「健診は意味がない」のは果たして本当か

健診懐疑派が持ち出すエビデンスの正しい読み解き方

  • 近藤 慎太郎
  • 2018年09月12日
本連載が1冊の本になりました。日本人の死因で最も多い「がん」を避けるためにはどうすればいいのか、マンガで分かりやすく解説しています

 前回(「メタボ検診、結局のところ意味があったのか」は、メタボ健診への批判に対して解説し、メタボ健診の存在意義について再確認しました。

 そしてメタボ健診の有効性については、まだ結論を出すには時期尚早であると解説しました。

 ではメタボ健診に限らず、一般的な健診というものにはどれぐらいの効果があるのでしょうか。

 これに関しては、オランダから有名な報告があります。

 その論文によると、対象者を健診を受けるグループと受けないグループにランダムに割り振って経過観察したところ、両グループ間で、病気の罹患率も死亡率も差がなかったという事です。つまり健診には「まったく意味がなかった」という衝撃的な報告です(1)。

 健診に否定的な人たちにとっては、金看板のようになっています。

 臨床研究において、最もエビデンスのレベルが高いのは「ランダム化比較試験」です。

 これは対象者を、調べたいことを「やるグループ」と「やらないグループ」にランダムに分け(たとえばサイコロをふって1、3、5なら前者、2、4、6なら後者に割り当てる)、経過観察をした後に結果を比べるという研究方法です。

 なんでランダムに割り振るかというと、観察する2つのグループを「大体同じ性質を持つ集団」にしなくては、結果に偏りが生じてしまうからです。例えば平均年齢が全然違う集団の5年生存率を比べたら、年齢が高い集団の方が、生存率が低いに決まっています。それでは研究として成り立ちません。

 一方、十分な人数をランダムに割り振れば、男女比、平均年齢はもちろん、肥満度、年収、学歴、果ては好きなアイドルまで、2つのグループは理論的にだいたい同じになるのです。

 均質なグループを比べるのがもっとも信頼性があるので、ランダム化比較試験のエビデンスレベルが高いのです。

 さらにいくつかのランダム化比較試験を、統計学的な手法を使って統合した「メタアナリシス」が、エビデンスとしては最高レベルにあります。

 そして、健診に関するこのオランダの論文はメタアナリシスでした。つまり非常に信頼性が高い手法を使っていたのです。それで「健診は死亡率を下げない」と言ったので、インパクトは非常に大きいものがありました。

 ただし、この論文は罹患率や死亡率を検討しているだけなので、「健診を受けたグループの方が合併症が少なく、健康寿命が長かった可能性がある」と擁護されたりすることがあります。

 もちろんその可能性もあります。

 しかし、そんな消極的な理由はさておき、私はこの研究に関しては、疑問に思うことが多々あります。

 第一に、このメタアナリシスは14個のランダム化比較試験を統合しているのですが、経過観察期間が1年しかないものが3つ、1.5年のものが1つ入っているのです。

 さすがにそこまで短ければ、死亡率に差が出なくても当然でしょう。

 もし健診に意味があるのかどうか本気で検討しようと思ったのであれば、経過観察期間がそれなりに長いものを選ぶべきです。これでは、結論をコントロールするために、恣意的に短いものも採用したのではないかと勘繰ってしまいます。

 また、健診を「受けるグループ」と「受けないグループ」に割り振ることが、はたして本質的に可能なのでしょうか。

 倫理的にもどうかと思いますが、それはさておくとしても、現実的に遂行可能なのかどうか、ということです。

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