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「現代のチンドン屋」がやってくる!

芸能界を破壊せよ

2017年12月28日(木)

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その男たちは、突然、町に現れる。遠くから聞こえる太鼓と笛の音が、子供から老人まで、その心を踊らせ、引き寄せていく。神出鬼没の「現代のチンドン屋」は、伝統に縛られ拝金主義にまみれた芸能界に痛烈なアンチテーゼを突きつける。(下の動画をご覧ください)

 JR中央線三鷹駅北口の交番横。小さなベンチが設置されている場所は、普段はバスの降車場所として、人々が足早に通り過ぎていく。

 そこが騒然としたのは、11月中旬の昼下がりのことだった。野良着をまとい、太鼓や笛を手にした14人の男たちが目配せをしながら、その瞬間を迎えようとしていた。周囲のほとんどの人はまだ、これから何が起きるのか予期していなかった。

駅前の乱痴気騒ぎ

三鷹駅北口のライブに駅前は騒然となった

 午後1時、突然、太鼓が打ち鳴らされる。のっけからアップテンポの曲で始まり、笛や鐘、そしてエレキ三味線が重なっていく。

 その音に、道ゆく人々が足を止め、集まってくる。最初は彼らを取り巻く二重の人の輪が、次々と膨らんでいく。当初は余裕の表情で見ていた警官が、慌てて人の流れを整理し始める。

 「耕し」と名付けられた曲は、演奏する「切腹ピストルズ」のオリジナル曲。ビルで埋め尽くされた東京を、一度、すべて耕すように壊そうと歌う。

 2曲目の「名乗り上げ口上」は、曲名の通り、バンドが何者かを紹介する。リーダーの飯田裕之が鐘を鳴らしながら、「やあやあ、我らこそが、絶滅したと言われているニホンオオカミの残党」と名乗りを上げる。そして全員でこう叫ぶ。

 「野生の叫び! 破壊の破壊! 徹底的な祭りを奏でる!」。再び太鼓がうなりを上げる。阿波踊りのリズムを基本に置いた曲に、集まった「客」が、太鼓に合わせて揺れ始める。ビルの2階のカフェから、人が乗り出すように観て、拍手と歓声を上げる。

 その後、英国パンクロックの名曲のカバー、そして野球拳で知られる長唄「元禄花見踊」と続いていく。バスを降りた人が目の前で展開されている「非日常」の祭り騒ぎに眼をむき、そして輪に加わっていく。高齢の女性たちが、群衆をかき分けるように入っていく。交番前まで溢れかえった人に、いつしか警官も通常の交通整理をあきらめた。車道に溢れ出る人を、バスと接触しないように守る対応に切り替えていた。

 ラストは民謡「八木節」をもじった「自棄節」。テンポをあげた高速の「八木節」にボルテージは最高潮に達する。そして、40分のゲリラライブが終了した。

 目を真っ赤に腫らした70代の女性が、カネを握りしめてさまよっていた。「ふるさとの新潟の太鼓を思い出した」。そう言って、おひねりをどう渡せばいいのか、思案していた。「投げ銭」の箱を用意することもある。だが、飯田はカネを取ることをすっかり忘れていた。

老人が次々と集まってくる(三鷹駅北口)

 「そうですか。おばあさんには申し訳ないが、今日は(投げ銭箱を)思いつきませんでした」

 決まったカネ(入場料)を取るのは、人を巻き込むことを狙った飯田の発想とは、そもそも合わないという。

 「最近の芸能は決まった場所でやる。だから、入場料が決まっている。我々はいきなり演奏し、しかも練り歩くことも多いので、入場料と無縁なんですね。まあ、おひねりや投げ銭をいただくことはありますが」

 半年前、彼らに最初に会った時もそうだった。千葉県市原市の芸術祭「いちはらアート×ミックス」に招待されると、工業地帯の河口から養老川を上りながら演奏し、10日間かけて源流まで登っていた。山間部の集落に、いきなり太鼓と笛が遠くから聞こえてくる。子供が飛び出し、老人も何事かと集まってくる。そこで止まって演奏して、その代わりに食べ物をもらう。

養老川(千葉県)を演奏しながらさかのぼり、途中の町で食事をもらう(写真:生江ゆかり、以下同)

 「切腹の人たちにとっては、一番それがうれしい。おカネなんかより。音をあげる代わりに食べ物をもらう。非常に原始的な経済のやりとりがある」

 切腹ピストルズと飯田を10年前から見てきた美術評論家の福住廉は、そう見ている。

 場の空気を動かし、人を吸い込み、そして相互関係の中で音を奏でていく。飯田は集まった人々を見ながら、その反応で曲順や歌詞まで変えていく。「場と一体になった時、乱痴気騒ぎになる」

 「四国八十八箇所巡り」を演奏しながら回っていたときのこと。道を曲がると、寺の前で立ち尽くしていた中国人観光客数十人がいた。太鼓の音が近づいてくることに気付き、足を止めていたのだ。すると、切腹ピストルズは中国人たちの前で止まり、演奏していた曲の締めを決めた。そして、再び演奏を始めて歩き出す。背後では、中国人から拍手喝采が湧き上がった。

表層のパンク

 現在、全国に散った20人ほどの「隊員」は、普段はそれぞれの仕事で生計を立てている。だが、芸術祭やイベントに呼ばれると、集まって演奏する。飯田も普段は栃木県に住み、グラフィックデザインを手がけながら、農業にも精を出す。

 元は、中央線沿線を中心に活動していたパンクバンドだった。飯田は1980年代、高校生の頃からパンクロックに取り憑かれてきた。

 「日本なんて、なくなればいい。若い頃はそう思っていました」

 だが、パンク全盛期を築いた伝説のバンド「セックス・ピストルズ」を生んだ英ロンドンで生活すると、その音楽の原点に打ちのめされた。自らのパフォーマンスを「薄っぺらい表層だった」と振り返る。そして、日本の音楽と文化に立ち戻り、深くその原点を掘り起こしていくことになる。

 日本がなくなればいい——。それは自身のルーツへの嫌悪と憧憬が入り混じった表現でもあった。

コメント6件コメント/レビュー

映像を見て、日本には日本の昔からある庶民で創る祭りにも似た娯楽がいろいろとあったのだと思った。(2018/01/06 10:40)

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「「現代のチンドン屋」がやってくる!」の著者

金田 信一郎

金田 信一郎(かねだ・しんいちろう)

日経ビジネス編集委員

日経ビジネス記者、ニューヨーク特派員、日経ビジネス副編集長、日本経済新聞編集委員を経て、2017年より現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

映像を見て、日本には日本の昔からある庶民で創る祭りにも似た娯楽がいろいろとあったのだと思った。(2018/01/06 10:40)

すごくいい記事だった。音楽にも関心をもったが、それよりも考え方が独特でありながら飾っていないところに魅力を感じた。(2018/01/06 09:59)

記事をよむだけではどんな音楽かよくわからないが,瀬戸内音楽祭の写真の和太鼓や菅笠やのぼりを
みてなんとなく郷愁を感じて涙ぐみました。ロンドンへ言って日本的なものに目覚めた事や他の世界をみて日本人の魂の表現で創造的な音楽をつくりだそうと努力しているのに心うたれました。(2017/12/29 22:23)

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