本田直之の「賛否両論=オリジナリティ」

飲食業を知らなかったから焼肉の概念を変えられた。

第8回「よろにく」・桑原Vanne秀幸 氏(前編)

文:本田 直之、編集協力:上阪 徹、写真:大槻 純一(特記なき写真) 07.20.2017

焼肉を好きな人たちの中では、こんな言葉が使われることがあるそうです。

「よろにく以前、よろにく以降」

南青山に2007年にオープンした「よろにく」というお店の登場で東京の焼肉シーンはそれ以降、劇的な変化を遂げます。

「焼肉屋ではなく和牛屋と自分では思っています」と自ら語るのは、代表であり焼き手でもある桑原Vanne秀幸さんです。

僕は、お店にお邪魔してから、定期的に通っているだけでなく、プライベートでもお付き合いをさせてもらっています。一緒に食事に行ったり、飲みに行ったり。

実際、よろにくは、他の焼き肉店とはまったく違います。焼肉が料理として成り立っている。僕はそう感じました。肉の質も違えば、出し方も違う。

初めてよろにくに行ったのは、3年ほど前。

昔は焼肉が好きでしたが、40代ともなれば、がっつり食べられなくなります。そんなこともあって、焼肉からは離れていましたが、この店は他の焼肉店とは違う、という話を以前から聞いていたのでした。

今では日本全国どころか海外の焼肉店でも見かける、あの一口ご飯に肉を巻くスタイルや卵黄に絡めるスタイルは、実はよろにくが発祥なのですが、最大の特徴は、やはりコース仕立てになっていることです。

しかも、その流れのレベルが極めて高い。和牛割烹のような焼き肉店もありますが、それとも違う。初めて体験する焼肉コースでした。季節に応じて、マツタケやトリュフなどを使ったスペシャルコースもあります。肉は、客が焼くのではなく、お店のスタッフの焼き手が目の前で焼いてくれるのも、よろにくの特徴です。

よろにくは、焼肉にして焼肉にあらず。新しい肉料理のカテゴリーを作ってしまった、といえるかもしれません。最近では、似たようなお店も出てきているようですが、ここまでのレベルに達しているところはない。

「食べログ」をはじめ、ネット上のあらゆる焼肉ランキングで常にベスト5入りするなど、一般の評価も極めて高い。

今では予約を取るのも困難なよろにくですが、実はオープン当初は苦戦を強いられていました。それが、どのようにして今の「予約の取れない店」に変貌をするのか。

これまでほとんどメディアでは話さなかった、桑原さんの舞台裏をお届けします。

■連載8 よろにく オーナー 桑原Vanne秀幸氏

2007年開業。コース仕立てで提供するレベルの高い料理は、焼き肉の世界に強いインパクトを与えた。食べログなどのグルメサイトの焼肉ランキングでは常にベスト5入るほど一般の評価も高く、予約の取りにくい焼肉店としても知られている。

料理は作品。コースは映画の構成をイメージしている

よろにくで誰もが驚くのが、そのメニュー構成です。まるで日本料理やフレンチのように、見事な構成で“焼肉料理”が出てくるのです。

(写真提供:よろにく)

「もともと、こういう店がやりたかったんですよね。いろいろな世界の料理も参考にして、自分の中で作ったのが、よろにくの料理なんです。オープン当時はまだ生肉が禁止ではなかったので、生肉から始まって、塩ものに行って、タレものに行って。次に、吸い物という流れで」

焼肉のコースの間に、吸い物があるというのは驚きなのですが、この吸い物が、実にいいアクセントになる。しかも、和の吸い物。

「焼肉店で和の吸い物を出す店は他にないかもしれないですね。でも、ここで一度和の吸い物で舌がリセットされる。すると、余計に次のタレものの焼肉が引き立つんです。フレンチのコースで途中に出てくるプチデザート、グラニテみたいな役割ですね。そのあとは、シャトーブリアンのロールケーキを。さらに、タレをどっぷりつけて、米と一緒にシルクロースという柔らかくて舌の上でとろけるお肉を楽しんでいただきます」

シルクロースとは、サーロインの薄切り肉です。もともとこんな名称はなかったそうなのですが、お客さんが名前をつけてくれたのだとか。ここまででも十分に食べ応えがあるのですが、よろにくのコースは、まだ終わりません。

「柔らかいお肉でゴンゴーンと行った後に、いきなりここでおろしポン酢を出すんです。これで、さっぱりする。くどいくらい味の濃い肉の連続の後にさっぱりした食べ物が出ると、ここでみんなの舌がほっとするんですね」

ここで終わりではありません。

「一回、さっぱりを見せておいて、最後にはザブトンのすき焼きを卵黄に絡めて食べていただきます。ここで味覚のインパクトをピークまで持ってきてようやく終わり。締めはそうめんでクールダウンして、最後はかき氷です。そうめんにしたのは、僕が食後に冷麺を食べるのが好きじゃないからです。食後にまたキムチとかチャーシューとか、重いですよね。デザートのかき氷は、最初から決めていました。僕が好きなので(笑)。実はものすごく研究しました。専門店にも負けないレベルのかき氷です」

コースは、映画の構成をイメージしている、と桑原さんは言います。

「特にハリウッド映画は、これで終わりか、と思ったら、クライマックスがさらに来たりするじゃないですか。2段構え。だから、僕たちも2段構えです。じらせてじらせて、ドカン、と来たと思ったら、さらにもう一段大きな盛り上がりが待っていた、みたいな。その後に幕が下りて、エンディングロールが流れるような感じでかき氷が出てくる。料理のコースは、作品という意識が強いですね。だからストーリーが重要となります。音楽でいえば、Aメロ、Bメロ、サビという展開。劇団四季が毎日公演をやっているようなイメージで営業しています」

インスタグラムでよろにくを検索すると、山のように写真が出てきます。味はもちろん、みんなが思わず写真を撮りたくなってしまう。そんなメニュー構成とビジュアルになっているのです。最近では、海外からの来客も増えているそうです。

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