本田直之の「賛否両論=オリジナリティ」

フランス料理じゃない。関根の料理を出す、パリで。

第6回「Dersou」・関根拓氏(後編)

文:本田 直之 / 編集協力:上阪 徹 / 写真:諸石 信 (特記なき写真) 06.29.2017

厨房での写真は、本田直之氏が企画したイベント「DREAM DUSK Vol.2」(5月28日、福岡市のThe Luigans Spa & Resortで開催)のときのもの

フランスで今、最も信頼されているとレストランガイド「フーディング」が年に1店だけ選ぶベストレストラン。2015年選ばれたのが、2014年にオープンしたパリの「Dersou(デルス)」でした。

毎年春、世界中から国もジャンルもスタイルも問われず、120人ものトップシェフやパティシエが集い、パリで3日間、開催される国際的な料理イベント「オムニヴォール」。こちらにも招かれ、2015年のオムニヴォールが選ぶベストオープニング賞も獲得しました。

米ニューヨーク・タイムズ紙をはじめ、世界中のメディアも高く評価。世界中の食通たちが続々と店を訪れています。その「Dersou」のオーナーシェフが、関根拓さんです。

「アラン・デュカス」や「エレン・ダローズ」、「サチュルヌ」、「クラウン・バー」など名店で腕を磨いてきましたが、「Dersou」が提供しているのは、フレンチやアジアンといったジャンルの垣根を取り払ったオリジナリティ溢れた料理の数々。

関根さんは36歳、早稲田大学政治経済学部卒という異色の経歴を持った料理人です。大学卒業後、紆余曲折を経て調理師学校に通い、語学力も手伝ってフランス料理界の巨匠アラン・デュカスが日本で初めて出店した「ベージュ アラン・デュカス東京」のオープニングスタッフに。一番下のポジションから3年半、ほとんど寝ない努力の日々を過ごした関根さんに、大きなチャンスがやってきます。

(写真提供:関根拓氏)

三つ星だから最高なのか、完璧なのか

パリのミシュラン三つ星レストラン「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」。アラン・デュカスのパリの本店が日本で行うイベントで、後に日本人2人目の二つ星を取る当時の2番手シェフ、小林圭さんが、関根さんに誘いの声をかけてくれたのです。

「パリの店でポジションが1個あるけど、来るか、と。また一番下だったんですけどね(笑)。小林シェフがまだ東京にいらっしゃるうちに面接してもらおう、と」

またしても合格した関根さんは、期間限定のワーキングホリデーを取得してパリに渡ります。待っていたのは衝撃でした。

「驚きましたね。こいつは天才だと思う料理人を、このとき初めて目の当たりにしました。集まった料理人みんながすごいんですよ。僕も裏で必死で働きました。それこそこのチームにしっかりついていけないと、本番の“試合”にちゃんと出られないぞ、と気づいたからです」

この店では1年働きましたが、三つ星の重圧は大変なものだったそうです。料理は素晴らしいものでしたが、厨房では怒号が飛び交っていました。仕事は本当に厳しかった。関根さんは激やせしてしまったそうです。まわりのスタッフも長くは続かない人がほとんどでした。

最後のほうでは大事なポジションを任せられることになりますが、関根さんが改めて気づいたことがありました。

ひとつは、自分が作りたい料理の方向性です。

複雑なアイデンティティが求められる三つ星レストランの料理のようなものではなく、もっとフレッシュな食材、いい食材をあまり手を掛けずに調理すること。

そしてもうひとつが、自分の料理への思いの強さでした。

(写真提供:関根拓氏)

「料理の才能やテクニックでは、とても周囲の料理人たちにかなわないと思いましたが、料理へのパッションは僕にだってしっかりある、ということに気づけたんですね。とにかく、おいしい料理を作りたい、という思い。三つ星と言われる店で、自分は意外にパッションでは負けていないぞ、と」

三つ星であるためには、料理はこうあるべきだ、という確固たる考え方がありました。それは、自由でいたいという関根さん自身の方向性とは違っていました。

ただしこの違いは、アラン・デュカスという世界トップのレストランで働くことができたからこそ、見えてきたことでした。約5年、アラン・デュカスで過ごし、三つ星クラスの料理も作ることができるようになった一方、自由に考え、自由に調理することもできるようになったのです。

「三つ星だから最高なのか、完璧なのか、といえば、必ずしもそんなことはないんじゃないか、と。人生を、たった一本の階段のように見るべきではないのではないか。料理の価値観はいろいろあるからです。実際、フレンチのメニューを考えながら、ラーメンを食べたいと思っている自分がいたりする。粉モノが食べたくてしょうがなかったりするときもある。アワビにしても、もちろんアラン・デュカスのアワビ料理もおいしいけど、調理師学校時代にアルバイトでお手伝いした和食のアワビのほうがおいしかったと感じる自分もいる」

三つ星だからといって、世界一のやり方とは限らない。自分にとっていいと思うやり方を自分で選べばいい。そのやり方を、日本料理と呼ぼうが、フランス料理と呼ぼうが、そんなことはどうでもいいことなのではないか、と。

ピルゼンアレイ