トライセクター・リーダーの時代:現代の「宮澤賢治」ストーリー

「お金にとらわれない成長を創る」~里山資本主義・藻谷浩介氏(前編)

第5回 藻谷浩介氏(日本総合研究所 主席研究員)

文:金野 索一 02.10.2016

一般人にとって本当に幸せな経済成長とは何か。こんな疑問に答えようとする考え方が「里山資本主義」だ。提唱者である藻谷浩介氏に、里山資本主義を具現化するためのリーダー像を聞いた。前後編の前編をお送りする。

お金が少なくなっても、あるいはゼロになってしまっても、人が生存し社会生活を営んでいくのに必要な水、食料、燃料は供給され続ける――。このような仕組みがあれば、お金にとらわれがちな現代人は、もっと平和で創造的な生活が送れるのではないだろうか。

お金に依存しなくても社会が維持できる仕組みづくりを提唱している人物がいる。日本総合研究所の主席研究員、藻谷浩介氏だ。

藻谷氏が提唱する「里山資本主義」とは、お金の循環がすべてを決することを前提にした経済システム(いわば「マネー資本主義」)に対して、お金に依存しない経済システムをサブシステムとして構築しようとする考え方である。

その名称から里山資本主義は「現代のマネー資本主義や貨幣経済システムを否定している」という誤解をしばしば耳にするが、そうではない。また「里山」という言葉が付いているため、「田舎暮らしやUターン・Iターンを推奨している」と思われることが多いが、都市での生活を否定しているわけではない。

里山資本主義は、マネー資本主義をメインシステムとして尊重し、そのサブシステムとして新しい仕組みを機能させようというのがその骨子である。森や海、山、あるいは良好な人間関係など、お金で買えない資産をも大切にし、最新のテクノロジーを駆使することによって、お金だけに頼らずに済む社会を構築することを目指している。「簿外資産を活用した活動が、お金に換算できない幸せを増やし、またマネー資本主義における経済システムの安定化にも寄与する」と藻谷氏は説明する。

また藻谷氏は、筆者が各所で訴えている「トライセクター・リーダー」の重要性を併せて主張する。「里山資本主義が実現できれば、マネー資本主義を下支えしたうえで、安定的に循環していく社会が構築できる。そのためには、金野さんが言っておられるトライセクター・リーダーが必要だ」と藻谷氏は主張する。

ここでトライセクター・リーダーのことをあらためてご説明する。トライセクター・リーダーとは、第1セクターである政治・行政(公共)セクター、第2セクターである企業(営利)セクター、第3セクターであるNPO・NGO(非営利)セクターという3つのセクターの枠を越えて活躍する、新しいリーダー像のことを指す。

環境破壊、貧困、高齢化、災害復興など、現代社会が抱えている社会課題の複雑度は増している。そのため、政治・行政だけでも、企業だけでも、NPO・NGOだけでも解決できない。それぞれのセクターは手持ちの資金や専門領域などの都合があって個別の問題を抱えており、得意分野もあれば不得意な分野もあるからだ。

トライセクター・リーダーはそうした各セクターの事情を考慮した上で、各セクターが持つノウハウや人脈などを総合的に取り入れながら、社会課題を解決していく。

すでに、トライセクター・リーダーとして描かれている人材像の一部を体現し、トライセクター・リーダーとして活躍している人材が各所に登場してきている。そうした人材を、本コラム「トライセクター・リーダーの時代」で紹介してきた。

藻谷氏の言う里山資本主義とは何か。なぜ今必要なのか。そしてなぜ、トライセクター・リーダーという役割が里山資本主義の実現に有効なのか。前編・後編の2回に分けて、藻谷氏の主張に耳を傾ける。なお、本稿は筆者が多摩大学経営大学院(MBA)の科目「トライセクター・リーダー論」で開催した藻谷氏との対談イベントを基に、編集・構成したものである。

藻谷浩介(もたに・こうすけ)

1964年、山口県生まれ。東京大学法学部卒業後、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行。92年~94年コロンビア大学経営大学院。2012年より現職。また、日本政策投資銀行特任顧問。著書は多数あるが、中でも特筆すべきはベストセラーとなった『デフレの正体』、『里山資本主義』(NHK広島取材班と共著)(共に、角川oneテーマ21)

藻谷:私は全国を回って市町村ごとの地域経済を調査し、数多くの地方自治体に対して町づくりの提言をしています。その経験から言って、トライセクター・リーダーが必要だということを改めて強く感じました。

本来、行政のリーダーシップというものは、トライセクター・リーダーでなければいけないと私は思っています。

金野:藻谷さんが感じられた、トライセクター・リーダーの必要性について教えていただけますか。

藻谷:典型的な例をお見せします。

都道府県別の空き家率を示したグラフ(提供:藻谷氏)

都道府県別の空き家率を示したグラフをご覧ください。これは2013年のデータですが、実は、日本で一番空き家が多いのは地方ではなく、圧倒的に東京です。

都道府県別の空き家数のグラフ(提供:藻谷氏)

東京の空き家率は11%と低めですが、これは率ですから、数としては東京は多いのです。

総務省が調べたところ、東京には82万軒の空き家があります。日本中の空き家の数は820万軒なので、10軒に1軒は東京にあるわけです。2位が大阪府で、3位が神奈川県、4位が愛知県。大都市ばかりです。

カンパネラナイト