本田直之の「賛否両論=オリジナリティ」

フランス料理じゃない。関根の料理を出す、パリで。

第6回「Dersou」・関根拓氏(後編)

文:本田 直之 / 編集協力:上阪 徹 / 写真:諸石 信 (特記なき写真) 06.29.2017

厨房での写真は、本田直之氏が企画したイベント「DREAM DUSK Vol.2」(5月28日、福岡市のThe Luigans Spa & Resortで開催)のときのもの

常に感動が真ん中になきゃいけない

関根さんは、自分のレストランを作るまでに時間がかかることがわかっていました。そこで、知り合いにメールを入れて働ける場所を探しました。好きなようにやっていい、と言ってくれたのが、パリ2区の気鋭のネオ・ビストロ「サチュルヌ」のオーナーでした。このオーナーが後にパリ11区に「クラウン・バー」を出し、その準備も手伝うことになります。そして4カ月後、自らの店「Dersou」がオープンします。2014年のことです。

「一言でいえば、うまいもの屋を作りたかった。僕は世界中でいろんな料理を体験してきました。パリの高級フランス料理ガストロノミーも日本の鮨屋もピザのレストランも日本のフランス料理も。もちろん食べ手としてもさまざまな料理を味わっていました。その上で、料理人としての自分のキャリアを考えていたとき、どこかで料理人ベースのエゴのようなものが走りかけていたと思うんです」

「ベージュ アラン・デュカス東京」を振り出しに、関根さんの料理人としてのポジションはどんどん上がっていきました。それまでの5年ほどのキャリアは、普通の料理人ではありえないような急カーブの勢いで、トップへの階段を上がっていました。

「その階段を上がり続けることもできたかもしれませんが、改めて思ったのは、やっぱり常に感動が真ん中になきゃいけない、ということです。料理のカテゴリーとか外からの評価なんて、実はどうでもいいことなんです」

そんな関根さんが始めた「Dersou」のひとつの大きな特徴は、カクテルとのペアリングです。料理ごとに、パートナーとなったバーマン、パリナンバーワンのバーテンダーになったこともあるアモリ・ギヨーさんがカクテルをつくり、出してくれるのです。

関根さんは、とあるところでギヨーさんと出会い、一緒に組んでやりたい、という発想が生まれました。

パリの流行のネオビストロでは、料理にはナチュラルワインを合わせるのが主流です。

「ただ、ワインの場合、すでにあるものから料理に合う酒を選んでいきますよね。カクテルだと、料理に合うものを一から作っていくことができるんです」

(写真提供:関根拓氏)

料理にカクテルをペアで出す。パリのレストランでは、誰もやっていなかった取り組みでした。始めるまでは誰もが大丈夫だろうかと思ったことでしょう。前編の冒頭でも触れましたが、僕自身、このアイデアを関根さんから聞いたとき「大丈夫ですか?」と尋ね返してしまったくらいです。

しかし、いったん実行して、突き抜けてしまうと、評価に変わります。「Dersou」のお客さんの多くはフランス国外からやってきますが、一方で高齢のパリジャンご夫妻も少なくないそうです。そんなベテランのパリジャンが、関根さんのペアリングを経験してこう言ったそうです。「カクテルというのは、なんとも新鮮だ」と。

話題の店になっても、関根さんのスタイルはまるで変わりません。

「何も狙っていないですよ。あ、狙ってるな(笑)。常にうまいものを作ることを狙っています」

PR会社に払うお金があるのなら、もっとおいしい鴨を買いたい

2017年5月28日、福岡のホテル「ルイガンズ」で、僕の企画した料理のイベント「DREAM DUSK Vol.2」が開催されました。日本のみならず海外でも話題の絶えないレストランの名シェフ5人を招いて、特別なコースに仕立てる。あっという間にチケットは売り切れましたが、そのシェフの一人として今回、僕がお誘いしたのが関根さんでした。

関根さんはオムニヴォールにも選ばれ、世界の料理界でも影響力が大きい存在ですが、今も積極的に国内外の料理のコラボレーション企画に参加しています。新しいチャレンジを面白がり、楽しんでいる。これだけ有名になっても、旧知の僕のイベントにも来てくれる。とにかく面白いことがあったら、やりたい、と。

せっかくパリから来ていただくので、関根さんが出したい料理を選んでもらおうと思いました。ところが関根さんの答えは「何でもいいです」。順番も「余ったパートでいい」と言います。どんな状況にも対応できる自信。こんなところにも彼の凄みを感じます。

インタビューの最後に、PRをめぐって印象的な話をしてくれました。

「PRはすべて自分でやっています。PR会社に払うお金があるのなら、もっとおいしい鴨を買いたいですね(笑)。ジャーナリストを招待したことも一度もないです」

おいしいものを提供したい。これがすべての原点。このゴールが明確でぶれないからこそ、そのために何をしなければいけないのかも明確に決まる。だからこそ努力もできるのです。先の見えない努力ほどつらいものはありません。でも、関根さんはすべて先を見据え、ゴールの見える努力に転化してきた。しかも世界ナンバーワンの料理のフィールドで。これこそ、関根さんのすごさだと思います。

■関根拓
Dersou(デルス) オーナーシェフ
1980年神奈川県生まれ。早稲田大学政経学部卒業。イタリア料理店でのアルバイト、フランス料理店での修行を経て、「ベージュ アラン・デュカス 東京」にオープン時から勤務。3年半後、パリの「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」へ。2つ星レストラン「エレーヌ・ダローズ」でスーシェフに、「フィッシュ」でシェフに。その後世界一周の旅へ。再びパリに戻り、2014年11月、パリ12区にオーナーシェフとして「Dersou」をオープン。料理ごとにオリジナルカクテルをペアリングするコースメニューが話題に。フランスのレストランガイド「フーディング」で、2015年に「ベストレストラン」に選ばれた。

■Dersou(デルス)
住所:21 rue Saint Nicolas 75012 PARIS
予約のみ

■本田 直之 レバレッジコンサルティング株式会社代表取締役社長。作家。
ハワイ、東京に拠点を構え、日米のベンチャー企業への投資育成事業を行いながら、年の5ヶ月をハワイ、3ヶ月を東京、2ヶ月を日本の地域、2ヶ月をヨーロッパを中心にオセアニア・アジア等の国々を旅し、仕事と遊びの垣根のないライフスタイルを送る。これまで訪れた国は55ヶ国を超える。毎日のように屋台・B級から三ツ星レストランまでの食を極め、著名シェフのコラボディナーなどのプロデュースも手がける。著書にレバレッジシリーズをはじめ、「なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか」「本田直之のハワイグルメコンシェルジュ」等があり、著書累計290万部を突破し、韓国・台湾・香港、中国で翻訳版も発売。

サンダーバード国際経営大学院経営学修士(MBA)
明治大学商学部産業経営学科卒
(社)日本ソムリエ協会認定ワインアドバイサー
アカデミー・デュ・ヴァン講師
明治大学・上智大学非常勤講師