フード&テクノロジー

おにぎりと発酵食のグローバル化めざす! パナソニックが拓く家電の新たな地平

パナソニック アプライアンス社「ゲームチェンジャー・カタパルト」が最新技術を活用して“日本の食文化”を輸出(前編)

文:高下 義弘 /人物写真:カンパネラ編集部 03.08.2018

自家製のお味噌をテクノロジーでもっと手軽に

「Ferment 2.0」は、自家製お味噌を作るためのパッケージキットおよび宅配サービスを組み合わせた商品アイデアだ。

Ferment 2.0キットの全体イメージ。右が専用のセンサー搭載発酵容器。左の箱が味噌作り用の食材キット。キャッチコピーは「MISO LIFE」。開発に当たってマルコメの協力を得ている。なお、両社のコラボレーションは会社の経営幹部が決定したわけではなく「現場の社員同士でやりたいと手を挙げて始まったこと」(パナソニック アプライアンス社事業開発センターGame Changer Catapult代表の深田昌則氏)。この点も両社にとって新しい経験なのだという。こちらもSXSWでデザインモックアップなどを展示する計画(提供:パナソニック)

売りとなる要素は2つある。1つは、味噌づくりキットの宅配サービス。利用者のもとに、味噌作り用のオーガニック食材を届けるという。

もう1つの売りは発酵容器。温度・湿度センサーを搭載し、取得したデータをベースに、味噌の熟成状況をスマートフォンのアプリで確認できるようにする。

(提供:パナソニック)

自家製味噌を作るときに難しいのは、保存環境の調整である。そこでFerment 2.0では湿度や温度、味噌の発酵度合いをセンサーとアプリで「見える化」する。味噌の品質に影響が及ぶような環境変化が起きた場合には警告を発する。これにより、ユーザーが自家製味噌をうまく作れるよう支援する。

名称に「2.0」とついているからには、「1.0」もある。1.0では広く他の発酵食も想定していたが、各所でアイデアを見せているうちに味噌大手であるマルコメ社員の協力が得られることになり、2.0では「味噌づくりに特化した家電およびサービス商品」として開発を進めることにした。

日本の食文化を家電の力で海外に発信

「海外では、日本の食文化は日本人の想像以上に話題になっているし、受けている」。パナソニック アプライアンス社の社内インキュベーション(孵化)組織「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)」のリーダーを務める、深田昌則氏(事業開発センターGame Changer Catapult代表)。

「OniRobotとFerment 2.0を通じて、日本の食文化を海外にもっと発信し、食にまつわる企業や関係者総出で進出する手がかりにできれば」と深田氏。いずれの製品も、Game Changer Catapultと現場の開発メンバーとの協業による“作品”だ。

パナソニック アプライアンス社の社内インキュベーション組織「Game Changer Catapult(ゲームチェンジャー・カタパルト)」のリーダーを務める深田昌則氏(事業開発センターGame Changer Catapult代表)

海外における「おにぎりブーム」の背景にあるのは、健康志向の流れである。日本国内の米消費は長く減少傾向にあるが、海外ではグルテンフリーへの関心もあって、米の消費は拡大基調にある。特に米国ではニューヨークやサンフランシスコに複数店舗を構えるおにぎりのチェーン店まで登場しているという。

「おにぎりなら箸を使わなくても食べられるので、欧米の食文化に入り込みやすい。具材を変えれば飽きずに日々楽しめる。海外で特に受けているのは、健康志向の人に向けた、1個3ドル程度からの“グルメおにぎり”のようだ」(深田氏)。

筆者が発見した米国のおにぎりチェーンの例。この店はおにぎりを1個当たり3ドル前後で販売する、いわば「グルメおにぎり」の店だ

「クールジャパン」の影響も見逃せない。海外で放映された日本のアニメでおにぎりを食べているシーンを見て、「あれは一体何だ」と関心を持つ人も少なくないという。

OniRobotの開発チームが目指しているのは、OniRobotを通じて世界の米需要を喚起し、おにぎり関連食材の海外輸出を促すこと。深田氏は「おにぎりは複合的な料理。具材を含めて考えると市場の裾野は非常に広い。おにぎり文化が海外にも広がれば、お米はもちろん、海苔をはじめ国内産の具材が海外にどんどん輸出されるという時代がやってくるかもしれない」と語る。実際、深田氏らは国内の米の産地などを回り、OniRobotを通じた協業の可能性を探っているという。

また発酵食も北米を中心に関心を持つ人が増えているという。日本では以前、発酵食の愛好家を指す「発酵女子」という言葉がブームになったが、いわば海外版のそれだ。実際、海外では発酵食のコミュニティーがあり、オフラインミーティングのような場で、自家製の発酵食を紹介し合うようなことがあるという。そこで開発チームは安全かつ手軽に発酵食が作れるようにと、デジタル技術で支援するアイデアに行き着いた。「北米では麹(こうじ)もひそかなブームになっている。Fermentシリーズを通じて日本の発酵食文化の普及を促せると考えている」(深田氏)。

調理を支援するメカ、利便性を高めるIT。さらには食材と生産者ネットワークを組み合わせる。これにより、日本の食文化がさらに海外に広がりそうだ。

「これからの時代、家電は単体の製品というよりは、コンテンツなども含めた『プラットフォーム』のことを指すようにもなる」と深田氏は語る。Game Changer Catapultが手がけるプロジェクトを見るに、確かに新しい家電は単に特定の家事を手助けするレベルにとどまらない。消費者に新しい生活体験を提供するものであり、様々な企業同士の連携を強化するものであり、さらには文化の輸出を促すドライバー(駆動力)ともなりうる。こうなると、家電は家電の枠を超えた「新しい何か」になるかもしれない。

【前編はここまで。後編ではGame Changer Catapultの活動内容から、お酒と食事をさらに美味しくする未来の家電をどうやって作っていくのか、組織やプロジェクトの在り方を探ります

高下義弘(たかした・よしひろ)
戦略ライター/編集者
1974年生まれ。1998年に日経BP社に編集記者として入社。「日経コンピュータ」「ITpro」で経営改革と情報システム、プロジェクトマネジメント、ヒューマンマネジメント分野を追う。2010年からフリーランス。経営と技術、個人と組織、科学と芸術など、異分野が重なり合う領域を探索することに関心を寄せる。
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