海外酒場事情

ひと晩だけのシベリア鉄道、おしゃれな夜行寝台で楽しむロシアンディナーとお酒

文:中村 正人/写真:佐藤 憲一 11.13.2018

シベリア鉄道は極東ロシアの日本海に面した港町、ウラジオストクから約9300キロ離れたモスクワまで約1週間かけて走る世界最長の大陸横断鉄道だ。近年車両が新しくなり、乗り心地はまず快適だが、1週間シャワーなしで移動するのは相当な覚悟がいる。「人生に一度くらいは」と考える人はいるかもしれないが、通しで乗車する日本人は多くはない。でも、もしひと晩きりの夜行寝台でシベリア鉄道の旅がプチ体験できるとしたら、乗ってみたいと思う人も多いのではないだろうか。なにしろそこには、日本ではもうほぼ絶滅してしまった食堂車が待っているから。

ウラジオストク駅午後9時発の夜行寝台「オケアン号」に乗ると、同じ極東のハバロフスクに朝8時半に着く。オケアン(Океан)はロシア語で「大洋」の意味。両都市間を11時間半で結んでいる。この寝台は毎日運行しているので、ひと晩きりのシベリア鉄道乗車体験を楽しむのにうってつけだ。ハバロフスク発ウラジオストク行きもほぼ同じ時刻に出ているので、逆のコースに乗ってもいい。

夜のウラジオストク駅。薄ぼんやりとライトアップされている

出発30分前にウラジオストクの駅を訪ねると、「オケアン号」に乗り込む乗客たちがホームに並んで乗車を待っていた。若者から家族連れまで、大きなスーツケースを抱えて検札の真っ最中。各車両にいる車掌はほぼ女性で、その多くは一見職務に忠実な堅物そうだが、実はとても世話焼きのおばさんたちで、なかには胸がときめくほどチャーミングな若い女性もいて、驚いてしまう。

カメラを向けると、たしなめるような笑みを浮かべるキュートな彼女は車掌さん
2等コンパートメントは4人用

コンパートメントに荷物を下ろして一服していると、列車は定刻どおり静かに動き出す。それを合図に、すぐにでも食堂車を訪ねてみよう。なぜそんなにせっかちになるかというと、食堂車の営業時間は午後11時までなので、長く開いているわけではないからだ。

「オケアン号」の食堂車は、紫色を基調としたしゃれた雰囲気で、4人掛けのテーブル席と奥にカウンターバーのようなスペースがある。ここでは、ロシアンディナーやアルコールをカジュアルな雰囲気で楽しめる。

食堂車はなかなかにゴージャス
メニューはロシア語のみなのが、ちょっと困りもの
白身魚のソテー850ルーブル(約1450円)とボルシチ300ルーブル、ロシア風サラダ400ルーブル

この日はボルシチと白身魚のソテー、肉入りポテトサラダを注文し、最初はビールで乾杯した。お値段は街場のレストランに比べると若干高い気がするが、まあこれも食堂車という体験付きと思えば気になるほどのことではない。

給仕をしてくれる女性は愛嬌たっぷりの気さくなタイプで、カウンター越しに並ぶ各種ビールやウイスキー、ワイン、ウオッカなどのボトルを指差しして注文すればいい。ビールはアサヒスーパードライや外国産などのライセンス製造ものからロシア産まである。

紺の制服姿で給仕してくれる

食堂車を利用するもうひとつの理由は、ロシアの列車のコンパートメントの中でアルコールを飲むのは基本NGだからだ。ホテルの部屋飲みのように、市場で買ってきたつまみを肴にワインを開けるというようなお楽しみを満喫できないので、食堂車に行くしかないのである。

ピルゼンアレイ