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キーパーソン

AIによりクラフトマンシップは価値を失う 人に求められるのは文脈作り

ライゾマティクス取締役 真鍋大度氏

2016.03.02杉本 昭彦、中村 勇介=日経デジタルマーケティング

ライゾマティクス取締役の真鍋大度氏は、Perfumeのコンサートの演出サポートなども手掛けるメディアアート分野で注目の人物。人工知能の活用にも取り組む同氏に、その可能性などを聞いた。

真鍋 大度 | Daito MANABE
ライゾマティクス取締役。2006年にライゾマティクスを設立、15年よりR&D的要素の強いプロジェクトを手掛けるライゾマティクスリサーチを石橋素氏と共同主宰。プログラミングとインタラクションデザインを駆使して、様々な分野のアーティストと共同プロジェクトを手掛ける
Photo by Shinji YAMADA

ライゾマティクスではどんな事業を手掛けているのか。

 メディアテクノロジーを利用したアート、新たなデジタル技術を活用した広告やエンターテインメント、企業の研究開発における、プロトタイプの開発の支援といった分野で活動している。

 アートだけは若干毛色が異なるが、ある種、新しい技術のR&D的な扱いとして位置づけている。新しい技術を使って、美術的な表現を作ることにこだわっている。

 メディアアートで培ったノウハウを広告やエンターテインメントなどに応用していくことで、新しい広告表現の実現や、消費者に新しい体験を提供していくことを目指している。

人工知能(AI)によるDJなどにも取り組んでいる。AIの可能性についてはどう見ているのか。

 我々がこれまでアートのフィールドでやっていたような実験的な取り組みが、ビジネス領域でも実施されるようになり始めているように思う。

 例えば、三越伊勢丹ホールディングスは伊勢丹新宿本店で、カラフル・ボード(東京都渋谷区)が開発したファッション特化型のAI「SENSY」を活用した接客の実験をした。店員がAIの助けを得て、より来店者の好みに合わせて最適な商品を提案する。当社もSENSYのUIに携わっている。

 このような取り組みに成功の確証はない。まだ不備が残る可能性があるサービスでも世に出して、大勢を巻き込み実験をする。新しい仕組みを開発しても、実際に人が利用してデータを取得しなければ評価もできない。そうした実験が増えていることは、とても興味深い状況だと思う。

AIの選曲で全員がダンスフロアへ

データによる評価が重要というが、例えば、自身で取り組んだAIを利用したDJの成否はどのようなデータで評価するのだろうか。

 まず、AIによるDJには私の過去のプレイリストのデータと来場者のプレイリストのデータを使う。これらのデータを使い、AIが自動的に選曲する。本DJイベントの共同主催者は、世界中のプレイリストを集めて、Aという曲の次には、Bという曲が高い確率で流れるといったグローバルなデータを使ったAIによるDJに取り組んだ。

 いずれも評価は簡単で、ゴールは来店客が全員ダンスフロアに降りてきている状態を作りだすこと。iPhoneの加速度センサーと3Dスキャナーを組み合わせることで、来場者の総数といる場所は把握できている。バーカウンターにいる人のプレイリストもデータとして取り込んでいるので、彼らをダンスフロアに集めるには、好みの曲をかければいい。

 だが、まだまだ人間がやった方が盛り上がり、観客も集められる。ただ、それでも何度も続けていくことで、データが集まるので学習にかけたら面白い結果が得られるかもしれない。

現時点では、DJは人間の方が向いているという結果が出ているが、今後、AIと人間はどのような関係を築いていくと考えているのか。

 人間とAIは協業していくことになると思う。例えば、DJで考えた場合、ドラムのパターンやコード、ベースラインが合う曲を見つけるといったことは、機械なら一瞬でできる。その中から、バーカウンターにいる人のプレイリストに入ってる曲の候補を絞り込むところまでは、AIの得意領域だ。

 だが、今の観客の雰囲気や盛り上がりも鑑みて、本当に流す1曲を絞り込む最後の作業については、やはり人間にしかできないだろう。そういった、文脈やコンセプトを作ることが人間には求められると考えている。

 写真であれば、構図の正しさやカラーバランスの良さは数値化できるが、それが人の心を動かす写真かを判断することは機械には向いていない。例えば約20人のポートレート写真を200枚ほど撮影して、様々な人に写真を選んでもらうと好かれる写真はおおよそ似通ってくる。

 しかし、それを機械にやらせようとすると非常に難しい。文脈やコンセプトに合わせて撮影する対象物や、撮影した写真を選んでいくことが人の価値になっていくだろう。

 一方、職人的な作業、クラフトマンシップ的なものは価値を失っていくとみている。写真なら、それを機械が撮ったのか、人間が撮ったのかはあまり重要ではなくなっていく。また、楽器の演奏ではしばしば、人間離れした複雑な演奏、といった表現をされるが、それはむしろ機械の得意領域だ。そういった職人的な作業よりもコンセプトを作ることを人間は求められるようになる。

 ただ、私自身はAIへの関心は薄れつつある。

論文から実用化へのスピード競争

それはなぜか?

 AIも実装段階に入っているからだ。AIは想像以上に早期に広告案件など仕事として成立するようになった。例えば、企業が持つデータを解析してグラフィックにしたいといった要望は数多く寄せられている。

 これまでは新しい技術が仕事になるまでに、5年程度を費やすことが多かった。それまで、メディアアートとしての作品を制作し続けて、ようやくエンターテインメントなどにも使えるというスピード感だ。ところが、AIや機械学習はその期間が短すぎる。

 AIの新しい論文が発表されると、その論文をどれだけ早く解釈して、実用化に結びつけるかは早い者に勝ちになっている。さらに実用化されたものを基に、今度はどれだけ応用できるかといった競争が起きる。論文、解釈、応用、この3つがものすごいスピードになっている。

 我々もその論文などを基に作品は作っているものの、あまりにも周囲のスピードが速い。AIは今後、人類全体に関わる大きなテーマなので非常に面白いとは思うものの、この波に乗り続けていくのは困難だと判断した。そこで戦うなら、土俵を降りて、違う取り組みをすべきではないかと考え始めた。

 最近は、FinTechの分野、複数のドローンの自動制御などに力を入れている。ドローンを使って、ダンサーを撮影しようとした時に、ダンサーの動きや照明が当たる角度、影の付き方などから判断して、自動的に最適な構図から撮影するといった仕組みを作りたいと考えている。

■修正履歴
リード文中で、Perfumeのコンサートに対する役割の説明で不正確な表現があったため、修正しました。[2016/04/06 10:30]