なぜあなたの酒場には客が来ないのか?

繁盛の秘けつは自由でフラット、大阪天満の酒場・けむパー

若い世代と女性を中心に……「新しい酒場」のつくりかた

文:須田 泰成 09.29.2016

若い世代の酒離れが語られるようになって久しい。高齢者が支える古典的な酒場がメディアで聖地化される一方、20代・30代でにぎわう新しい酒場が増えている。大阪の人気店「けむパー」に、若い世代の酒場カルチャーを盛り上げるヒントを見た。

「酒を飲む若者が減った」「酒場に若者が来ない」と嘆く昭和世代の男性は多い。飲食関係者はもちろん、客の立場である中高年の人々も不安を隠せない。自分たちが慣れ親しんだ繁華街や店が寂れつつあるからだ。再開発の影響もあって消えた繁華街や店も少なくない。

酒場を巡る産業と文化の斜陽化は、1990年代から始まっている。階級・階層論の研究を軸に居酒屋をフィールドワークする第一人者・橋本健二氏の『居酒屋ほろ酔い考現学』(毎日新聞社)にその現象が詳しく書かれている。この書籍を読むと、日本全体における居酒屋・ビアホールの売り上げは、バブル経済崩壊直後の1992年をピークに年々減り続け、今から10年前の2006年度には、既にピーク時の4分の3まで落ち込んだと書いてある。

その時期は、非正規社員の割合が増え、勤労者の可処分所得が減り、「1億総中流」と呼ばれた日本社会が大きく変質した時期でもある。

追い打ちをかけるように発生した2008年のリーマン・ショック後、さらに酒場の風景は変わった。「全品280円均一」「飲み放題980円」など、安さを徹底的にアピールしても経営が好転せず、結局店をたたんだというケースは枚挙にいとまがない。

しかし、そのような状況下でも、若い世代でにぎわう酒場が全国の各所に生まれている。今こそ注目すべきは、そんな「新しい酒場」ではないかと筆者は考えた。酒場に若者を取り戻すヒントが転がっているかもしれない。

ひるがえって産業界全体を見てみると、BtoC(消費者向け)のビジネスを手がける企業はいまどこも、20代・30代の顧客が分からないと嘆いている。消費行動の傾向が40代以上とは明らかに違っていて、これまでのマーケティングのセオリーが通用しないことが多いからだ。若者が集う新しい酒場を分析することで、20代・30代向けのビジネスのヒントが得られるかもしれない。

経営者にも、客にも大切な、「あなたの酒場」。なぜ、あなたの酒場には客が来ないのか? どうすればあなたの酒場に客――特に若者がやってくるのか? その分岐点を精査すれば、いろいろなことが見えてきそうだ。

「いまどきの若者」を酒場に呼び込む方法

14時オープンのけむパーは、太陽の日が差している時間からにぎわう。集まる客のファッションが若いのも特徴

こうした問題意識に沿って、今回筆者が選んだ「新しい酒場」は、大阪は天満にある薫製バルの「けむパー」である。全国有数の長さを誇る天神橋筋商店街があり、大阪では1、2を争うグルメタウンとして知られる天満界わい。だがけむパーの立地は、駅から徒歩5分ほど。商店街からも外れており、店の外には阪神高速。見るからに好立地というわけではない。

しかし、そんなけむパーは、平日約80人、休日約120人の酒飲みが訪れる人気店だ。

店主の小林哲さんに話を聞いた。「若者の酒離れが言われてますが、酒場に来る若者、特に女性は、うちの店の実感だと増えてます」とのこと。

その上でこうも語る。「私は大学を卒業してから7年ほどリクルートで営業をしてたんですが、サラリーマン経験があったから、いま、酒場経営をやれていると思います。それに、いまどきの若者を酒場にもっと来てもらうのは可能と思います」

まさに時代に逆行しているようなけむパー。店主の小林さんの話は、実に示唆に富むものだった。

伊東食堂