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消えた「ハンコ代」で兄と3人の妹が対立

「父のとき」と「母のとき」が同じとは限らない

2018年5月10日(木)

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 相続を機に発生する相続人間の争いごと、いわゆる「争族」ですが、もめごとの多くは突然、始まるわけではありません。実は何年も前に伏線があり、それが親からの相続を契機に表面化するのです。今回はそんなケースです。

もめごとの多くは何年も前に伏線がある
  • ●登場人物(年齢は相続発生時、被相続人とは亡くなった人)
    • 被相続人 母(88歳、埼玉県在住)
    • 相続人 長男(62歳、投資家)、長女(61歳、専業主婦)、次女(59歳、専業主婦)、三女(55歳、専業主婦)
  • ●財産 アパート、株、自宅、現金500万円

 埼玉に父、母と長男夫婦が二世帯住宅に暮らす一家がありました。父は元公務員。それなりに出世したため、退職後も一般企業に勤めました。

 父は長く安定収入があったこともあり、間取りがすべて1ルーム、10室を備えたアパートを同県内に1棟保有していました。また大手都市銀行や大手メーカーの株式を数万株持っていました。父は十数年前に遺言を残さないまま他界しましたが、相続にあたって特にトラブルはありませんでした。

 もめなかった理由は、それなりの「ハンコ代」が支払われたためです。

 何ももらえない妹たち3人は代償分割として、母と長男から1人あたり合計1000万円弱をハンコ代相当としてもらうことになったのです。

 代償分割とは、相続人の一人が財産を取得する代わりに、他の相続人に金銭を支払う遺産分割方法のことを言います。この金銭を受領する代わりに遺産分割協議書にハンコを押すので、この金額をハンコ代と言うこともあります。

 今回のケースでは、母と4人の子供による遺産分割協議の結果、母と長男が財産のほぼすべてを取得。一方、長男を除く3人の子供はハンコ代として、1人あたり計1000万円弱のお金を母と長男から受け取ったのです。

 ハンコ代は相続財産全体の評価額や相続人の人数に左右されると思われがちですが、そうとは限りません。「その場で数万円」ということもあれば、大きな金額になることもあります。このケースではアパートや株は基本的に母と長男が取得する代わりにハンコ代を渡したのですが、残りの3人はそれなりに納得して印鑑を押しました。

 それから十数年が経過し、長男とほかの3人との関係は以前ほどよいものでなくなりました。

 理由は長男が二世帯住宅で同居する母をことあるごとに怒鳴るようになったことです。そればかりか、来客があると、足腰の弱った母にお茶を出すように命じたり、記憶力が低下した母に辛らつな言葉も投げかけました。ほかの3人の子供は心配しますが、母は同居する長男を悪く言いませんでした。

 母が亡くなったのはそんなときでした。

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「消えた「ハンコ代」で兄と3人の妹が対立」の著者

江幡 吉昭

江幡 吉昭(えばた・よしあき)

相続終活専門士協会代表理事

相続・終活の専門家。住友生命保険を経て、英スタンダードチャータード銀行で最年少シニアマネージャーとして活躍。2009年、富裕層の資産運用・税務・財務管理を行う「アレース・ファミリーオフィス」を設立

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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小田嶋 隆 コラムニスト