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「遊牧民戦略でいく」 出版不況を快進撃、天狼院書店の秘密

天狼院書店代表・三浦崇典氏に聞く(後編) 「写真も動画もイベントもすべて『本』なんです」

聞き手:カンパネラ編集部 / 文:西本 美沙 / 写真:菊池くらげ 06.02.2017

出版不況の中で快進撃を続ける本屋がある。東京・池袋の本屋「天狼院書店」がそれだ。2013年にオープンした同書店は4年目にして全国4店舗に拡大、年内には新業態で数店舗をオープンする予定という。代表の三浦崇典氏に経営の要諦を聞いた。(後編)

前編からの続き)

──コミケの勢いを見ると、決してマーケットは衰えていないとのお話しでした。天狼院書店のコンセプトは「READING LIFEの提供」です。単に本を売るだけではない、ということですね。どういう書店を目指しているのでしょうか?

三浦:「READING LIFEの提供」というコンセプトは最初から決めていました。本だけじゃなく、その先にある体験も提供したいと思っていたのです。例えば、カメラを学ぼうと書店に行くと、カメラに関する本が多数並べられていますね。でも、どの本がいいのかはよくわからない。それに、本当に欲しいのは本じゃなくて、カメラの「スキル」です。そうなると、実際に技術を教えてくれないと習得できない。本は手段として必要ですが、本だけで学ばなければならないわけではない。だったら学ぶ場所と、教えてくれる先生が欲しい。そこまで提供するのが天狼院書店なのです。

もう1つのテーマに掲げているのは、「iPS細胞のように自在に進化する書店」です。たいていの場合はお客さんがすべて正しいので、お客さんの要望に応じて書店も変化させます。

「これを売らなきゃならないから、これを置く」ではなく、お客さんは何が欲しいのかを直接吸い上げて必要な分だけを売りに出す。若干、提供は遅れますが、その方が正確です。天狼院書店は、「3人のお客さんが欲しいと言った本は背後に大きな市場がある」と考えていて、必ずサービスとして提供します。

──「体験」ということでは、天狼院ではオリジナルイベントも定期的に開催されています。反響はどうですか?

三浦:最初に開いたのは、参加者が熱狂的に好きな本を紹介する「ファナティック読書会」でした。参加費1000円とドリンク代を支払っていただいて開いた読書会ですが、当初は売り上げよりも人件費の方がかかっていました。イベント事業が反転したのは、「ゼミ」をはじめてからですね。

講師を呼んで小説家養成ゼミや、ライティングゼミ、法学ゼミなどを実施しました。小説家養成ゼミは好評で、今も続いています。ゼミ以外にも、劇団天狼院を作って演劇公演をしたり、映画部を組織して実際に映画も作ったりしました。

とりあえず失敗しないと次の成長はありません。やってみないとわからない。だから、いろいろやってみています。失敗して風呂でひとしきり泣いて、また、新しい案を練るのが前提です。奇麗事ばかり口にして、「そんなの無理だよ」と言う人もいますが、「やってみないとわからない」というのがマーケティングですから。

砂漠でも生き残る「遊牧民戦略」でいく

──そういえば東京天狼院の場所ってすごくわかりにくいですよね。駅の周辺には大型書店もあり、いい立地とは言えませんね。ここに何かこだわりがあるのでしょうか?

三浦:いや、単にお金がなかっただけです。本当は駅前や、人通りの多い、都心の真ん前に出したいですよ。今の場所は、来る人の40%の人が迷う場所ですからね(笑)。

天狼院書店は「READING LIFEの提供」が目的です。うちにない本は、帰りに大型書店によって買ってもらえばいいんです。ただ、最初から大きい書店を出そうという目論見はあります。それまでに、この店舗を運営して、雑誌の売上が減少しても成り立つ書店モデルを確立します。それさえみつければ、いずれ反転攻勢できますからね。

この最悪な条件の場所で生き延びれば、中央に出たときに勝てるんじゃないかと思うんです。モンゴル帝国の遊牧民のやり方です。砂漠で生き残れるかどうか。キングダムの始皇帝もそうですよね。秦は砂漠です。あそこで生き残れば中原(ちゅうげん)に出たときに肥沃の大地だからいくらでも勝てるわけです。天狼院書店は遊牧民戦略ですよ。

──天狼院が遊牧民だとすると、砂漠で最初に成功した方法は何だったんですか。

三浦:初めのころは全部失敗しましたよ。まずは、人通りがないので、インターネット展開に力を入れようとしました。具体的には、ネット上に仮想的なストリートをつくろうと思ったのです。スタッフには本の売り方じゃなくて、ネットの文章を書けるようにライティングを指導しました。あとは「コタツ席」を作ったので、それをメディアに取り上げてもらって仮想の中原をつくろうとしました。

そのように、2013年9月にオープンしてから、本の売り上げがどこまでいけるか試行錯誤の連続で。「本の福袋」も売り上げにかなり貢献しました。でも、本をいくら売っても全然、儲からないんです。普通に本を売ってても駄目だと気づきましたね。じゃあどうすればいいのか。そこで考えたのが、「魂」で本を売ることです。

──魂で本を売る……ですか?

三浦:僕が本当にめちゃくちゃ狂おしいほどに売りたくて、でも一方で誰にも読ませたくない本だけを選んで、タイトルを伏せて「秘本」として売り出しました。

本当に売りたくなかったんですが、お客さんから「欲しい。買うから出してくれ」と言われて、「売るけれど、タイトルは秘密にして誰にも言わないで」と言って販売したんです。

「蔦屋」という蔦谷重三郎について書かれた本も秘本として販売したんですが、そこには僕が未来にやろうと思ってたすべてが書いてあった。だから、経営者としては誰にも読まれたくない。でも書店員としては内容がおもしろ過ぎるのでみんなに読ませたいというジレンマでした。それで、タイトルを隠して売ってみたんですが、逆にかなり売れてしまったんです。

一番人気だった秘本は2000冊売れました。秘本はブランドになり、全国で待ってくれている人もいて、通販でも売れるようになりました。8代目の秘本はコミックなのですが、箱売りで売れています。

──とはいえ書店マーケットはますます小さくなっていますね。

三浦:まずは普通の本の単価を上げるべきだと思っています。出版点数を絞ってもいいので、2000円台にするといいです。簡単にいうと、主婦が買うダイエット本や料理本以外は、お客さんにとって1300円か2200円かなんてあまり関係がない。

例えば、楠木建さんの「ストーリーとしての競争戦略」は、2800円でベストセラーになりました。あれが1400円だったとして、いまの2倍売れたとは限らない。お客さんが本に投資しているのは時間なので、価格が高かろうが本当に欲しいと思えば買います。値段ではなく、時間に投資しているのです。

だったら、出版点数を減らして2000円くらいに上げてもらって、代わりに編集者が2人ついてしっかりとした本をつくる。そうすれば利益率も上がり、マーケティングも集中することができます。

今は本を出すハードルが低い。価格が安くても手がかかっていないものは買わないですよね。書籍を出すハードルをもう少し上げていいと思います。それだけの価値があれば、箱詰めにして2500円台の高級品にしてもいいんです。天狼院秘本も箱にこだわっています。Appleと同じです。箱を開ける体験までを含めて商品にしています。

──年内に新店舗もオープンするとのことですが、天狼院書店の今後の展望は?

三浦:2012年に自分の名前を冠した「三浦書店を立ち上げる」と宣言したときから、全国に10店舗をつくると決めています。いまは東京のほか、京都と福岡でも店舗を構えています。全店舗とも利益は上がっていて、収益体質の書店になっています。

2016年12月には、池袋で「スタジオ天狼院」をオープンしました。写真の撮影や、小説やライティング講座など、創作の場としていろいろと活用しています。今後、オープンを予定している新店舗でも、新しいビジネスを導入する予定です。

7年後くらいには上場も考えています。そのときには海外展開も視野に入れています。そこでは、言葉ではなく、写真や動画がポイントになります。僕の中では写真も動画もすべて「本」なんです。イベントも「本」。天狼院では「本」しか売っていない。

本の再定義をしたいんです。論語の内容を理解するために一番いいのは、孔子から直接、聞くことです。でも、それができないから、仕方なく本の形になった論語を読んでいるわけです。直接、先生から聞けないという意味で、本は劣化版なのです。それが本の前提です。

ただし本は時代を越えることも、海を渡ることもできる。こんな便利なものはないのです。だから「本」は動画だろうが音声だろうが、どんな形だっていいと思います。もちろん、情報量が多いのはやっぱり生(なま)で話を聞くことでしょう。直接会うという形態の「本」です。今は動画も配信できますよね。一番いいのは、本人が語りかける動画。僕にとってはそれも「本」です。

本は紙じゃなきゃだめというわけではない。紙は手段でしかない。紙の書籍しか売っていない書店が狭義の本屋だとしたら、天狼院は広義の本屋です。狭義の書店の運営は極めて難しい。だけど広義の書店は今でも絶対に必要です。僕は「本屋」しかやっていないし、一番根源的な本を売っています。だからお客さんに受け入れられているんだと思います。

三浦崇典(みうら・たかのり)
天狼院書店店主
1977年宮城県生まれ。株式会社東京プライズエージェンシー代表取締役。天狼院書店店主。雑誌「READING LIFE」編集長。劇団天狼院主宰。映画『世界で一番美しい死体~天狼院殺人事件~』監督。ライター・編集者。著者エージェント。2016年4月より大正大学表現学部非常勤講師。 NHK「おはよう日本」、日本テレビ「モーニングバード」、BS11「ウィークリーニュースONZE」、ラジオ文化放送「くにまるジャパン」、J-WAVE、NHKラジオ、日経新聞、日経MJ、朝日新聞、読売新聞、東京新聞、雑誌『BRUTUS』、雑誌『週刊文春』、雑誌『AERA』、雑誌『日経デザイン』、雑誌『致知』、雑誌『商業界』など掲載多数。2016年6月には雑誌『AERA』の「現代の肖像」に登場。
ピルゼンアレイ