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契約理論でAIを「調教」

「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか

2018年11月29日(木)

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あなたの「目的関数」は何か? それはAIに正しく伝わっているか?

 「AI(人工知能)の内側の経済学」に踏み込んだ前回は、ビジネスにおける価格設定や広告戦略(いわゆるマーケティング関連のプロセス)をAIに丸投げする話をした。つづいて今回は、「AIを搭載した新製品」の中身について考えてみよう。AI開発、それはとても面白い「人間の営み」なのである。

プロダクト(製品)イノベーションのためのAI技術

 仕事の流れの一部を自動化すること、それは一種のプロセス・イノベーション(生産・販売活動のコストを下げること)であった。こんどは、プロダクト・イノベーションについて考えてみよう。プロセス・イノベーションが製造・販売の工程(プロセス)を改善するものであったのに対して、こちらは新たな製品(プロダクト)を開発・投入する話である。

 たとえば、「AI技術でお米がおいしく炊ける」炊飯器。そういうキャッチコピーの家電製品は昔からあったが、一体どのあたりに「知性」が感じられるのか、よく分からなかった。しかし、ユーザーのその日の体調をセンサーで感知するのみならず、電子メールやSNSへの投稿内容までも細かくデータ分析してくれる炊飯器が登場したならば、どうだろうか。

 メールの文章がどれくらい整っているか、乱れているか。友人の投稿内容に「いいね」するのか、しないのか。あなたの一挙手一投足をつぶさに観察することで、この炊飯器は「その日その時のあなたにとって最適な炊き加減」に自動調整してくれる。すなわち、あなたの「幸福を最大化」してくれる機械の登場である。これほどすごい機能が付けば、「AI搭載」の名に恥じない画期的な製品と言えよう(※フィクションです)。

囲碁・将棋AIや自動運転プログラムの「目的関数」

 さて、こういう新製品をどうやって開発したらいいのだろう? 私たち人間は、AIもしくはロボットに何かしらの「目標」を与え、それを達成するような動作を期待する。こういう目標のことを経済学や工学では「目的関数」と呼び、「最適化問題」という数学的な問題設定に落とし込む。たとえば、上記の「炊飯器」ならば、ユーザーからの「おいしい」という評価を高めることが、明確な目的関数になるだろう。

目的関数 = 「やるべきこと」に応じたボーナス点 → 「これを最大化せよ」と命令

 あるいは近年めざましい活躍をみせた囲碁や将棋をプレイするAIは、「ゲームに勝てる確率」を目的関数として、先を読みながら「次の一手」を探し出すように設計されている。その開発過程(数理モデルを構築し、関数形を調整し、シミュレーションとデータ分析を活用する)は、経済学的な実証研究のプロセスにかなり近い。

注:筆者当人によるトロントでの研究発表「構造推定としての人工知能」(原題は「Artificial Intelligence as Structural Estimation: Economic Interpretations of Deep Blue, Bonanza, and AlphaGo」)は、こちらの動画で見られる。先を読みながらの(動学的な)最適化についての一般向けの説明は、拙著『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』の第8章を参照されたい。

コメント4件コメント/レビュー

ご連載お疲れ様でした!
毎回とっても面白く目からウロコの連続で、楽しみに拝読していました。今回で最終回なのが残念です。
またのご連載を楽しみにしております。(2018/12/02 22:19)

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「契約理論でAIを「調教」」の著者

伊神 満

伊神 満(いがみ みつる)

米エール大学経済学部准教授

1978年東京生まれ。東京大学卒業後、証券アナリストを経て、UCLAで博士号を取得。専門は産業組織論。近刊『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ご連載お疲れ様でした!
毎回とっても面白く目からウロコの連続で、楽しみに拝読していました。今回で最終回なのが残念です。
またのご連載を楽しみにしております。(2018/12/02 22:19)

30年以上前に、大学でグラフ理論をかじり、TSP(巡回セールスマン問題)について、Pascalでプログラミングして卒論を書いて、現在は、なぜか経済学、最近では行動経済学についていろいろ調べている自分にとって、コラムの内容はすんなり入り込める内容ではあったが、読者の反応は、それほど興味を持たれるには至ってないように思えた。
ひと昔前に、ファジーというAIの前身のような製品が流行したが、今は死語に近く、個人的に当時は、「何それ?」というモノばかりで、最近になって、やっとAIスピーカーなるものが安価で発売されて、やっとここまできたかと思っていたが、それは、あくまでも演算処理の技術的な進歩であって、経済学で考える価格決定や、感情で動く行動のような理論が進歩しているわけではないと思う。
AIについては、まだまだ発展途上であり、単なるセールストークのような扱いでは、本格的な普及はまだ先になるであろうと言わざるをえない状況だと思える。(2018/11/30 17:34)

「いつまでもAIをブラックボックス扱いしていないで、開発者と開発プロセスに踏み込んでほしい。これはまた、ニュースの「書き手」や編集者にぜひお願いしたいことでもある。」
たいへん共感します。とりあえず,効率重視でAIをブラックボックスとして扱っているのは開発を急ぐ意味があるのだと思います。しかし人間社会になじませるためには開発プロセスなどに踏み込んでいく必要があると思います。だから,常に2つのスタンスで対象(AI)を見つめながら,その置かれている状況を踏まえて柔軟な立ち位置から表現する「二刀流」での取材・上梓をお願いしたい。
 今回のシリーズは大変勉強になりました。(2018/11/29 14:51)

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