フード&テクノロジー

「農のデータ」と「農業ロボット」がつくる未来の農業

小泉進次郎氏ら有識者が徹底議論。合い言葉はオープンイノベーション

文/写真(特記なき写真):高下 義弘 06.20.2017

新技術を生かして農業の生産性を向上させる「アグリテック」。その注目の的は、データとロボットの利用だ。国、企業、農家それぞれが得意分野を持ち寄るオープンイノベーションを組み合わせて相乗効果を狙う。2017年5月に開催されたアグリテック分野のシンポジウムでは、未来の農業の姿がかいま見られた。

「新技術とオープンイノベーションにより、農業の生産性が底上げされる。そのメリットとインパクトは大きい」。慶應義塾大学環境情報学部准教授の神成(しんじょう)淳司氏は、2017年5月23〜25日に開催された農業と新技術の総合会議「AG/SUM(アグサム:アグリテック・サミット)」でこう指摘する。

農業と新技術の総合会議「AG/SUM(アグサム:アグリテック・サミット)」で2017年5月24日に行われたセッション「次世代がつくる新しい農業のかたち」の様子
農業と新技術の総合会議「AG/SUM(アグサム:アグリテック・サミット)」で2017年5月24日に行われたセッション「次世代がつくる新しい農業のかたち」の様子。左から小泉進次郎衆議院議員・自民党農林部会長、慶應義塾大学環境情報学部准教授・神成(しんじょう)淳司氏、エムスクエア・ラボの加藤百合子社長、全国農業青年クラブ連絡協議会の会津浩樹会長、日本総合研究所の三輪泰史創発戦略センターシニアスペシャリスト

日本の農業は今、技術の継承が難しい状況に直面している。熟練農家の高齢化が進んでいる上に、新規就農者が減少しているからだ。2017年5月24日のセッション「次世代がつくる新しい農業のかたち」に登壇した神成准教授は、「テクノロジーの力を農業にうまく適用すれば、農業のノウハウを継承できるだけでなく、さらなる高度化も可能」と語る。

神成准教授が一つの有力な手段として挙げたのが、「農業データ連携基盤(情報連携プラットフォーム)」だ。例えば農地に設置したセンサーから得られたデータ、収穫機の走行データ、気候のデータ、過去の収穫データなど、農家や企業、政府機関などが持つ様々な種類のデータを共有・活用するためのシステムを指す。

農業データ連携基盤(情報連携プラットフォーム)の概念図(資料から一部抜粋、出所:内閣官房)
農業データ連携基盤(情報連携プラットフォーム)の概念図(資料から一部抜粋、出所:内閣官房)

農業データ連携基盤は、2017年3月、政府による未来投資会議(議長・安倍晋三首相)で安倍首相が「官民で気象や地図などのデータを出し合い、情報連携プラットフォームを本年中に立ち上げる」との発言を受けての取り組みである。神成准教授は内閣官房副政府CIO(最高情報責任者)、情報通信技術総合戦略室長代理など政府関連の職も務める。

具体的な構想内容としては、熟練農家をはじめとした農業の経験やノウハウをデータ化するのと同時に、農地に設置したセンサーなどで取得した農地や栽培・育成状況のデータなどを投入。さらには公的機関が持つ気象データ、地図データ、土壌データ、市況などの統計データを蓄積させ、総合的に分析・利用できるようにする。

この基盤は、各者がデータやノウハウを持ち寄り、改善の方策を探る「オープンイノベーション」の形態を採る。農家は必要なデータを取得することを通じて、より的確な判断が可能できる。一方の企業側は、データを通じてより効果的なサービスの開発が期待される。

プラットフォームを設置し、その整備と発展にオープンイノベーションを採用することにより、「農業の生産性を底上げするのはもちろん、新しいイノベーションを促していく」(神成准教授)のが狙いだ。2017年中に立ち上げ、データの追加などを継続しながら2年後には本格的なサービスとして利用できるようにする。

データの利用イメージとして、両手が自由に使えるシースルー型ゴーグルを装着した農作業が挙げられる。作物の生育状況や気候などのデータをゴーグルに映し出し、必要に応じて音声入力で機器に命令しながら作業を進めることができる。

汎用ロボットで農作業を効率化

農業向け最新技術の例として、セッションでは農業用ロボットの開発プロジェクトも紹介された。日本総合研究所が農家と取り組んでいるロボット「DONKEY」である。特徴は、汎用ロボットの本体にアタッチメントを付ける形態を取り入れたこと。アタッチメントを交換することで、定植や収穫、農薬散布など複数の作業に1台で対応できるという。

日本総合研究所が開発中の農業ロボット「DONKEY」のイメージ図(提供:日本総合研究所)
日本総合研究所が開発中の農業ロボット「DONKEY」のイメージ図(提供:日本総合研究所)

こちらも先の情報連携プラットフォームと同様、アタッチメントの開発にオープンイノベーションの方法を採用する。DONKEYのベースは日本総研が開発し、アタッチメントは「オープンイノベーションの形式で、みんなで作る」(三輪泰史創発戦略センターシニアスペシャリスト)。農家や企業などと組んで作物や作業内容ごとに適したアタッチメントを開発し、「日本の農業界がロボットを使ってより高い生産性が実現できるようにしていく」。今夏には基本機能を備えたプロトタイプを一部の顧客向けにリリースするという。まずは栃木や静岡の農家と共同で機能を検証。ナスなど特定の作物について収穫ができるレベルにまで仕上げることを目標とする。

三輪氏は「日本の農業を『もうかる農業』にしたい。一つの目標としては、農業従事者が1人当たり1000万円稼げるようにすること。新技術やイノベーションを通じてそれが実現できれば、日本は変わるのではないか」と語る。