海外酒場事情

マイナス30度の中の氷の絶景、ハルビンで出合うアツアツの火鍋と白酒

文:中村 正人/写真:佐藤 憲一 01.24.2019

毎年1月初旬から2月下旬にかけて、中国黒龍江省のハルビンで開催される氷雪祭り。この時期、氷点下30度近くにもなる厳寒の地を訪ねると、凍てつく外気で芯まで冷え切った体を温めてくれるのは火鍋だ。今回は、いままさに開催中の氷の祭典と火鍋、それに白酒の話をしよう。

ハルビンの氷雪祭りは、「さっぽろ雪まつり」、「ケベック・ウインター・カーニバル」(カナダ)、「トロムソ国際雪まつり」(ノルウェー)と並び称される冬の世界4大祭典のひとつ。最初に開催されたのは1985年だが、中国の経済成長にともない、年々イベント色が強まり、現在では市内を流れる松花江(ソンホワチアン)の中州の太陽島にある「ハルビン氷雪大世界」がメイン会場となっている。

氷雪大世界のモニュメントは日が暮れる直前のトワイライトの瞬間がいちばん美しい

会期中、氷の都ハルビンでは昼と夜、それぞれ違った冬の風物詩に出合える。早朝、松花江を訪ねると、川は一面厚い氷で覆われていて、夏の間は行楽客でにぎわう遊覧船は閉じ込められていた。寒風が肌を刺す氷上では、ウィンドサーフィンや浮き輪乗りなど、子どもたちが冬のレジャーを楽しんでいる。元気なのは子どもだけではない。氷結した一角を切り開き、プールにして泳いでいる人たちがいた。多くはハルビンのご隠居世代である。

寒中水泳を楽しむ地元の老人たち。重量級のおばさんの飛び込みにビックリ

1万立方メートルもの氷を松花江から切り出す

夜のメインイベントは、ハルビン氷雪大世界の見物だ。少し早めにホテルを車で出たが、道中は大渋滞。ようやくたどり着いた会場ゲートも人ごみでごったがえしていた。

さまざまな巨大氷彫刻が並ぶメイン会場をバックに若者たちが記念撮影に興じている

入り口を抜けると、突如目の前に現れたのは巨大な氷の建造群だった。色とりどりの電飾を埋め込まれた氷のモニュメントが薄暮の空に光彩を放ち、きらめいている。日没直前の空がオレンジと濃いブルーにくっきり分かれて染まる瞬間に見られる幻想的な光景は、まるで夢を見ているかのようである。

氷でつくった世界遺産の北京の天壇は実物大の迫力

氷のモニュメントのうち代表的なのは、現代の摩天楼のような氷雪世紀塔やハルビンらしくタマネギ屋根のロシア風宮殿、北京の天壇など。これらの素材となるのが、松花江で切り出される氷塊だ。松花江は例年11月下旬には氷結するので、12月に入ると、氷塊の切り出しが始まる。地元紙によると、1万立方メートル分の氷を切り出すという。

会場内は1時間ほどあれば歩いて回れる広さで、子どもも楽しめる巨大な氷の滑り台や暖を取れるコーヒーショップ、食堂もある。これならどんなに寒くてもしのげるだろう、と最初は思っていた。旅行前に買い込んだヒートテックの上下2枚重ねで身を包み、ロシア人のような耳あて付き防寒帽をかぶり、ネックウォーマーで顔中を覆っていたからだ。

中国の冬の風物詩、サンザシ(山査子)の水飴も凍りついている

ところが、いったん日が暮れると、急速に冷え込みが襲い、体の芯がこちこちに硬くこわばってくる。このままそんなに長くは外にいられない。体がそう感じる。それまで魅了されていた視覚的な絶景も、ためしに目の前の氷の建造物に手袋のままで触れると、ちくりと指先を刺す痛みがあった。一瞬、夢が現実に引き戻される瞬間だ。