生きるチカラの強い女性へ

処方箋8 がんばりすぎないで。正しい手抜きをしましょう

文:ひきた よしあき / イラスト:神谷 一郎 02.21.2018

仕事一辺倒でキャリアを重ねるのはもう古い? それよりも大切な家族と一緒に豊かな時間を過ごし、人生を謳歌する女性が少しずつ増えている。名スピーチライター・ひきたよしあきさんが、そんなスマートで力強い女性たちに会い、その魅力的な「生き抜くチカラ」を探る。第8回は、仕事に育児に忙しい女性に贈る「がんばりすぎなくてもいい。『正しい手抜き』」についてです。

「本当は、母乳育児に憧れていたんです」

と、呟いた濱田まさこさんが出産したのは、31歳のときだった。

まだ陣痛がきていない。産道が十分にやわらかくなる前に、赤ちゃんを産むことになった。赤ちゃんの鼻で、耳で、産道が傷つけられ、羊水を含めて3リットルの出血。心拍数が著しく下がった。

全身麻酔で縫い合わされたものの、その経過もよくない。母子手帳には「異常分娩」の文字が刻まれた。貧血がひどく、2カ月間、動けなかった。

育児ノイローゼが始まる。

「この子といっしょにいると、何かしちゃうかもしれない」

という危険が迫っていた。

「ゆで汁マイスター 濱田まさこ」誕生の瞬間

まさこさんは、外にでる決意をする。出産後5カ月で仕事に復帰する道を選んだ。

「仕事で疲れて帰って、ブレンダーでご飯を潰して赤ちゃんの食事をつくります。でも、食べてくれないんです。挫折しました。離乳食はレトルトですませるように。家族の食事も買ってきたものですませるようになりました。でも、やっぱりダメ。食べ飽きてしまう。料理を根本から見直そうと思いました」

その後、まさこさんは、どっぷりとマクロビオティック(穀物や野菜などを中心とした食事で健康を実現する考え方)の世界に浸かる。「肉も魚も添加物もすべて、悪!」と自分にいい聞かせる。夫婦ともに7キロも体重を落とすが、行き過ぎた食生活が周囲に敵をつくり、体調も優れない。

「何を食べればいいんだろうと暗中模索の毎日でした。料理本を漁り、ネットで検索をする。そんな中、ごぼうのゆで汁を飲んでみたんです。おいしい。これだ! パッと世界がひらけるようでした」

ゆで汁に味噌と乾燥ワカメ、豆腐を入れて味噌汁をつくったら家族に大好評。

「ゆで汁マイスター 濱田まさこ」

が誕生した瞬間だ。

「ゆで汁で料理を簡単につくる。簡単と言っても手抜きではありません。手数を省くだけの正しい手抜きなんです」

ネット動画を配信、「がんばりすぎなくてもいい」

ゆで汁で料理を作る方法は、たちまち周囲の話題となる。

「教えてほしい」という人のために、まさこさんが選んだ方法はネットによる動画配信だ。

「子どもをかかえた女性って、明け方と深夜と通勤電車の中しか自分の時間がないんです。土日に家族をおいて料理教室にきてもらうなんて、しのびない。簡単、ほったらかし、おいしい、栄養もある。飲むだけでも十分。そんなゆで汁を使った料理を、時間を奪うことなく広めるには、動画だと思いました」

濱田まさこさんは、現在、フェイスブック、メルマガ、LINEブログに精力的に書いている。動画配信に向けたレシピ開発も着々と進めている。

「何度も迷い、いろいろ飛びついて、挫折を繰り返してきた私です。女性が、『手抜き』とうしろめたい気持ちをもつことなく、かといってがんばりすぎなくてもいい。『正しい手抜き』という方法があることを、ゆで汁を通して知ってほしいですね」

「ゆで汁マイスター 濱田まさこ」

彼女の提案する「ゆで汁」料理を、通勤電車の中で、動画で学ぶ。それが日常になるのもそう遠くはない。それを確信させるほどに、まさこさんは口調に淀みはなく、笑顔に自信があふれていた。

ひきた よしあき
1960年兵庫県西宮市生まれ。早稲田大学法学部卒業。博報堂クリエイティブプロデューサー、スピーチライター。学生時代から第8次「早稲田文学」学生編集委員、NHK「クイズ面白ゼミナール」のクイズ制作などで活躍。84年(株)博報堂入社。クリエイティブディレクターとして数々のCM作品を手がける。また、明治大学をはじめ多くの大学で講師を務める。15年、朝日小学生新聞でコラム「大勢の中のあなたへ」、コラム「机の前に貼る一行」を連載。著書に『あなたは言葉でできている』(実業之日本社)、『ゆっくり前へ ことばの玩具箱』(京都書房)がある。