしても、人工知能というイメージがもたらす不確かさや、また彼らが自社の中で歴史的に抱えてきた「ソフトウェアに対して払える(払いたい)と思うお金の上限」がチラチラと交渉の中で見え隠れするのだ。

 僕は僕で、6月にラスベガスで行われたカンファレンス(展示会)で、先方のトップと1対1で話し合いを持ち、膠着状態を打開しようと努めてきた経緯があるが、こうした一つひとつのアクションすらも、先方の認識をガラリと一変させるには力不足という感があった。水道産業の動きの遅さには慣れてきてはいたものの、こちらもそろそろ「年間契約という形」で、先方との関係性に進展を見たいと思っているのだ。

後に続く者たちの励みとなることを信じて

 何度かの押し引きの後、先方が僕たちが思っているよりも、ほんの少し低い価格を提示してきた。僕たちは既に自分たちが妥協できるギリギリラインの価格を提示していたので、僕はこの価格提示(つまり、再度の値下げ交渉だ)に心底がっかりした。僕が直接営業を担当していたならば、もしかすると机をひっくり返していたかも知れないと思うほどだ。

 ベンチャー企業は、尊敬されなければならない。リスクを取って、新しい市場を開拓しようとする人たちを、社会は、尊敬しなければならない。それがアメリカという国をアメリカたらしめてきた、世界の勝者たらしめてきた原理原則じゃなかったのか。それともアメリカも東海岸では、西海岸のような、こうした大らかな原理原則が通用しないのか。

 そんな中、ダグが相手に対してこう切り出した。

 「分かりました。最終的に会社で決裁できるかどうかは、あとでCEOの加藤と二人でしっかりと話をして決めたいと想います。つまり、結論を今日出すことはできません。こちらとしても、御社と一緒に前に進みたいという気持ちを持ってずっと進んできたという経緯があります。私たちベンチャーにとって、時間というものは大変な価値になります。このまま交渉を長引かせるのではなく、価格が低く抑えられたとしても、このタイミングで前に進むことが双方の利益になる理由がたった一つあります。それは、時間軸です。この金額に近い形で決着した場合、どれだけ早いスピードで御社内で決裁ができるでしょうか?」

 電話越しに聴くダグの声は、落ち着いてはいるが、幾分苦しそうに見えた。それはそうだろう、ダグの苛烈な性格を考えれば、僕以上に、こうした先方のオファーに対して、やるせない気持ちを抱いているに違いないのだから。しかし、組織の生存を確保するため、長期的な視点に立った際に、テンポよく営業を決めていくことが彼のあとに続く多くのフラクタ営業マンたちの励みになることを信じて、彼はこうした気持ちをグッと飲み込んだに違いない。先方の返答はこうだ。

 「もちろんです。この価格レンジに収まるのであれば、1カ月以内には正式な契約に進むことをお約束したいと思います」

 色んな見方があるだろう。だが、結論としては、僕にはダグがフィールドの中で、最高のプレーを決めたように見えた。こうしたダグの営業姿勢に、僕は真のリーダーシップを見た気がする。アメリカンフットボールで鍛えた精神力、スポーツマンシップ。戦火の中で、正常な判断能力を失うことなく任務を遂行するタフネス。すごい男がいるもんだ。僕やジョエル、吉川君は、自分たちが正しい営業責任者と働いているということを、この電話交渉に参加して、改めて実感することになった。

コメント2件コメント/レビュー

今回の記事も非常に参考になり、また勇気づけられました。
自分が担当している製品も公共性の強い製品に使用されることが多いもので、市場としては安定しているけれど、会社が期待するような成長が見込めないため、ある意味社内での立場はかなり弱いものです。残念ながら新製品を作るだけの予算が割り当てられません。しかし、会社の注目度は低いけれど、その分営業活動には自由が利くので、加藤さんのアプローチを参考にして、どうやってフィールドの人たちのやる気をあげるのか?考えていきたいと思います。どこかでブレークスルーできればいいなと思います。(2018/09/19 22:40)

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「苦渋と期待と奇跡と。だから「営業」は面白い」の著者

加藤 崇

加藤 崇(かとう・たかし)

加藤崇事務所代表

1978年生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京三菱銀行、KPMG日本法人、技術系ベンチャー企業社長などを経て、2013年、ヒト型ロボットベンチャーSCHAFTをグーグルに売却し、世界から注目を集めた。スタンフォード大学客員研究員(兼任)

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

今回の記事も非常に参考になり、また勇気づけられました。
自分が担当している製品も公共性の強い製品に使用されることが多いもので、市場としては安定しているけれど、会社が期待するような成長が見込めないため、ある意味社内での立場はかなり弱いものです。残念ながら新製品を作るだけの予算が割り当てられません。しかし、会社の注目度は低いけれど、その分営業活動には自由が利くので、加藤さんのアプローチを参考にして、どうやってフィールドの人たちのやる気をあげるのか?考えていきたいと思います。どこかでブレークスルーできればいいなと思います。(2018/09/19 22:40)

常に前向きな姿勢を見習いたい。
因果関係が分からなくても突き進みたい、そんな気にさせる記事。
Information goes to the sunny side ですね。(2018/08/17 11:01)

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